関根要太郎研究室＠はこだて

京都市下京区の東本願寺御影堂・阿弥陀堂(明治モダン建築探訪・番外編)

◆東本願寺御影堂・阿弥陀堂
　・・・・・明治28年竣工、シャープさが際立つ巨大木造寺院建築


　この数年、定番化しつつある春の夫婦旅行。2015年の門司港・下関、2016年の函館、2017年の神戸と続いて、今回訪問したのが京都であった。
　今年はゴールデンウイークと仕事の定休日が重なってしまうこともあり、1泊2日の短めの旅にしてしまったが、京都の寺社巡りと共に幾つかの近代建築を巡ってきた。そういうことで本日から途中に函館や東京の建築紹介を挟みながら、京都の建築紹介をこちらと別ブログでおこなっていきたい。暫らくのあいだ、古都の近代建築紹介にお付き合い頂けたら幸いである。

　今回の旅行は2日のショートプランだったこともあり、早朝の新幹線に乗車し９時過ぎには京都駅に到着。そして朝の通勤ラッシュが一段落した巨大な京都駅を抜け徒歩で向かったのが、烏丸七条の東本願寺であった。
　京都駅周辺の観光名所というと、世界遺産の西本願寺と東寺(教王護国寺)、千体千手観音立像の三十三間堂(蓮華王院)が有名で、東本願寺は少しスルーされている感が強い。その伽藍の殆どが明治以降に建てられたということが、その理由の一つであろう。しかしながら実は見所の多い建築作品ということもあり、京都旅行の第一の訪問先に選んだ訳である。

　京都東本願寺の歴史は、この地に寺院を開いた江戸初期から四度に渡って起きた火災と、伽藍再建の繰り返しであった。また幕末の元治元(1864)年の禁門の変の際に起きた大火(どんどん焼け)では、本堂、太子堂、渉成園など寺の主要施設の殆どを焼失してしまい、その後の明治維新も重なり、寺院経営も壊滅的な状況までに陥ってしまっている。
　しかし東本願寺は信徒たちの協力もあり、明治13(1880)年には太子堂(御影堂)と、本堂(阿弥陀堂)の再建に着手。そして起工から15年後の明治28(1895)年に、二つの巨大伽藍は落成した。特に寺院北側に建つ御影堂は、国内最大級の木造建築となった。また阿弥陀堂も、国内では屈指の巨大仏殿になっている。

　二つの巨大伽藍であるが、御影堂は名古屋出身の棟梁で、のちに帝室技芸員も務めた九世・伊藤平左衛門(1829～1913)、阿弥陀堂は代々宮家の建築造営に携わってきた、木子一族の木子棟斎(1827～1893)が設計を手掛けた。
　特に九世・伊藤平左衛門は江戸期に東本願寺の大門、明治20年代には札幌をはじめとした北海道6寺院の東本願寺造営に従事するなど、同寺と造詣の深い棟梁であった。ちなみに日本初の鉄筋コンクリート製寺院として名高い、東本願寺函館別院(大正4年築)の意匠も、九世・平左衛門が制作したものである。

　さて今回、烏丸七条の東本願寺を、明治のモダン建築として紹介したかというと、その理由の一つが建物の規模の大きさという理由からである。特に冒頭の写真でご覧いただいた御影堂は、その高さは38メートル。奈良東大寺の大仏殿には高さは負けるが、東京都内に現存する戦前築のオフィスビルと比較すると約7・7メートル高いことになる。
　江戸初期から東本願寺は、現在の御影堂と同様の規模の伽藍を造営してきたそうなので、建築史的な観点から捉えると、さほど新しいことが語られる事はないかも知れない。しかしその後に京都市内に建つ、他の寺院建築を見て回ってみると、東本願寺の御影堂と阿弥陀堂の大きさが、際立っていることを再確認したのである。

　そして東本願寺の和風伽藍の中に、もう一つ隠れているモダンな要素というのが、建物全体のシャープなプロモーションである。御影堂・阿弥陀堂ともに屋根庇を美しいカーブで反らせ、お堂と屋根のバランスも対比が取れ、とても美しいものになっているのだ。
　なお国宝になっている、西本願寺の阿弥陀堂・御影堂などは大きな屋根瓦をそのまま維持するのは難しかったのか、数十本の支柱が屋根を支えているのに対し、東本願寺は屋根の庇が何の障害物もなく天高く飛び出している。これは寺院造営に携わった九世・伊藤平左衛門と木子棟斎が、西洋の建築技術を学習し、この寺院建設にそれを取り入れた結果だったと考えられる。

　世界遺産に国宝建築が当たり前の京都の寺社建築。東本願寺は古さという視点から捉えると、物足りなさを感じるかも知れない。しかし文明開化後の洗練さが加わった、新たな時代の美しい寺院建築だと筆者は考えるのである。
　なお近ごろ、約10年に渡る伽藍全体の修復工事が完了。建物全体のシャープさが以前より更に増していた。京都駅前徒歩3分、久々の京都を早くも堪能できた美しい建築作品であった・・・・・。

◆東本願寺御影堂(大師堂)

　◎設計：九世伊藤平左衛門
　◎施工：直営?
　◎竣工：明治28(1895)年
　◎構造：木造平屋
　◎所在地：京都市下京区烏丸七条上ル
　　❖国登録有形文化財

◆東本願寺阿弥陀堂(本堂)

　◎設計：木子棟斎
　◎施工：直営?
　◎竣工：明治28(1895)年
　◎構造：木造平屋
　◎所在地：京都市下京区烏丸七条上ル
　　❖国登録有形文化財

門前の御影堂門は、明治44(1911)年の竣工。こちにも近年修復がおこなわれ、竣工時の華やかな姿へと蘇った。南禅寺、知恩院、東福寺、仁和寺とともに京都三大門(五大門?)の一つに数えられている。

御影堂前の噴水は、大正時代に作られたものを近年復元したもの。

御影堂は38メートルの高さを誇る。

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神戸市中央区の海岸ビルヂング、旧日濠会館(明治モダン建築探訪)

◆旧日濠会館

　・・・・明治44年築、海岸ビルヂングの名称で親しまれるレトロモダンな作品


　数多くの歴史的建造物が残る、神戸市中央区の海岸通り。その中でも特に有名なのが、地上7階建ての高さを誇る、アメリカン・ルネサンススタイルの旧大阪商船神戸支店(現商船三井ビル、設計：渡辺節、大正11年築)だろう。港町・神戸らしい異国情緒たっぷりのその外観はとても美しく、いつ見てもとても絵になる存在である。

　そして商船三井ビルに劣らぬ人気を誇るのが、その西約300メートルの場所に建つ海岸ビルヂングではないだろうか。商船三井ビルに比べ小規模だが、風格溢れるなかなかの佇まいである。明治44(1911)年に神戸を拠点に日濠貿易をおこなう、兼松商店の自社ビルとして建てられたものである。
　近年はブティック、レストラン、雑貨店、建築事務所などが入居する雑居ビルとなり、そのレトロな内外装も相まってか、多くの人たちが訪れる神戸の隠れた人気スポットとなっている。本日このビルについて考察をおこなうことにしたい。

　このビルを建てた兼松商店は、三井銀行、大阪商船、大阪毎日新聞の事業発展に大いに貢献した、大阪出身の商人・兼松房治郎(1845～1913)が、明治22(1889)年に創業した貿易会社がその始まり。当初は日本とオーストラリア(濠太剌利)の貿易をおこない、会社の発展とともに中国貿易にも着手している。
　そして会社が絶頂期に入りつつあった明治40年代に建てられたのが、このビルだった訳である。また会社代表の兼松房治郎は、長年の日濠貿易の功績が認められ、明治41(190)年に勲六等を叙勲されていた。そして兼松が建てた社屋は、兼松の業績にちなみ日濠会館という名称が付けられたのである。

　その日濠会館の設計を手掛けたのが、この当時神戸を拠点に活動していた建築家の河合浩蔵(1856～1934)である。以前にも紹介したように。河合は議員建築研究のため明治19(1886)年にドイツに渡り、帰国後は東京霞が関の司法省庁舎(設計：エンデ＆ベックマン、明治28年築)と大審院(明治29年築)の建設に従事している。本格的な西洋建築の知識を得た建築家の一人であった。

　河合はその後、明治37(1904)年築の神戸地方裁判所の建設に際し、神戸へと移住。裁判所竣工の翌年には神戸に自身の建設事務所を開設し、大正末期まで神戸・大阪を中心に建築活動をおこなうことになった。神戸に活動の場を移した河合浩蔵。その初期の代表作と言えるのが、相楽園に現存する小寺家厩舎(明治43年築)と、神戸駅の近くにあったミカドホテル(明治39年築)、今回紹介している海岸通りの日濠会館であった。
　どれも神戸に関連する日本人有力政財界人が施主だったのだが、河合の手掛けるクオリティーの高い建築作品を、商売や政治の武器として欲していたかが想像できる。このような日本人たちの頑張りにより、開港都市・神戸は世界屈指の国際貿易都市として発展していったのである。

　日濠貿易のパイオニア・兼松房治郎が建てた兼松商店の本社屋。日濠会館と呼ばれたこの建物は、竣工当初は屋根に豪華なペディメント(三角破風)を持っていたが、昭和20(1945)年3月の神戸大空襲で焼失。その後、陸屋根に改修され現在に至っている。外観に少し物足りなさを感じるのは、そのせいなのだろう。
　建物内も空襲の影響もあってか、竣工時の面影を残す部分は少ないそうだが、戦後70年という歴史を十分に感じられる空間になっている。特に1階から3階に通じる階段は一見の価値がある。

　現在は海岸ビルヂングの名で親しまれている、レトロモダンな旧日濠会館。この前を走る国道や阪神高速の喧騒に押し潰されている感が強いが、見ればみるほどその美しさの虜になってしまう素晴らしい建築作品である。
　阪神高速やメリケンパークがまだない遠い昔には、日濠会館は海からその雄姿がよく目についただろう。海外貿易に燃えた明治商人の熱い思いまでが見えてきそうな、力強い建築作品であった・・・・。

◆旧日濠会館(現海岸ビルヂング)

　◎設計：河合浩蔵
　◎施工：旗手組
　◎竣工：明治44(1911)年8月
　◎構造：煉瓦造3階建て
　◎所在地：神戸市中央区海岸通3-1-5
　　❖国登録有形文化財
　　❖神戸市景観形成重要建築物

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