函館・旧亀井喜一郎邸(建築家・関根要太郎作品研究)その４

◆旧亀井邸の共同設計者・山中節治について
　　　・・・・・建築家・関根要太郎設計作品研究(その４)


　今回の函館・旧亀井喜一郎邸(大正１０年築)の研究報告は、関根要太郎(1889～1959)と共に、この邸宅の設計を手掛けた建築家・山中節治(1895～1952)について、簡単ながら紹介させていただきたい。
　以前にも紹介してきたように山中節治は関根要太郎の５歳下の実の弟で、大正半ばから末にかけて兄・関根と共同設計を手掛けていた建築家。函館に現存する建物だと、この旧亀井邸のほか、末広町の函館海産商同業組合事務所(大正９年築)、同じく末広町にあるイチヤマ商店(大正１１年築)などが、関根・山中兄弟で設計した作品である。旧亀井邸をはじめ、これらの建造物は兄・関根の作品として紹介される事が多いが、当時の作品を調べていくと山中節治の存在を決して素通りする事はできない。

　

　山中節治は明治２８年１月の生まれ、兄・関根と同じく埼玉県の秩父にて育ち、兄の影響もあってか建築家を志し上京。山中がどの時期に上京し、どのような学校へ通ったかなど詳細は判明していない。以前、山中のご遺族にお話を伺ったところ、上京間もなく工業学校で学んでいた山中は当時おこなわれていた建築懸賞競技に入選、ここで建築家の道が開けたと生前よく家族に語っていたという。

　また興味深いのは、大正７(1918)年には山中の単独設計作品が、〔建築画報〕という建築雑誌のグビアページで紹介されている事である。ちなみに山中はこのとき２３歳という若さ。この当時建築家のエリートコースとも言うべき、帝国大学(東大)を卒業した人物でも果たせなかっただろう大抜擢だったと思われる。既に建築家として広い人脈を持っていた、兄・関根の援助もあったとも考えられるが、何よりも山中の実力が早くから評判になっていたのは紛れもない事実だろう。

　そして山中は、自らの設計作品が建築雑誌に発表されたその年、兄・関根が在籍していた〔日本勧業会社建築部〕という建築設計事務所に入社し、正式に兄弟で共同設計を開始する事になったのである。またそれらの設計作品は、関根が既に作品で取り入れていた、〔ユーゲントシュティル〕というモダンデザインを更に進化させた、優雅で美しいものであった。

　さて山中が二十歳そこそこの年齢で、その才能を認められた最大の理由は、やはり絵の上手さの一言に尽きるだろう。その一例として、大正１２(1923)年、山中が２８歳の時に出版した作品集〔建築図案　文化生活と其の住宅〕の図版を下の項に何点か掲載してみた。

　実現した設計案は旧亀井邸の後に函館で建設された、爾見淳太郎邸(船見町、現存せず)、泉泰三邸(元町、現存せず)などごく僅かであるが、この当時〔文化住宅〕と呼ばれた最新の洋風住宅の絵画と解説を家族構成、立地、新築・改築など、様々なシチュエーションでおこなっている。この書籍が出版されてから８０数年が経過しているが、自らの家を建てるというロマンは今も昔も変わらないと思わせてくれる美しい作品集である。

　なお、ご遺族の話によると生前の山中は自らの設計作品を油絵や水彩画にするのを好んでおり、自宅には山中作の建築絵画が所狭しと所蔵されていたという。山中は根っからの建築画家だったのだろう。

　函館の旧亀井邸が建てられることになった大正１０年、施主の亀井喜一郎も関根・山中が制作した建築図案を見て、現在見られるこのデザインに決めたのだろうか。築８０数年が経った今ではその経緯も調べようもないし、その図版も残っていないが、函館の元町に２人の若き建築家が描き上げた美しい邸宅が残っている訳だ。

　山中は元町界隈の美しい風景を見て、どのような思いで旧亀井邸の絵を描いたのだろうかと、この邸宅を見るたび想像してしまう私である・・・・。

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◆山中節治(1895～1952)肖像　〔■J〕

以前、山中節治のご遺族よりお借りした写真の中の１枚。
恐らく旧亀井邸が竣工した大正１０年前後に撮影された写真と思われる。
また関根要太郎、山中節治の弟・山中真三郎も兄と同じく建築家として活動した。

◆某氏邸自動車置場　〔■Ｋ〕

雑誌〔建築画報〕大正７年１月号に発表された山中節治の設計作品。
この頃、山中は２２～２３歳という若さだった。なおこの玉置邸は東京品川にあったという。

※こちらの記載については、青い翼さまのご指摘により訂正させていただきました。
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　　　★山中節治(1895～1952)作品集〔住宅図案　文化生活と其の住宅〕より　〔■L〕

◆日本住宅より様式住宅への改造(試案)
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◆或る芸術家の家(試案)
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◆丘の上の家(試案)
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◆住宅地の街路に面して
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◆簡易住宅案
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◆三角のゲーブルを持つ簡素な家
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★図版・・・・・〔■J〕、山中節治のご遺族からお借りしたもの
　　　　　　　　〔■Ｋ〕、「建築画報」大正７年１月号
　　　　　　　　〔■Ｌ〕、「建築図案　文化生活と其の住宅」山中節治著、大正１２年