元町カトリック教会(函館の建物再見)その１

◆函館・元町カトリック教会、聖堂・司祭館
　　　・・・・大正１０年大火を教訓に再建された鉄筋コンクリート製の教会


　今回は久しぶりに元町カトリック教会を紹介させていただきたい。
　当ブログでは今年９月から、大正１０(1921)年４月には函館で起きた大火以降に建てられた復興建築を取り上げてきたが、この元町カトリック教会もその中の一つである。教会の美しさは勿論のこと、街の両側を海に挟まれるという地形のため度重なる大火に悩まされていた、函館の街づくりの歴史という観点から見ても、この教会は非常に重要なものだと言えるだろう。
　この教会の歴史については色々な書物やサイト等で取り上げられているので、既にご存じの方も多いと思うが、現在見られる聖堂に至るまでの歴史を簡単に紹介していきたい。

　この元町に初代のカトリック教会が建設されたのは、明治８(1875)年ころの事だそうで、これは木造の聖堂だったという。しかし明治４０(1907)年に起きた大火で、この聖堂は焼失したため、今度は煉瓦造りの聖堂を建設したが、大正１０(1921)年にまたもや起きた大火で、この聖堂も外壁を残して全焼してしまった。
　そういう事で、元町カトリック教会は残された煉瓦壁を活かして、新たな聖堂の建設を決定。そこで当時、函館で活躍していた在京の建築家・木田保造(きだやすぞう、1885～1940)に、この改修工事を依頼したのだ。

　木田保造は大正元(1912)年に、現在は『日本初の鉄筋コンクリート製寺院』として知られる元町の東本願寺函館別院(大正４年竣工)の施工を担当する為に来函した、当時は駆け出しの建築家であった。
　これは以前にも紹介したように明治４０年大火以降の函館では、度重なり起きる大火に対し絶対的な耐火建築という定義がまだされていない時期で、この東本願寺別院のように耐火素材である鉄筋コンクリートによる建造物の施工という事例はまだ限られたものだった。しかし、大正１０年の大火で東本願寺函館別院が、当日の猛火のなか無傷だったことで、函館市民の間では耐火素材としての鉄筋コンクリート建築への信頼が生まれるようになり、この大火を境にコンクリート建築が多く造られる事になった訳である。

　そしてこの時の大火で、鉄筋コンクリート建築の重要性を証明した東本願寺函館別院の施工者・木田保造も、これ以降函館で数多くのコンクリート建築の施工を手掛けるようになった。当時、木田保造率いる〔木田組〕では末広町の旧丸井今井百貨店(大正１２年築)、大手町の函館商工会議所(大正１２年築、現存せず)、末広町の北海道拓殖銀行函館支店(大正１２年築、現存せず)など、街の主要建築の施工を手掛けているが、この元町カトリック教会もそのうちの一つであった。
　ちなみに木田保造は元町カトリック教会を、先の拓銀支店と商工会議所と同じ大正１１(1922)年５月より施工に取り掛かっている。当時木田をはじめ木田組の関係者たちは、函館の街を鉄筋コンクリート建築施工のために奔走していたに違いない。

　さて今回紹介している元町カトリック教会だが、木田が同時期に函館で施工を手掛けた作品とは少し勝手が違っていた。というのは、この聖堂はすべてを新築するのではなく、大火で残された部材を活かしつつ、以前より立派なものを作るということ。
　現在、函館の象徴としてお馴染みの鐘楼は木田の施工により造られたもので、こちらは鉄筋コンクリート製。また赤い屋根が印象的な聖堂は、大正１０年の大火で焼け残った煉瓦壁を再生したものである。但し屋根などはこの時の大火で焼け落ちているので、実質新築と考えても良いだろう。また鐘楼右に建つ〔天主公教会〕と書かれた宣教師館は、大正１４(1925)年に木田組により新築されたもので、こちらは鉄筋コンクリート製である。
　また設計者については詳細は判明していないようだが、恐らく宣教師のアドバイスなどを元に木田保造や木田組の関係者が、コンクリート建築仕様にアレンジして施工されたのではないかと私は推測する。

　このようにして、現在みられる元町カトリック教会の姿になった訳だが、信者たちにとって大正１０年の大火で焼け残った煉瓦壁というのは、これまでの長年に渡る祈りが込められた大事なものだったに違いない。だからこそこの煉瓦壁を残し、それを活かし現在の聖堂を建てたのだろう。
　この煉瓦壁はモルタルの奥に隠れるようにして、人々の信仰を今日も支え続けている。だがこれは、来年函館でおこなわれようとしている歴史的建造物のレプリカ再生とは、意味合いの全く違うものである・・・・・。

◆元町カトリック教会、聖堂・司祭館
　　◎設計：不詳
　　◎施工：木田保造(木田組)、大正１０年大火後の増改修工事を担当
　　◎竣工：聖堂・・・・・・・明治４０(1907)年ころ
　　　　　　　鐘楼・・・・・・・・大正１２(1923)年
　　　　　　　宣教師館・・・・大正１４(1925)年
　　◎構造：煉瓦造りモルタル塗り(聖堂)、鉄筋コンクリート造り(鐘楼、宣教師館)
　　◎所在地：函館市元町１５‐３０

★大正１０年大火直後の元町カトリック教会
　〔※「建築雑誌」大正１０年１２月号『函館市の火災報告』より〕

火災のため、煉瓦壁がかろうじて焼け残った元町教会。この後、この部材を活かして木田保造率いる木田組が増築工事をおこなった。
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★元町カトリック教会をゆっくり見学
★元町カトリック教会と東本願寺函館別院

東本願寺函館別院は、木田保造の施工により大正４年に竣工した鉄筋コンクリート製寺院。
カトリック教会と東本願寺、木田は元町の宗教エリアの主要建築の施工を２軒手掛けることになった。
★司祭館

ハリストス正教会の敷地より撮影。
写真右奥に写る巨大な建物は、旧安田倉庫の跡地に建てられたホテル。
函館西部地区には建築の高さ制限が設定されているのだが、その保護地域から少しばかり外れている事で、このような高層ビルが建設されてしまっている。高さ制限がない地域とはいえ高層ビルが建設されると、坂上からの景観はご覧のような有様に・・・・。

★門柱

こちらは煉瓦製。明治40年代に聖堂が竣工した当時に作られたものと推測される。

★玄関

こちらは明治期に建てられた聖堂部分。一般の見学は大正期増築の鐘楼下から入る。
外壁にはモルタルが塗られているが、この下は煉瓦造りなのだそう。

★鐘楼下の玄関

大正期、木田保造より増築された鐘楼の入り口部分。こちらは鉄筋コンクリート製。
既にステンドグラスは新しいものに取り換えられたが、この花模様と同様のデザインが教会各箇所の装飾に用いられている。じっくりとお探しになって頂きたい。

★ルオー作？のキリスト像

こちらは鐘楼下の玄関に飾られたキリストの肖像。
身内では、フランスの画家：ジョルジュ・ルオー(Georges　Rouault、1871～1958)と作風が似ていることから、『ルオー？のキリスト画』と呼んでいる。ちなみに以前の鐘もフランスから贈られたものなので、こちらもフランスから贈られたものの可能性が大・・・・？。

★聖堂入口

一般参拝者の撮影が許可されているのは、ここまで。
また聖堂内はローマ法王から寄贈された祭壇や、リブヴォールト天井などが美しい。こちらは実際に訪れて堪能してください。内部もとても美しい教会です。

★元町のギャラリー店内より

また今回は紹介したい写真が多くあったため、引き続きその２でも元町カトリック教会の紹介をおこなっております。
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★参考文献・・・・・「はこだて歴史散歩」北海道新聞社編、昭和５７年
★撮影・・・・・２００４年１月、２００７年３月、２００８年２月・７月