旧金森一二堂・三星堂(函館末広町レトロ建築コレクション)

◆旧金森一二堂、旧金森三星堂
　　　・・・・末広町に現存する明治築と大正築の耐火建築


　函館は、明治から昭和初期に建てられた洋館(近代建築)が数多く現存している街である。またその当事者である函館市も、それを売りにして観光誘致を積極的にされている。
　但し、函館市が観光パンフレット等で紹介しているのは、ほんの一握りで、その他の歴史的建造物は少し忘れかけられた存在に追いやられているのが現状のようだ。だが、観光ガイドに紹介されない建造物や街並みに、函館の魅力が凝縮されていると私は常々思っているのだが・・・・。

　そして今回紹介するのも、そのような風景の一つ。末広町の市役所分庁舎(アクロス十字街)前に建つもので、地元の方や函館に旅行で訪れた方も必ず通るであろう場所にある。冒頭の写真をご覧になって、この建物を思い出された方もいらっしゃるのではないかと思う。
　あまり知られていないようだが、右手の白壁に三角屋根の建物(大二物産)は、明治２７(1894)年ころに、現在はベイエリアの赤煉瓦倉庫でお馴染みの金森(渡辺合名会社)の小売店・三星堂として建てられたもの。そして左手の小ぶりな３階建ての建物(本郷計量機)は、大正１１(1922)年にやはり金森の書店・一二堂として建てられたものである。
　何気ない街の生活の日常と同化している建物だが、実は築１１０年と築８０数年の歴史的建造物。観光名所である元町の教会群や公会堂、ベイエリアの赤煉瓦倉庫や明治館に比べれば派手さこそないが、函館の建築史を語る上ではとても貴重な作品である。

　金森(渡辺熊四郎)についてはベイエリアの赤煉瓦倉庫のイメージが強いが、海産の倉庫業のほか小売事業を積極的に展開していた会社で、明治期より末広町をはじめ函館の繁華街に多く店舗を展開していた。例えば現在は郷土資料館として使われている末広町の金森洋物店もその一つで、大正末の竣工になるが２００１年に解体された日和坂下の旧森屋百貨店(大正１４年築、昭和５年増築)や、日和坂下に現存する高田印刷・文具店(大正１４年築)も当初は金森回生堂として建てられたものである。函館の市街地には他にも金森の商店があったようだが、この旧三星堂(大二物産)は現存する数少ない金森の建物である。

　そして旧三星堂(大二物産)は煉瓦造りで、昭和９(1934)年の函館大火直後に改修されて現在のような外観になったようだが、もとは金森洋物店(郷土資料館)に似た洋風と和風の蔵造りをミックスした意匠だった。これは以前にも紹介させていただいたが、明治１０年代から開拓使は函館でたびたび起きる大火の防止策として煉瓦建築を奨励しており、その制度を適用して建てられたものと推測される。つまり函館における耐火建築の初期的作品の一つなのである。
　続いて左の旧一二堂(本郷計測機)は、大正１０(1921)年に起きた函館大火の翌年に建てられたもので鉄筋コンクリート製。これもたびたび紹介させていただいているが、当時金森の小売部門の代表を務めていた３代目・渡辺熊四郎は、函館における鉄筋コンクリート(耐火建築)の奨励者ともいえる人物で、自ら経営する店舗も鉄筋コンクリートで建設した訳である。また設計・施工は、３代目・渡辺熊四郎と縁が深かった建築家・木田保造(1885～1940)率いる木田組が手掛けたと考えられるが、それを裏付ける資料は残念ながら見つかっていない。

　言われなければ通り過ぎてしまいそうな２軒の建物ではあるが、実を言うと明治と大正の耐火への戦いの歴史を知ることができる貴重な建物なのだ。両方とも現役の事務所として使われており、この先も健在であるに違いない。

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◆旧金森三星堂(現・大二物産)　〔△１〕　　
　　◎設計：不詳
　　◎施工：不詳
　　◎竣工：明治２７(1894)年ころ
　　◎構造：煉瓦造り３階建て
　　◎所在地：函館市末広町１０‐３
◆旧金森一二堂(現・本郷計測機) 〔△１〕
　　◎設計：木田保造(木田組)？
　　◎施工：木田保造(木田組)？
　　◎竣工：大正１１(1922)年１１月
　　◎構造：鉄筋コンクリート３階建て
　　◎所在地：函館市末広町１０‐３

◆旧金森一二堂(左、現本郷計測機)と旧金森三星堂(右、現大二物産)

ここ数年ですっかり様変わりした末広町・十字街界隈だが、この２軒の建物は健在。
築８６年と、築１１０年のレトロ建築だ。

◆旧金森三星堂と消火栓
◆金森一二堂の新築広告　〔△３〕

〔函館毎日新聞〕大正１１年１１月４日号より。
当時の金森(渡辺合名会社)代表の３代目・渡辺熊四郎は、慶応元年に函館に生まれ、明治１２年に金森に入社。明治２６年に三星堂の営業を任され、その年渡辺家の養子になる。その後、金森を発展させ大正５年に３代目を襲名。明治末から昭和初期における函館のリーダーともいえる商人となった人物だ。

◆竹田洋品店(昭和９年築)

こちらは先の２軒の建物の一軒おいて左隣に建つ洋品店。
昭和９年の函館大火後に建設されたもので、その当時より洋品店として使われている老舗店舗である。

◆旧丸井今井百貨店の４階より

市役所分庁舎が移転してまもない２００３年１１月に、知り合いの方の依頼によりテレビドラマのエキストラに参加した際に撮影したもの。
古い絵葉書には、この角度から撮影されたものも数多くある。

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★図版・・・・・・・・〔△１〕、「函館市制実施記念写真帖」円山貞吉編、大正１２年
　　　　　　　　　　〔△３〕「函館毎日新聞」大正１１年１１月４日
★参考資料・・・・「函館毎日新聞」、「函館市誌」昭和１０年・函館日日新聞社刊
★撮影・・・・・・・・２００３年１１月、２００４年６月、２００７年３月、２００８年７月