旧松下毛皮店、平安貸衣裳店(函館末広町レトロ建築コレクション)

◆末広町の旧松下毛皮店
　　　・・・・今は亡き、大正１０年函館大火の復興建築


　今年の９月より大正１０(1921)年函館大火後の復興事業をテーマに、当時建てられた耐火素材である鉄筋コンクリート建築や、復興事業に携わった建築家たちの函館における活動を紹介してきた。そして本日からは、これと同じ頃に末広町に建てられた復興建築の数軒ほどを紹介していこうと考えている。

　これは以前にも何回か紹介させていただいたが、大正１０年の函館大火直後にこの街の有力商人や地主らによる〔火防設備実行会〕が結成されている。この委員会は火災発生時に火災の類焼を最小限に防ぐ事を目的に、鉄筋コンクリートをはじめとする耐火建築群の建設を提案、そしてこの案は当時の函館区議会(・・・・・大正１１年まで函館は区政を実施していた)を通過している。また、この耐火建築群の実現に対し、函館区は低利子による貸付金などの補助制度を設定する事により、耐火建築の建設を奨励した。そして函館銀座通りの鉄筋コンクリート建築をはじめとする耐火建築群が形成される事になったのである。
　また銀座通りに比較すると完全な耐火建築群ではなかったものの、現在の市電・十字街電停より大三坂下の周辺にも鉄筋コンクリート製の建物が数多く竣工。海産業で大いに賑わっていた当時の函館を代表するモダンストリートになった。

　この当時の建物は昭和９(1934)年に起きた大火や、時代の流れにより徐々に失われていったが、今から数年前まで現存していたのが今回紹介する旧松下毛皮店だ。場所は函館山ロープーウェイ乗り場がある南部坂を下った場所にあり、解体直前はレンタル衣装の店舗として使われていた。

　大正１１(1922)年築のこの建物は、昭和９年３月２１日に起きた大火でも周辺の建物が内部を焼失してしまったなか、このときの猛火を耐え抜いた建物であったが、〔アクロス十字街〕という市役所の分庁舎と商業施設の複合ビル建設のために、平成１３(2001)年に解体されている。

　下に竣工当時の写真を掲載したが、当時は玄関中央にセセッション風のカーブを描いた破風が付き、この向いに建つ旧丸井今井百貨店(大正１２年築)と共に函館末広町を代表するモダン建築だったと想像される。残念ながら、この当時に函館で建てられた耐火建築群と同様に設計者・施工者は判明していないが、当時の函館の復興に携わった建築業者たちの設計センスが伺えるのではないだろうか。
　
　また旧松下毛皮店(平安貸衣装店)から十字街電停付近までは、かっては風情のある街並みを形成していたが、〔アクロス十字街〕が建設されすっかり様変わりしてしまった。この一帯は昭和９年の大火後に建てられた復興建築も数多くあり、大正１１年築の旧松下毛皮店を含め函館の火災との戦いの歴史ともいえる街並みでもあったのである。
　現在は染み一つない巨大で無機質な建物が鎮座しているが、残念ながらこの建物には情熱に溢れた函館のこれまでの歴史を語ることはできないような気がする・・・・・。

◆旧松下毛皮店、平安貸衣装店　　〔△１〕　　
　　◎設計：不詳
　　◎施工：不詳
　　◎竣工：大正１１(1922)年
　　◎解体：平成１３(2001)年
　　◎構造：鉄筋コンクリート３階建て
　　◎旧所在地：函館市末広町５(南部坂下)

◆南部坂下より

右は市役所分庁舎時代の旧丸井今井百貨店。写真左が旧松下毛皮店。
１９９９年５月撮影。
◆大正末の観光絵葉書より　〔△２〕

南部坂下より十字街方面を写したもの。写真右手が旧松下毛皮店。昭和９年の大火ではこれらの建物の殆どか焼失・倒壊してしまった。

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★十字街の記憶・・・・２０世紀末の写真から
◆十字街電停より

写真中央の白い建物が旧松下毛皮店。写真左のベルハウスのシャッターが下りた建物は、昭和９年大火直後に建てられたもののようだ。
１９９９年５月撮影。

◆お菓子の三ツ源

十字街の角にあったお菓子屋さん。この建物も昭和９年大火後に建てられたものと思われる。黄土色のタイルが、十字街のランドマーク的な雰囲気を漂わせていた。
１９９８年２月撮影。

◆十字街交差点より宝来町方面を望む

アーケードの付いた商店街。１９９８年２月撮影。
１９９９年５月撮影。

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★図版・・・・・〔△１〕「函館市制実施記念写真帖」円山貞吉編、大正１２年
　　　　　　　　〔△２〕筆者所有絵葉書より