函館銀座通り・レトロ建築コレクション(その８、宝来パン本店)

◆銀座通りの宝来パン本店
　　・・・・・破風の造りがユニーク、大正築の老舗パン屋店舗


　本日紹介する函館銀座通りのレトロ建築は、現在〔宝来パン〕という老舗パン屋の店舗として使われているもの。前回・前々回に紹介した天満つ蕎麦店と、旧マルダイストアーの間に建つが、銀座通りに現存する戦前築の建物の中でも大規模なものといえるだろう。

　この建物も今まで紹介してきた銀座通りの建物と同様、大正１０(1921)年４月に函館西部地区で起きた大火後におこなわれた函館区主導の復興事業の一環として、耐火素材である鉄筋コンクリート製により建てられたもので、築８０数年を迎えるレトロな建築である。重厚ながら凛とした雰囲気を漂わすこの建物、いつ見ても格好がいい。
　この建物、現在は右側がパン屋さん左側が食堂として使われているのだが、昭和８年の商店地図を見ると〔鈴木時計店〕と〔宝来パン店〕の店名が記されている。つまり昔からこの建物で商売をされている銀座通りの老舗商店なのである。

　そしてこの建物のデザインで面白いのが、３階上の破風のデザイン。いつもこの建物を見るたび、子供のころ端午の節句でよく作った折り紙の兜を私は思い出してしまうのだが、皆さん何を思い浮かべただろうか・・・・・？。
　また大正末から昭和初期に撮影した銀座通りの写真を見ると、この宝来パン店の建物のようにユニークな形をした破風を持つ建物が多く見受けられる。例えばこの時期、函館で活躍していた建築家・関根要太郎が設計した建物のように、当時の西欧のモダンな作風に影響を受けたものではなく、いかにも日本人らしい独特の風合いが漂った造形なのである。
　ちなみにこの時期、函館銀座通り・末広町・十字街周辺には鉄筋コンクリートをはじめとする耐火建築が一斉に建てられていた訳だから、銀座通りに耐火建築を建設していた施主たちは周りに建てられる他の商店を見て、各店独自の「こだわりのワンポイント」を入れていたのではないかと私は想像する。当時のモダン建築の主流から少し脱線したようなユニークなデザインではあるが、かえって当時の街の人達の意気込みが感じられるような気がしてしまうのだ。

　この建物が造られたのは大正の後半だが、コンクリートという最新の文化の中に日本人らしい独特の風合いを漂わせているのも、この時代らしいし、西欧と日本の文化の間を揺れ動いていた函館らしいとも思える。観光ガイドに紹介されない無名な建物にこそ、この街の魅力が凝縮されていると私は考えるのだが・・・・。
　
◆宝来パン本店
　◎設計：不詳
　◎施工：不詳
　◎竣工：大正１１(1922)年ころ
　◎構造：鉄筋コンクリート３階建て
　◎所在地：函館市末広町７‐１５

◆宝来パンの店舗内

店内には昭和５０年代の人気アイドルのポスターが・・・・・。
大正レトロな外観に対し、昭和の懐かしい雰囲気が漂う。

◆数年前の宝来パン本店

冒頭の写真と同じアングルになってしまったが、５年前に撮影したもの。
右隣の小料理屋の建物も既に取り壊されている。

◆建物正面

雨に濡れて分かりにくいが、建物破風中央には植物模様の浮き彫りが施されている。
◆今年初頭に撮影した末広町７番地周辺

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★参考文献・・・・・「月刊　はこだでい」平成３年創刊号〔特集　レトロ函館・銀座通り〕
★撮影・・・・・・２００３年１月、２００４年６月、２００７年３月、２００８年２月・７月