函館市立青柳小学校(函館の建築紹介)

◆函館市立青柳小学校・校舎
　　・・・・・建築家・小南武一設計作品探訪(その１)


　先日お知らせしたように、今回から昭和９年３月に発生した函館大火後に同地の復興事業に尽力した、建築家・小南武一(1897～1976)が課長を務める函館市建築課が設計を手掛けた、同市に現存する復興建築作品を紹介していきたいと思う。
　現在校舎の解体が問題になっている函館市立弥生小学校(昭和１３年竣工)も、昭和９年大火後の復興事業の一環として小南の設計により建てられたものだが、現在の弥生小校舎建設の経緯を知るためには、これらの建造物を知ることも重要かと思い、先日の函館訪問ではこれらの建物を巡ることにした。また帰京後の資料調査では十分といえるものが集まらず、不足な箇所が多い事を最初にお断りしたい。

　そして今回紹介させていただくのは、函館市青柳町にある市立青柳小学校(竣工当初は住吉小学校という名称)。函館市は昭和９年の函館大火後、内務省の指導により、この時の大火で焼失した区域に火災発生時の避難場所となる鉄筋コンクリート製の校舎５校の建設を決定した。その中でいちばん最初に竣工したのが、市内高盛町にある高盛小学校と青柳小学校であった。

　これまでに紹介してきたように、小南武一は大正末に函館市建築課職員として招聘されてから、現存するものだと函館市立図書館、 函館市公民館 、また現存しないものだと旭中学校(昭和４年築)をはじめとする数々の函館市の公共建築を手掛けてきたが、昭和９年大火後におこなわれた復興事業は、これまでの建築設計とはかなり意味合いの違うものだったと想像できる。また昭和９年の函館大火発生直前には終結した函館水電買収問題〔※２〕を含め、この当時の函館は一時の街全体の活気を失いつつあった時期でもあり、復興小学校の建設を街の新たな希望の糧にしたかったのではないだろうか。

　そして青柳小校舎竣工を伝える当時の新聞記事は、次のような紹介がされている・・・・・。
『漸やく出来た理想的小学校舎　チャチな大学などは顔負け』

当時の新聞らしく少し大げさな見出しではあるが、記事内では設計者である小南による『東北・北海道きっての小学校建築』という自評も添えられており、小南にとって自信に満ちた復興小学校の第一作目であった事が伺える。

　また校舎は多少改修はされているようだが、ほぼ竣工当時からの原型を保っているようだ。東面にグランドを置き、L字形に配置された校舎は、現在でも開放的かつ健康的な印象を受ける。また校舎の配置もかなりユニークなものになっているようで、小南が練りに練ってこの校舎を設計したのではないかとも想像してしまった。
　このときは校舎廻りの並木が生い茂って撮影できなかったが、青柳坂(聖天坂)上から見下ろす青柳小の姿はモダン建築そのものであり、小南の設計センスの良さが伺える。私はこれまで後の増築でこのような姿になったものだと思い込んでいたが、この校舎について調べていくうちに今更になって函館の名建築という事を気づかされてしまったのである。

　あと少し余談になるが、ＮHKテレビで放送された日本の童謡『電車』(♪運転手は君だ、車掌は僕だ～、というあの歌)のロケにも、青柳小の校庭や校舎が使われていた。昭和のモダンな作風の校舎ながら今の時代では懐かしい雰囲気というのも、この歌に見事にマッチしていた。このような雰囲気こそ、これから函館が伝えていく大切な財産ではないかと、このテレビを見ながら私は思ってしまった・・・・・。
　
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〔※２、函館水電問題〕・・・・・大正期より函館の電気事業、路面電車・バス運行をしていた函館水電株式会社は、創立当初は将来的に函館市への経営譲渡を約束。しかし事業の発展に伴い会社側は市への売却を拒否し続けたため、昭和８年当時の函館市長・坂本森一、同市議・泉泰三が中心になり、電気の配給拒否や料金支払い拒否など市民とともに会社への反対運動を展開。
昭和９年３月の函館大火発生直前にこの問題はひとまず解決したが、市民にはこれまでの支払い拒否した間の電気料金の全額支払など頭の痛くなる結末になってしまっている。
　
◆函館市立青柳小学校(住吉尋常小学校)校舎
　◎設計：小南武一(函館市建築課)
　◎施工：森川組
　◎竣工：昭和１０(1935)年１２月
　◎構造：鉄筋コンクリート３階建て
　◎所在地：函館市青柳町２２
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●竣工当時の新聞記事　〔出典：A〕

昭和１１年１月〔函館新聞〕より。写真が小さく少し見づらいが、青柳坂(聖天坂)上から撮影したもの。なお記事の内容は、昭和９年の大火後、校舎の慢性的不足を伝えるもので、昭和１０年１２月に落成した青柳(竣工当初の名称は住吉小学校)・高盛(竣工当初の名称は大森小学校)両校に他校も校舎を間借りし、膨張状態になってしまっているというもの。また昭和１１年～１３年にかけて弥生小学校をはじめとする４校の校舎が落成し、この問題は解決されている。
●上の２枚：グランド側から見た青柳小学校の校舎

坂下にあるグランド方面より撮影。校舎は体育館を含めコの字型に一本足を付けたようなユニークな形になっている。恐らく火災発生時の風向き、季節によっての日照などを考えてこのような形になったと考えられる。

青柳坂上より●青柳(住吉)小学校の竣工記事　　〔出典：B〕
※青柳小は現在も現役の校舎として使われています。見学に際してはマナーを守った行動をくれぐれもお願いします。
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〔出典：A〕・・・・『函館新聞』昭和１１年１月１１日記事より
〔出典：B〕・・・・『函館新聞』昭和１１年１月１７日記事より
※撮影・・・・２００９年３月・６月(差し替え)