旧京都中央電話局西陣分局舎（大正モダン建築探訪）

◆旧京都中央電話局西陣分局舎
　　・・・・・若き建築家が大正時代に遺したモダン建築の傑作


　今回紹介するのは京都にある旧中央電話局の西陣分局舎。現在はNTTの事務所として使われているこの建物だが、日本のモダン建築の代表作と誉れ高い作品だ。

　大正・昭和初期に建てられたモダン建築ファンである私も３年前の夏、はじめてこの建物を訪れた。この日はこの旧西陣分局舎と同じく、大正モダン建築の傑作といわれる旧西陣織物館を見学したあと、堀川通りを南へ下り京都の裏名所？といわれる一条戻橋から道幅の狭い道をジクザグに進んでいく。一条戻橋からは、いかにも京都らしい雰囲気の邸宅や、近年建てられたと思われる新しいマンションなどが多くあったが、この建物は他の建築にはない独特のオーラを放って建っていた。遠くからこの建物が見えた瞬間、こちらが勝手に引き寄せられるような感覚だったのを今も覚えている。

　この旧京都電話局の西陣分局舎は大正11(1922)年に、建築家の岩元禄(1893～1922)の設計により竣工したもの。冒頭の写真でご覧いただいたように、建物の正面には三体の裸婦のトルソーが載り、その上には踊り子のようなパネルが張り詰められているのだ。当時の時代ではかなり過激な作品だったに違いない。

　この建物の設計者である岩元禄は東京帝国大学卒業後に逓信省に入所し、はじめて設計を担当したのが旧西陣分局舎だったそう。建築を『精神的遊戯』と定義した岩元は、この建物が竣工した年に２９歳の若さで亡くなってしまうのだが、後輩建築家たちに与えた影響は数多いと建築史ではよく紹介されている。

　岩本設計の西陣分局舎竣工以前にも、日本の建築界には関根要太郎(1889～1959)をはじめ、20世紀初頭にヨーロッパで大流行したモダン建築のエッセンスを取り入れてた建築家はいたが、この岩元は更にそれを具体化させた建築家といえるだろう。解説するのが苦しくなってきたが、建築に芸術的な要素を多く取り入れたのが、この岩元禄という建築家だったようだ。

　そしてこの建物、建物正面の裸婦像や踊り子のパネルばかりに目を奪われてしまうが、建物全体もスマートでとてもモダンな雰囲気。例えば建物正面のトルソーやパネルが他のデザインや模様だったとしても、傑作と評価されたに違いない。
　ちなみに岩本禄は、西陣分局舎竣工後に設計を担当した東京青山電話局(大正11年)にも、西陣と同様の裸婦像を取り付けようとしたが、逓信省の上役から却下されたという逸話も残されているという。少し勝手な推測になってしまうが、大正時代としてはかなり過激な裸婦のトルソー、建築家・岩元禄の自分の設計作品を多くの人に注目を集めさせる、ダメ押しの手段だったのではないかとも想像してしまった。

　このとき以来、京都は久しく訪れていないが、大正期に若き建築家が遺した少し過激な建築作品でも、街並みの一部として受け入れている京都の懐の深さというものにはつくづくと感心させられる。でも目先の利益のみ追求するような現代の建築とは違い、作った側の情熱があったからこそ、現在までこの建物は残っているのかなと思えてきてしまった。
　
◆旧京都中央電話局西陣分局舎（現NTTみやこ支店西陣別館事務棟）
　◎設計：岩元禄（逓信省技師）
　◎施工：安藤組
　◎竣工：大正11（1922）年
　◎構造：鉄筋コンクリート２階建て（一部３階建て）
　◎所在地：京都市上京区油小路通中立売上ル甲斐守町97
　　❖国指定重要文化財

建物正面の裸婦像。裸婦像の上には踊り子のようなパネルが。南アジアなどを連想してしまうデザイン。
建物東側には無装飾な列柱(オーダー)が並んでいる。このような無装飾のオーダーもこの時代としては新しい感覚のデザインだ。
正面右上には口が開いたライオン像が取り付けられている。
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※参考文献・・・・『図面でみる　都市建築の大正』鈴木博之氏、初田亨氏編
※撮影・・・・・・・・２００５年８月、2010年1月