秩父の秩父館(建築家・関根要太郎の故郷を訪ねる)その１

◆秩父の秩父館(ほっとすぽっと秩父館)
　　・・・・・建築家・関根要太郎ゆかりの旧和風旅館
　　　　〔なお上の写真をクリックして頂ければ、大きな画像でご覧になれます〕


　〔旅泊余滴、秩父の秩父館〕

久しぶりで郷里秩父に行く。上越線の熊谷駅に下車、秩父鉄道に乗り換えて、荒川の清流激端に心奪われているうちに、何時の間にか美しい山々に囲まれた盆地秩父に着く。此の町は中央に別格官幣秩父神社の千古の密林を抱いて細長い町である。
素朴な田舎の都会も今日ではネオンの光も輝いて、新時代の波は可なりな勢いで流れ込んで居る。曾ては泥合戦をした背戸の田圃や畑には、何々製糸工場の数々と秩父セメント工場まで出来て、煙突と無数の家が建ち塞がり、面目は一新されて終った。
その中にあって、鉄道の無かった昔から不思議に変わらない秩父館という旅館がある。この宿は祖父時代に建てられたまま、間取り計りでなく其の経営振りにも大した変化がなく、素朴にも奇しくしき存在である・・・・・。
　　　　　　　
　※『日本建築士』昭和１１年１０月号より　　
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　まず最初に紹介させていただいたのは、埼玉県秩父出身の建築家・関根要太郎(1889～1959)が４７歳(昭和１１年)に、『日本建築士』に発表した秩父館の紹介記事の一文である。
　関根は建築家という職業がら出張が多かったようで、その際に宿泊した旅館やホテルの様子を当時所属していた日本建築士会の機関紙に『旅泊余滴』と題し度々発表していたが、秩父へ帰郷した際に宿泊・取材したのが、この秩父館だった。少しよそよそしく話を進めてしまったが、秩父館は関根の実家であり、帰郷したついでに実家の老舗旅館を紹介した訳である。

　ちなみに関根家は江戸時代より、関東と甲州や上州を結ぶ〔秩父往還〕という街道沿いで旅館業(旅籠)を営んでいたが、明治１０年初頭に起きた大火でそれまでの建物が焼失。そして近くにあった豪農の屋敷の部材を譲り受け、明治12(1879)年に再建されたのが冒頭の写真でご覧頂いた現在の建物だ。
　また秩父館は十数年前より休業状態だったが、昨年(平成19)年に地元の〔みやのかわ商店街・振興会〕と、地元出身の建築家・根岸俊雄氏により再生活用が決定。同年の夏より建物の一部の修繕工事がおこなわれ、昨年１２月に地元の振興および観光施設〔ほっとすぽっと秩父館〕としてリニューアルオープンの運びになったのである。

　私も毎年１２月におこなわれる〔秩父夜祭り〕のとき、新しく生まれ変わった秩父館に訪問するつもりでいたのだが、ちょうど当日に風邪を引いてしまい泣く泣く断念。
　そして今年の５月下旬、久しぶりに秩父館を訪ね、家主である関根さんのご好意により建物内の写真を幾つか撮らせていただいた。そういう事で、次回から３回ほど新たに蘇った秩父館の建物内外の様子を紹介してみようと思う。
　また今回は少し余計かも知れないが、秩父の雰囲気を掴んでいただくために、秩父の風景を何点か掲載してみた。

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　★秩父の風景
◆秩父の霊峰・武甲山

秩父の象徴ともいえるのが標高・1304メートルの武甲山。日本武尊の伝説で知られるこの山も、セメントの材料である石灰採掘のために山肌が大きくえぐられ、無残な姿になっている。
幼少期の関根もこのような田圃で泥合戦したのだろう・・・・・。

◆秩父神社

秩父館のすぐそばにある秩父地方の総社。１６世紀末に建てられたという社殿の装飾が見事。

◆旧秩父橋(昭和６年竣工)

昭和はじめに架けられたアーチ橋。下に流れるのは荒川。

◆秩父セメント第二工場(昭和３１年築)

江戸期より養蚕業・林業で栄えた秩父だったが、昭和に入り全盛を極めたのが武甲山の石灰採掘によるセメント製造業。その象徴ともいえるのが、秩父セメントの工場群。
ちなみにこの工場の設計は、東京日比谷の帝国劇場や、東京上野の国立博物館東洋館などの設計で名高い谷口吉郎(1904～1979)によるもの。

◆旧秩父繊維工業試験場(昭和６年築)

セメントと並ん大正・昭和初期の秩父を支えたのが繊維業。またこの時代〔秩父銘仙〕は全国的なブランドとして親しまれた。
またこの工業試験場は現在〔秩父銘仙館〕として再生活用されている。
◆秩父郊外にある農家の蔵
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◆秩父館(ほっとすぽっと秩父館)
　◎設計：不詳
　◎施工：不詳
　◎竣工：明治12(1879)年
　◎構造：木造２階建て
　◎所在地：埼玉県秩父市宮側町１８‐２
　　❖平成20年：彩の国景観賞2008受賞　


こちらの写真は、2003年に撮影したもの。また下の写真は『日本建築士』に関根が発表した秩父館の写真。関根が撮影したものと思われる。
※図版：『日本建築士』昭和11年10月号より
★秩父館の２階より

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※撮影：２００３年１１月、２００４年２月、２００８年５月、2009年7月（再撮影）