函館市立病院外来診療棟建設(建築家・関根要太郎作品研究、３)

◆２・病院の建設資金寄付者・渡辺孝平について
　・・・・・建築家・関根要太郎、山中節冶作品研究
　〔冒頭の写真：函館基坂にあった函館市立病院外来診療棟、大正１０年竣工・・・図版‐G〕


　先日からはじめさせていただいた建築家・関根要太郎(1889～1959)、山中節冶(1895～1952)設計による函館市立病院外来診療棟(大正１０年竣工、昭和３０年代に解体)の研究レポート。
　今から87年前に建てられ、既に取り壊されて半世紀近くの年月が経とうとしている建物の話というのもあまり説得力がないような気もするが、今回はこの病院の建設資金を寄付した一人の海産商を簡単ながら紹介したい。その海産商の名は二代目・渡辺孝平(1876～1939)。この渡辺は、現在はベイエリアの赤煉瓦倉庫再生活用で有名な金森商船(当時は金森合名会社)の船舶部門の代表を大正期から昭和初期に務めていた人物である。
　
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★『婿殿』海産商・渡辺孝平の意地？、市立病院建設資金寄付
　〔上の写真：函館市立病院外来診療棟跡地から旧函館区公会堂を見上げる〕　
　
　函館の観光名所として知られる基坂 といえば、坂上に建つ旧函館区公会堂(明治43年築)があまりも有名である。また旧公会堂といえば、建設に際し当時函館一の豪商だった相馬哲平(1833～1921)が多額の寄付をした事でもよく知られている。
　この相馬哲平は函館の文化事業にも多額の寄付してきた人物で、函館一の豪商らしくかって函館の一等地であった基坂に旧公会堂をはじめ、坂の中程には自邸を構え、坂下には自らの店舗事務所を構えている。実際にこの基坂に訪れ、坂上の公会堂と坂下の相馬株式会社の店舗を見てみると、函館のかっての主が誰だったのかを痛感させられると思う。

　ちなみに建築家・関根要太郎がはじめて函館へ訪れた大正なかばというのは、第一次世界大戦を機に海産・海漕業などで全盛を迎え、相馬以外の函館の海産商たちもこぞって地元の文化事業に惜しみない寄付をしていた時代でもあった。またこの頃、基坂中腹にあった函館区立病院に新しい外来診療専用の病棟を建設しようという話が持ち上がっており、新病棟の建設資金の寄付を申し出たのが、二代目・渡辺孝平(本名・三作)だったのである。
　この渡辺孝平は、現在ベイエリアの赤煉瓦倉庫でお馴染みの金森商船の創業者である初代・渡辺熊四郎(1840～1921)の娘婿。また大正期の金森は商船部門と、現存する金森洋物店のような小売販売部門に分かれていたが、二代目・渡辺孝平は主に商船部門の経営をおこなっていたという。

　また当時、金森の販売部門を仕切っていたのは三代目・渡辺熊四郎。函館の歴史を取り扱う書物・サイト等では初代ばかりが紹介されるが、三代目・熊四郎も大正期から昭和はじめころまで、函館のリーダー的な存在だった経営者で、この当時の函館を語る上で欠かせない存在。
　この三代目・熊四郎は、明治末には檀家代表を務めていた元町の東本願寺函館別院を当時最先端の建築素材だった鉄筋コンクリートで建立させたり、大正末から昭和初期にかけては金森の小売部門を統合し、日和坂下に大型デパートを開業させるなど、先見性のあった人物だった。
　当時の資料を見る限り、三代目・渡辺熊四郎の影に隠れてしまった感の強い二代目・渡辺孝平。そういう事で、二代目・渡辺孝平は自らの存在を函館市民にアピールする想いで、函館市立病院外来診療棟の建設寄付を申し出たのではないかと私は想像する。

　但し、第一次世界大戦時の好景気は長くは続かず、函館病院の建設間際に国内はインフレの嵐に襲われる。そして残念ながら二代目・渡辺孝平の申し出た寄付では建設資金すべてを賄いきれず、結果建設資金の約半分を函館市が肩代わりすることで建設に至った。相馬哲平の寄付により建設された公会堂は、相馬の寄付により建設資金のほぼ全額を賄ったのに対し、少し格好の悪い形でこの病院は着工された訳である。
　大正１０年の晩秋、関根要太郎の設計により基坂の中程に竣工した函館病院外来診療棟の姿を見た二代目・渡辺孝平は、どのように思ったのだろうか・・・・・。

　また次回はかって基坂下にあった、建築家・関根要太郎が意識したであろう建物２軒を紹介してみたいと思う。

◆金森倉庫群(明治40年ころ築)
函館の観光名所として知られる金森倉庫群。

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★参考作品・・・・函館基坂に残る相馬関連の建造物◆旧函館区公会堂(明治４３年築)

函館の名所として知られる旧公会堂。こちらは相馬哲平の寄付により建てられた。
また旧公会堂の建坪は１階・２階合わせて約580坪、渡辺孝平の寄付により建てられた函館病院の外来診療棟は１階・２階合わせ530坪だったというので、当時の基坂では旧公会堂と病院の外来診療棟はかなり目立つ大規模な建物だったと思われる。
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◆旧相馬哲平邸(明治４０年頃築)

元町公園の隣、旧イギリス領事館の坂上にあるかっての相馬哲平の住まい。
函館一の豪商らしい風格のある和風邸宅だ。
◆旧相馬哲平邸の洋館部分
黒塀の向こうにはご覧のような素敵な洋館の窓枠が。

〔※この相馬邸、現在も一般の住宅として使われています。見学に際してはマナーを守った行動をくれぐれもお願いします。〕
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◆相馬株式会社(大正３年築)

こちらは基坂下に建つ相馬株式会社の店舗。創建当時以来モスグリーンの塗装が施されているという木造洋館だ。
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〔図版‐G〕『函館の建築探訪』函館建築研究会、1997年
★撮影：2002年6月、2006年6月、2007年3月、2009年6月