函館海産商同業組合事務所(建築家・関根要太郎作品研究)・・・・・その７

◆竣工した大正モダン建築・函館海同会館
　　　・・・・・建築家・関根要太郎、山中節治作品研究


　これまで紹介してきたように建築家・関根要太郎(1889～1959)、関根の弟である建築家の山中節治(1895～1952)が設計を担当した函館海産商同業組合事務所(海同会館)は、地元在住の棟梁・村木甚三郎と喜三郎親子の施工により、大正８(1919)年３月より建設が開始され、その年の１２月に竣工。そして翌大正９年１月２３日には同事務所にて落成式が挙行され、正式にこの事務所の業務が開始された。

　木造モルタル塗り３階建ての同事務所は１階に事務室・談話室・海産物の分析室、２階に役員室・貴賓室・海産物の陳列室を設け、３階に会議室として使える大広間が置かれた。なお現在は１階・２階は、信号機器を取り扱う会社の事務所として使われている。

　また函館海同会館の建設にあたり設計者の関根・山中兄弟は、当時最先端のモダンデザインを用意したが(詳しくは前回紹介した海同会館の完成予想図を参照していただきたい)、竣工当時の新聞記事では『新様式にのっとり外観の美と相まって華麗を極めたり・・・・』〔※７〕と紹介されるなど、関根・山中兄弟のモダンデザインは好意的な印象を持たれたようである。

　そして函館海同会館の設計を機に関根・山中兄弟は基坂の中程にあった函館市立病院外来診療棟(大正１０年築) 、大三坂の旧亀井邸(大正１０年築) 、末広町のイチヤマ商店(大正１１年築) 、 旧百十三銀行本店(大正１５年築) 、駒場町の函館競馬場観覧席(昭和５年築、現存せず)などの設計を担当。当時海産業で好景気に沸いていた函館の町並みを彩る事になった。

　既に函館海同会館については何度も紹介してきたが、今回は関根・山中設計作品の外観写真を何点か紹介させていただきたい。

〔※６〕『函館毎日新聞』大正９年１月２４日の記事より
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★函館海産商同業組合事務所(海同会館)の外観　
◆竣工まもない函館海同会館　〔図版‐F〕

　竣工当時の外観は昭和５０年代初頭まで保たれていたが、そののち正面玄関上のバラストレード(手摺状の飾り)や妻部の波模様など外部の装飾が撤去され無残な姿になっていたという。しかし平成に入り竣工時に近い姿で修復され、現在に至っている。
◆竣工前雑誌〔建築世界〕に発表された海同会館の設計図　〔図版‐G〕海同会館内にも当時の設計図が保管されている。
◆海同会館の背部

　平成の改修で撤去されたが、竣工当時は１階部分に海産物の分析をおこなう平屋の付属棟が置かれていた。また建物横部にある煉瓦部分は、かって集合煙突として使われていたもの。但し平成５年の北海道南西沖(奥尻島)地震で、竣工当時から使われていた煙突は倒壊。その後の改修工事にて煙突部分のデザインをイメージした煉瓦部分が再建されている。なお竣工当時は煙突部分にもモルタルが塗られ建物横の外壁は白一色だった。

◆海同会館の正面部分
こちらの部分も平成の改修で再現されたもの。
◆海同会館を斜めから撮影

　竣工当時は軒先に波形の装飾が施されていた。玄関左右の膨らみを持たせたヴォリームあるデザインは、函館大三坂の旧亀井邸をはじめこの後の関根・山中兄弟の設計作品にたびたび用いられる事になる。

◆玄関部分
この扉は竣工当時からのもの。
◆裏玄関部分
２階に見えるのは創建時に付けられたステンドグラス。

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〔図版‐F〕『函館市制実施記念写真帖』円山貞吉編、大正１２年刊　　函館市立図書館蔵
〔図版‐G〕『建築世界』大正８年７月号より、国立国会図書館蔵
★撮影・・・・２００６年１月、２００８年２月・７月、2009年6月