函館海産商同業組合事務所(建築家・関根要太郎作品研究)・・・・・その２

◆２・函館海同会館の設計依頼へ
・・・・・建築家・関根要太郎と木田保造の関係など

　前回の記事で簡単に紹介させていただいたが、建築家の関根要太郎(1889～1959)・山中節治(1895～1952)兄弟は大正７年の暮れころ函館区旧船場町(現・末広町)に新築予定の函館海産商同業組合事務所(海同会館)の設計を依頼されたようである〔※３〕。

　当時、不動貯金銀行の店舗営繕を手掛ける〔日本勧業会社建築部〕に在籍し、日本各地に新設される不動銀行の新店舗設計のため不動銀行の建設の仕事に携わっていた関根・山中兄弟にとっては、本業である不動銀行の店舗以外の設計を手掛けるというのはとても珍しいケースだったようだ。そして関根・山中兄弟が函館海産商同業組合の新事務所設計をはじめ、これ以降函館で数多くの建築設計を手掛ける切っ掛けを作ったと思われる人物がいた。その人物とは建築家の木田保造(1885～1940)である。

★関根要太郎と木田保造の間柄など　
　　(上の写真、木田保造が施工を手掛けた東本願寺函館別院、大正４年築)

　建築家の木田保造は千葉県君津の出身。１０代半ばのとき横浜へ渡り大工の修行をしたのを切っ掛けに、東京築地の工手学校(現在の工学院大学)で本格的な建築に関する知識を学び、卒業後の明治４０年代には大蔵省の建築部の臨時雇いとして建築家の第一歩を歩みだしている。また木田が大蔵省の建築部に在籍していたころ、先輩建築家を通じて知り合ったのが、当時やはり建築家の卵だった関根要太郎だっという〔※４〕。このころ関根と木田は二十代前半、お互い相通じるものがあったのだろうか親交を深めていったようである。

　そして明治末に木田は大蔵省建築部の職を辞し、東京赤坂に土木請負の事務所を開設。そして間もなく建築家の十世・伊藤平左衛門と知り合い、十世・伊藤と父である九世・伊藤平左衛門が設計を手掛け、これから建設に開始される事になっていた東本願寺函館別院(大正４年築)の施工を担当する事になり、大正のはじめころ函館へ渡っている。

　この東本願寺函館別院は函館でたびたび起きる大火から寺院を守るため、当時は最新の技術であった鉄筋コンクリートで造られることになったが、技術的な問題や地面から採ったコンクリートという素材で本尊を祀るのは賛成できない・・・・・などといった信徒からの建設資金寄付の出し渋りなどで、着工から４年後の大正４年に竣工するという長期の工事になっている。またそのあいだ木田は函館に滞在し、この寺院建設の指揮をとっていたという。

　また東本願寺別院の竣工後も木田は東京での建築活動の傍ら函館では、同寺院の檀家代表で同寺院の鉄筋コンクリート建設の推進者であった三代目・渡辺熊四郎が経営する金森合名会社(商船)の事務所・倉庫・邸宅などの施工を手掛けいた。そして東本願寺函館別院竣工より約２年後に木田が施工を手掛ける事になったのが、関根要太郎・山中節治兄弟の設計による不動貯金銀行函館支店だったのである。

　友人であった関根と木田。これは個人的な推測だが、函館で長い期間滞在し地元の情報に詳しかった木田が友人だった関根に、函館海産商同業組合の新事務所建設計画の話を教えたのではないかとも思える。また関根は社交的な性格を活かし、その後は本業である不動貯金銀行の店舗設計の以外でも数々の新築設計の仕事を得たが、戦前の活動に関しては一つの町と長きにわたり携わったという町は他に見当たらない。

　海産業の好景気に沸いていた函館で関根はこれ以降も大活躍するのだが、関根の函館での活躍の道先案内人をしてくれたのが木田保造だったのではないかと私は考える。

　また函館で海産商同業組合新事務所設計の依頼を受けた関根・山中だったが、ここで二人は建築家として勝負をかけたような斬新なデザインを用意するのだ・・・・。


〔※３〕『函館新聞』大正７年１２月８日記事より
〔※４〕『木田保造』昭和１６年刊より
☆・・・・・函館海産商同業事務所(建築家・関根要太郎作品研究)その３に続く
********************************************************
◆金森３４番倉庫(設計・施工：木田保造、大正５年ころ築)

　函館の観光スポット・ベイエリア金森倉庫の片隅に現存する木田保造の初期作。当時としてはまだ珍しかった鉄筋コンクリート製の倉庫である。

◆旧丸井今井百貨店より見た函館海産商同業組合事務所

　旧丸井今井百貨店は大正１２年に木田保造率いる木田組の設計・施工により竣工。昭和５年・９年の増改築を経て、昭和４０年代からは函館市役所の分庁舎として使われていた。また市役所の施設移転に伴い空家になっていたが、耐震性の問題から昭和初期に増築されたお馴染みの５階建てから竣工当時の３階建へ復元工事をおこない、昨年春〔函館市地域交流まちづくりセンター〕としてリニューアルオープンしている。

********************************************************
★撮影：２００１年３月、２００８年２月