埼玉りそな銀行川越支店(大正モダン建築探訪)

◆旧八十五銀行本店(現埼玉りそな銀行川越支店)
　　◎設計：保岡勝也
　　◎施工：不詳
　　◎竣工：大正７(1918)年
　　◎構造：鉄骨・鉄筋コンクリート３階建
　　◎所在地：埼玉県川越市幸町４‐１
--------------------------------------------------------------------------
★蔵の町・川越にある大正モダンな銀行店舗


　埼玉県の川越といえば蔵の街として知られるが、今回紹介するのは蔵づくり風の商家が多く軒を連ねる旧市街地に建つ白亜の洋館。現在は埼玉りそな銀行の支店として使われているこの白亜の洋館は、大正７年に川越の地場銀行である八十五銀行の本店として建てられたもの。
　川越にあるかっての地場銀行の本店、個人的には大正期らしい雰囲気が漂うお気に入りの建物の一つである。

　この建物を設計したのは、建築家の保岡勝也(1877～1942)。保岡は東京帝国大学卒業後、明治末まで三菱の技師長を務めていた人物で、東京・丸の内にあった赤煉瓦の事務所群(一丁ロンドンなどと呼ばれていたそう)の設計を手掛けた事で知られる。そして明治末に三菱の技師長の職を辞した保岡は、個人の設計事務所を開設し主に住宅の設計などを手掛けいたそうだが、大正半ばにこの旧八十五銀行をはじめ、川越貯蓄銀行、建築家・関根要太郎の故郷である埼玉県秩父の秩父貯蓄銀行などオフィスビルの設計も何軒か手掛けていたようだ。

　そして川越に現存する旧八十五銀行のデザインだが、窓の廻りや正面入り口のキーストン(要石)など古典建築によく用いられている装飾なども見られるが、何より印象的で新鮮なのが白がメインとして使われている外壁のタイル。明治期の赤煉瓦や木造建築とは違って、この白のタイル張りが大正という時代らしい明るい雰囲気を伝えてくれる。

　また施主たちがこだわったのではないかと思うのが、建物中央にあるドームが付いた塔。以前、川越へ訪れた際、西武新宿線・本川越駅前の横断歩道を渡っていたとき、この塔が一瞬目に飛び込んできた。現在は東武東上線が川越方面から都心へののメイン路線になっているが、大正期は川越から国分寺への西武の前身である川越鉄道が主要路線だったので、街の玄関口である鉄道の駅からも見えるように、この塔が付けられたのではないかと私は推測する。高層建築がまったくなかった昔は、この白亜の銀行は川越の町中からよく目に付いたことだろう。
　あとこの塔のすぐ下の３階の窓から、オレンジ色の淡い光がたまに見えたりする。貴賓室や頭取などの幹部が使う部屋として使われていたかと、いつも気になるのだが、いまだ内部を確認した事がない。

　大正期、蔵の街・川越に姿を現した白亜の洋館。竣工当時は違和感がある建物だったのかも知れないが、時代の経過と共に蔵づくり商家と同化した風景になっている。黒塗りの商家と白タイルの大正モダンな銀行店舗の対比は、いつ見ても面白い。
　
★旧八十五銀行の塔

この３階から、たまにオレンジ色の淡い照明が見える。かっては貴賓室などで使われていたのだろうか・・・・？。また写真下に写るのがキーストン(要石)、窓廻りの装飾などもルネサンス調の古典的なものが見られるが、外壁の白タイルで雰囲気は明るい印象を受ける。
★旧八十五銀行と蔵造りの商家

川越は蔵造りの商家が有名だが、大正・昭和初期に建てられた西洋建築も数多く現存する。


-------------------------------------------------------------------------
★追加
先日、久しぶりに川越に行ってきましたので、何枚か新しい写真を追加させていただきます。
*****************************************************
※撮影：１９９９年１１月・２００３年５月、追加撮影：２００９年４月