私と函館、そして建築家・関根要太郎について・２

※上の写真：函館市末広町にある関根要太郎・山中節冶設計の函館海産商同業組合事務所(大正１０年築)　
　　　
　２・建築家・関根要太郎との出会い

そして建築家・関根要太郎について本格的に関心を持つようになったのは、東京多摩市の旧多摩聖蹟記念館がある都立桜ヶ丘公園に花見へ行った際、記念館の中も見学したのだが、そこに展示されていた数枚のパネルに思わず釘付けになってしまったのである。
それは多摩聖蹟記念館を設計者である関根要太郎の経歴を紹介したもの。函館の大三坂に建つピンク色の旧亀井邸や、函館滞在の際よく泊まっていた八幡坂下のホテル前に建つSEC電算センターや、そのすぐそばにある函館海産商同業組合事務所など、函館の他の歴史的建造物とは違う不思議な華やかさを持つ(この当時は大正期最先端のモダンな作風という事など、全く知らなかったので・・・・)建物を設計した人物だという事を知り、衝撃を受けた私だった。
そして、もう一つ関根の経歴で興味を惹かれる事があった。それは関根の出身地が埼玉県の秩父という事である。この秩父は、私が子供の頃からハイキングや川遊びで何度となく訪れていた土地で、高度成長期に開発された新興住宅街に育った私にとっては、前項で紹介した函館と同様に実体験はないものの、何とも言い難い懐かしさを感じる土地であった。

私が住む東京都下にある多摩聖蹟記念館を切っ掛けに知った、秩父出身で函館に数軒の設計作品が現存している関根要太郎という建築家。しかし、どのような経緯で函館に来たのか、どうして函館で多く、そして印象的な建物を設計を手掛けることになったのか、それらの事は分からずじまいのまま月日は流れた。
関根要太郎という建築家に対し関心が薄れてきた頃、たまたま寄った隣町の図書館にて、ある建築の本と出会った。それは今から２０年数年前に出版された『日本の建築　明治大正昭和』という全十巻の書籍。日本における近代建築の系譜を紹介したものなのだが、その第十巻〔日本のモダニズム〕には、函館の旧亀井邸や東京の旧多摩聖蹟記念館、そして東京調布にあった京王閣など関根の設計作品の写真と共に、近代建築史研究の第一人者として知られる堀勇良さん作成による、関根の昭和初期までの経歴が紹介され、関根が大正期(２０代後半から３０代前半)に設計した竣工作品の写真が数点掲載されていた。その書籍に紹介されていた関根による設計作品は、今まで見た事がない大正モダンな雰囲気が漂う一見不思議な建物で、食い入るように見入ってしまった。

その後、この書籍を手掛かりに、東京・永田町のある図書館にて当時の建築関連の雑誌や書籍を閲覧してみた。そうすると、次から次へと関根の設計作品を発見してしまい、図書館での古建築写真探しというマニアックな作業に嵌ってしまった私だ。
関根は２０代半ばだった大正初期から昭和１７年までの約二十数年のあいだ、不動貯金銀行という銀行の店舗設計を主に手掛けていたのだが、私が実際に見た同時期に建てられた銀行店舗のような威風堂々とした重厚さがなく、軽やかなモダンな作風に魅了されてしまったのである。また当時活躍していた建築家の多くが、大学で高等な建築知識を学んでいたのに対し、高卒の関根が時代の最先端を走るようなモダンな作風の作品を世に多く送り出していた事も、私の探究心をそそった。
あとこれは個人的な感想なのだが、不動貯金銀行函館支店の建設を機に、設計を手掛ける事になった函館海産商同業組合事務所(上の写真の建物)を境に、関根の作風がより華やかになっており、函館での設計作品が大きなターニングポイントになったのではないかと思う。そして私の思い込みも入っているが、関根の建築家としての才能を早くから認めたのが、函館の人達(商人)だったのではないかと思う。

関根の建築作品にも面白さを抱いたのもそうだが、関根が四十代後半(昭和１０年前後)ころより、防火対策や耐震対策など一般庶民の生活向上に対する論文を多く発表している事に気付かされた。そして、昭和９年に関根が在籍していた〔日本建築士会〕の機関紙で発表した『函館市の火災報告』という論文を読み、関根も函館に対し思い入れがあったのではないかと感じた私であった。そしてこの論文の副題には『本文を市会議員故泉泰三君の霊に捧ぐ』という副題が付けられており、この泉泰三(いずみ　たいぞう)という函館の人物について興味を抱くようになったのである。
そして四年前の冬、函館で新たな出会いがあった。その方とは泉泰三の娘さんである・・・・。

☆３に続く・・・・・

◆函館の高台にある邸宅の洋館内部

◆函館船見町の高台より函館ドックのクレーンを望む