建築家・関根要太郎作品再見(東京・旧多摩聖蹟記念館)その３

◆旧多摩聖蹟記念館(その3)


　東京多摩市の都立桜ヶ丘公園内の高台に建つ、旧聖蹟記念館。この摩訶不思議なスタイルの記念館は昭和５年に、建築家・関根要太郎(1889～1959)と蔵田周忠(1895～1966)の設計により建てられたものである。
　この記念館の設計者・関根は大正なかばより、不動貯金銀行(りそな銀行の前身)の店舗営繕をはじめ、函館や東京などで数々のモダンな設計作品を手掛け、この時代を代表する建築家の一人である。

　多摩市の桜ヶ丘公園に現存する旧聖蹟記念館は、当時関根らが得意としていたドイツのモダンデザインを取り入れたもので、大正末よりモダンデザインの全盛期を迎えていた日本建築界を象徴するような作品といえる。しかし、当時の活躍を考えると現在の関根要太郎に関する評価が低いような気がしてならない。
　大正末から昭和初期にかけての日本の建築界においては、石本喜久冶・堀口捨巳・山田守などの帝国大学の学生により結成された〔分離派建築会〕が、華々しい活躍をしていた時期。この聖蹟記念館の共同設計者である蔵田周忠も、一時期〔分離派建築会〕に在籍していた事もあり、その系統の作品として語られることが多い。この当時の関根建築事務所において、蔵田の新しい建築センスは必要不可欠なものであった事は確かである。
　しかし関根要太郎は、大正末のモダン建築のムーブメントが来る以前より、新しい感覚を試みていた建築家という事を忘れてはいけないと思う。大正後期より活躍する建築家たちは、帝国大学を卒業し、官庁の営繕課やゼネコンのチーフデザイナーとして迎えられたのに対し、関根は高卒で不動銀行の店舗設計を手掛ける事務所の一所員から這い上がってきたという、ノンキャリアの建築家でもあった。

　また旧多摩聖蹟記念館が竣工した昭和５年前後は、大正末より全盛を迎えていた日本建築のモダンデザイン(表現派、分離派)が終焉を迎えた時期でもあった。聖蹟記念館が起工した昭和４年の暮れ、関根はアメリカへ建築の視察旅行へと旅立ち、これ以降は今迄のモダンデザインから決別。免震構造や防災に強い都市についてなど、一般庶民への生活向上へとテーマが変わっていくのである。
　そう考えると、この聖蹟記念館、モダンな作風を得意として活躍した建築家・関根要太郎の前半の建築家人生において、ゴールというべき作品と位置づけられるのではないだろうか・・・・。

☆４に続く・・・・★撮影・・・・・2009年10月（差し替え）
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★同時期の関根要太郎(関根建築事務所)設計による竣工作品
◆不動貯金銀行上野支店(東京都台東区、昭和３年築、現存せず)

大正末から昭和のはじめに関根は、東京・横浜で多くの不動貯金銀行の店舗設計を手掛けていたが、その中の一つがこの上野支店。現在の上野公園口にあった。
大正５年に関根設計により木造煉瓦タイル張りの店舗が建てられたが、関東大震災で倒壊。そして関根の設計により再び建てられたものが、この支店である。アーチを描いたガラス部分が、当時のモダンさを伝えてくれる。このガラス部分のデザインについては諸説あるが、以前の不動銀行上野支店のデザインを継承したものと、私は推測する。

また少し余談になるが、関根は昭和４年に米国に視察旅行へ赴くのだが、その旅先で不動銀行上野支店のすぐそばにあった〔永藤パン〕のオーナー・永藤鉄三郎氏と親しくなり、こののち関根は〔永藤パン〕の各店舗の設計を手掛ける事になった。

※図版：『不動貯金銀行創立四十周年記念写真帖』昭和１５年刊より、都立中央図書館所蔵

◆日本郵船社員倶楽部(東京都港区、昭和３年築、現存せず)

現在の虎ノ門付近にあった日本郵船の倶楽部。
日本郵船による平面計画案をもとに、関根建築事務所が外観のデザインを纏めあげた。昭和２年竣工の京王閣遊園地に共通する作風だが、一昔前に関根が得意とした〔ユーゲントシュティル〕風の箇所や、函館に現存する旧百十三銀行本店(現SEC電算センター)にも取り付けられている半円形の小窓のデザインなど、バラエティーに富んだ作風である。

※図版『建築画報』昭和４年３月号より、国立国会図書館蔵