建築家・関根要太郎とハルビン・アールヌーヴォー

◆関根要太郎とハルビン・アールヌーヴォー建築との出会い
　※写真は戦前のキタイスカヤ(中央大街)。当時の観光用絵葉書より
　　なお写真をクリックしてして頂くと大きな画像でご覧になれます。
-------------------------------------------------------------------------

　中国・黒龍江省の省都ハルビン。この街は19世紀末よりロシアの東清鉄道により開発され、1930年代初頭までロシアの統治に置かれていた街である。
　またその当時造られた建物の多くは、フランスで19世紀末より流行したモダンな建築様式・アールヌーヴォーの影響を受けたスタイルにより彩られていたそうで、1920年代には〔東洋のパリ〕〔東洋のモスクワ〕と呼ばれていたという。残念ながら私はこのハルビンへは訪れた事がないのたが、現在も20世紀初頭に建てられたアールヌーヴォー様式の建築が、数多く現存しているそうだ。

　そして当ブログの主人公である建築家・関根要太郎(1889～1959)も、ロシアにより開発がおこなわれて間もない1910年代初頭に、ハルビンへ訪れている。

　当時、関根は建築家・三橋四郎(1867～1915)の設計事務所に在籍しており、三橋四郎設計による奉天(現在の瀋陽)、牛荘の日本領事館建設のため、三橋と共に中国へ出張していた。時期的にいうと明治44(1911)年から大正元(1912)年ころである。

　また関根の自伝によると、この当時の中国東北地方(満州)は日露戦争後の混乱期で、近所では馬賊の襲来やら大変な騒ぎのなか領事館の建設が進められていたそうだ。関根は当時22～23歳という若さ、怖いものは全くなかったようで、中国生活を楽しんでいたようである。そして日本領事館建設の帰途、三橋四郎に連れられ立ち寄ったのが、ここハルビンだった。

　関根の自伝には、ロシア風の丸太組みの建物の前で、ロシア独特の毛皮帽を被った関根と三橋が、現地のロシア人や中国人と一緒に撮影した写真が紹介されているが、ハルビンの建築に関する記述はされていない。しかし、関根の師匠である三橋四郎は帰国後、〔建築世界〕という建築雑誌に『ハルビン建築の奇観』という紀行文を発表し、ハルビンのアールヌーヴォー建築を(恐らく)はじめて日本に紹介したという。その三橋の紀行文なのだが、残念ながら永田町の某図書館に所蔵がなく、どのようなものが紹介されているか詳細は不明である。

　関根にとって、ハルビンのアールヌーヴォーによって彩られ町並みは、衝撃的なものだったと私は思う。この数年後、関根はモダンな作風を前面に出し建築家として大活躍するのだが、そのルーツがあったのか非常に気になる街である。
　私もいつかは実際にこの街へ訪れてみたいと思っている。

◆旧ハルビン駅〔1900年ころ築、現存せず〕

ロシアの東清鉄道により建設された駅舎。細部にアールヌーヴォー調の装飾が施され、玄関や窓の曲線もそれらしい雰囲気である。

◆旧東清鉄道本社〔1904年築、現鉄路局〕

こちらは東清鉄道の本社として建てられたもの。細部の装飾がアールヌーヴォー調。当時、東清鉄道は職員住宅・学校・工場・スケート場など多くの建物をアールヌーヴォー様式の建物で彩ったという。
また、本家・フランスやベルギー等でアールヌーヴォーのムーブメントが終焉を迎えた以降も、ハルビンではアールヌーヴォーの建築が数多く建てられたそうである。

*****************************************************
※図版：当時の観光用絵葉書より、筆者所蔵
※参考文献：『満州都市物語』西澤泰彦氏著、平成８年、河出書房新社
　『自伝　生い立ちより今日まで』関根要太郎著、昭和１１年、私家版