建築家・関根要太郎作品再見(函館海産商同業組合事務所)

◆函館海産商同業組合事務所〔海同会館〕
　　◎設計：関根要太郎、山中節治(日本勧業会社建築部)
　　◎施工：村木甚三郎、村木喜三郎
　　◎竣工：大正９(１９２０)年１月
　　◎構造：木造モルタル塗り３階建て
　　◎所在地：函館市末広町１５‐３

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★函館末広町に建つ大正モダンな海産商事務所

　函館市末広町にある函館海産商同業組合事務所(海同会館)は、建築家・関根要太郎(1889～1959)のキャリアにとってターニングポイントになった作品だといえる。

　ちなみに関根は、大正３年暮れ不動貯金銀行の店舗営繕を手掛ける〔日本勧業会社建築部〕という建築事務所に就職。この事務所に入所まもなくから単独の設計を任せられることになり、北は北海道から南は九州・鹿児島まで、全国各都市に新設される不動銀行の店舗設計のため旅から旅への慌しい生活を送っていた。またこれから間もなく、弟の山中節治(1895～1952)も同設計事務所へ就職し、兄弟で共同設計をはじめている。
　そして大正６年ころ同銀行の新店舗建設のため訪れたのが、ここ函館である。それからまもなく、当時全盛を極めていた函館海産商の組合〔函館海産商同業組合〕の新事務所設計の設計依頼を受けることになったのである。

　この函館海産商同業組合の新事務所建設にあたり、関根・山中兄弟が準備したのは、２０世紀初頭にドイツなどで流行していた〔ユーゲントシュティル〕というモダンなデザイン。これまで関根・山中兄弟は本業である不動貯金銀行の店舗設計においても同様のデザインを採用していたが、以前の作品より華やかなものになった。あと少し余談になるが、〔ユーゲントシュティル〕という言葉は大まかに訳すと、〔若人の様式〕という意味になるそう。この建物が着工した当時２９歳だった関根と２４歳だった山中の年齢を考えると、この〔若人の様式〕という表現がぴったり来るのではないかと思う。

　しかし当時売り出し中の若手建築家に、新事務所のデザインを任せた函館の海産商たちも思い切った決断をしたものである。このような新しいものにも順応していったのが、当時の函館の気風だったのだろうか・・・・・。また大正半ばから昭和初期にかけては、関根・山中兄弟のほか、木田保造(1885～1940)、中村鎮(1890～1933)などの若い建築家が函館の町並みを彩っていた時期でもあった。

　そしてこれ以降、関根と山中は函館でも数々の建築設計の仕事を手掛ける事になるが、この函館海同会館は若き建築家が大きく才能を開花させた記念的作品だと私は考える。竣工作品の数としては十数軒と少ないものの、関根は大正から昭和初期にかけて函館の歴史の転換点に常に不思議な縁で繋がっていた人物でもあった。これらのエピソードも、少しずつながら紹介していきたいと思っている。
　函館の観光スポット・ベイエリアから歩いてすぐの場所にある、若き建築家たちの情熱溢れる作品。ぜひ実際に見学していただきたい名作である。

※現在この建物は、海産商同業組合のほか信号機器の会社のオフィスとして使われております。見学に際してはマナーを守った行動をくれぐれも宜しくお願いします。◆函館海産商同業組合事務所の背面

竣工当時、建物背部には平屋の付属棟が設けられていたが、平成６年の北海道南西沖(奥尻島)地震後の修繕工事のさい撤去された。

◆同建物内のステンドグラス

花柄のデザイン。なお木造で作られた階段の親柱にも花模様のモチーフが見られ、設計者の関根・山中兄弟が、植物的なデザインを使いこの建物を彩ろうとしていたと考えられる。植物というとアールヌーヴォーを連想するが、こちらは極太でヴォリュームのある〔ユーゲントシュティル〕的な作風だ。

◆竣工当時の函館海産商同業組合事務所

竣工当時は玄関上のバラストレード(手摺)が存在し、屋根破風や軒に波状の装飾が付いていたことが分かる。右隣の工事中の建物は、北海道拓殖銀行函館支店(設計・施工：木田保造、大正１２年竣工)。大正１０年の函館大火以降に撮影されたものと考えられる。

※『函館市制実施記念写真帖』円山貞吉編より、大正１２年刊、函館市立図書館所蔵
※撮影：２００４年６月、２００５年２月、２００７年３月
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◆不動貯金銀行函館支店(設計：関根要太郎・山中節治、大正７年築)

関根要太郎の函館においての初設計作品。この建物は大正７年１１月に竣工したが、同銀行支店の建設時期に関根と函館海産商同業組合のあいだで、新事務所の設計に関する交渉がおこなわれていたと考えられる。この不動銀行函館支店は、２０世紀初頭ドイツで流行していモダン様式・ユーゲルトシュティルの影響が色濃く見られ、この１年後に竣工する組合事務所の華やかなデザインを予感させる作品だ。
また、施工は関根の友人であった建築家・木田保造(1885～1940)率いる木田組が担当。現在の大手町市電通り沿いにあったが、昭和９年の大火で建物が損傷し道路拡張などの理由により、関根の設計により新店舗が再建される事になり大火後まもなく取り壊された。

※『函館市制実施記念写真帖』円山貞吉編・大正１２年刊、函館市立図書館蔵
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※また函館海産商同業組合事務所については、４‐函館海同会館の項にて詳しい解説をしております。