建築家・関根要太郎作品再見(函館・旧百十三銀行本店)

◆旧百十三銀行本店(現SEC電算センタービル)　
　　◎設計：関根要太郎、蔵田周忠〔関根建築事務所〕
　　◎施工：木田保造〔木田組〕
　　◎竣工：大正１５(１９２６)年１１月
　　◎構造：鉄筋コンクリート３階建て(竣工当時は中２階)
　　◎所在地：函館市末広町１８‐１５

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★ドイツ表現派の影響が色濃い函館のモダンな銀行店舗

　函館市末広町の八幡坂下に現存する、建築家・関根要太郎(1889～1959)設計によるかっての銀行店舗。関根は大正３年より不動貯金銀行の店舗設計のため、全国を各地へ出張する生活を送っていたが、大正６年ころ同銀行の函館支店建設のため函館へ訪れた。そして本業の不動貯金銀行の店舗営繕のほかに、ここ函館でも数多くの建築設計を手掛けることになったが、その後期の作品が函館の地場銀行・百十三銀行の本店だ。現在はSECのオフィスとして使われている。

　歴史的建造物というと、煉瓦や木造や石造りなど古典的な風貌のものに人気が集まってしまうが、この建物は今から約８０年前に建てられた当時は超モダンな銀行店舗だった。パラペットの三角模様、玄関上の幾何学模様の小窓、細部のアールデコのはしりといえる独特な石積み、そして古典的な建築に反旗を翻したような無装飾な列柱など、建築家の心意気のようなものが感じられ、現在もとても輝いて見える作品だ。そしてこの頃、関根がかって建築家の修行をしていた三橋四郎建築事務所時代の後輩・蔵田周忠(1895～1966)が、関根の事務所に加入。これまでモダンな作品を多く世に送り出してきた関根建築事務所の作風に、ドイツ表現派などの更に最先端の作風を持ち込むことになった。

　また当時の函館経済界は、東京や中央の経済に真っ向勝負を挑んでいた時期でもあった。そのような函館の気風と、関根たちの当時最先端だった建築センスがぴったり一致し、このようなモダンな銀行店舗が生み出されたと私は推測する。
　残念ながらこの銀行店舗竣工まもなく、同銀行の業績は悪化し小樽に本店を置く(旧)北海道銀行に吸収合併され、この建物が函館の地場銀行としての役割を果たしたの約一年半という短い期間だった。しかし、函館の商人の心意気を、当時３０代半ばの若き建築家・関根要太郎が形として表した傑作だと私は思う。
　ぜひ実際に見学して頂きたい、函館の名建築の一つである。

◆旧百十三銀行の玄関部分

　これまでの建物には見られない独特の石積みの造形。また竣工当時は玄関両脇にはアールデコ風の金属装飾が取り付けられていた。またこの当時の建物のオーダーはギリシャやローマの古典建築に見習って、装飾が施されているのが殆どだが、このような無装飾のものは珍しい。
　角の尖った階段デザインも格好いい。

◆雪の旧百十三銀行
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★同時期の関根建築事務所設計による竣工作品
◆不動貯金銀行横浜支店〔設計：関根要太郎、蔵田周忠、昭和２年ころ築〕
横浜の馬車道通りにあった銀行店舗。当時ドイツで流行していた〔表現派〕の影響が強い作品。

◆不動貯金銀行大阪西支店〔設計：関根要太郎、蔵田周忠、大正１５年築〕
当時の関根建築事務所作品は、函館・旧百十三銀行に見られるような無装飾のオーダーを設置したものが多い。他には不動銀行直方支店も似た作風である。


※撮影：２００４年６月
※図版：『不動貯金銀行創立四十周年記念写真帖』より・不動貯金銀行刊、東京都立中央図書館蔵