下関南部町郵便局〔建築家・三橋四郎設計作品探訪〕その１

◆下関南部町郵便局(旧赤間関郵便電信局)
　　◎設計：三橋四郎(逓信省技師)
　　◎竣工：明治33(1900)年
　　◎構造：煉瓦造り２階建て
　　◎所在地：山口県下関市南部町22‐8
　　　❖国登録有形文化財
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　　★下関に現存する最古の三橋四郎設計作品

　この建物を見るには、北九州市・門司港駅そばにあるフェリー乗り場から、門司港と下関を繋ぐ船に乗って行くのをお奨めする。潮の流れの速い関門海峡を船に揺られること約５分、到着するのは関門トンネル開通前、下関の玄関口として賑っていた唐戸の桟橋だ。

　そして桟橋を降りて明治・大正期に建てられた３軒の洋風建築が目に飛び込んでくる。向かって右手の赤煉瓦の建物が旧イギリス領事館(明治３９年築)、道路を挿んで屋上に植えられた木々がまぶしい塔の付いた建物が旧秋田商会(大正４年築)、そしてその隣にある物静かな佇まいを見せるのが、今回紹介する下関南部町郵便局だ。
　明治３３年、今から百年前に建てられ、いまだ現役の郵便局舎だ。なお、この周辺には昭和初期に建てられた近代建築が何軒かあったが、残念ながらそれらは姿を消してしまったものの、この唐戸の桟橋から目に飛び込む３軒の洋風建築の姿は圧巻そのものである。

　築１０７年になるこの下関南部町郵便局を設計したのは、建築家の三橋四郎(１８６７～１９１５)。三橋は東京帝国大学の造家学科卒業後、陸軍の技師を経てこの建物が竣工する２年前(明治３１年)に逓信省技師となり、明治３０年代に日本国内をはじめ中国・韓国などに郵便局・電信局など逓信関連の庁舎を多く手掛けていた建築家。こののち東京市技師を経て、明治４１年に自らの設計事務所を開設している。

　また、この時代の三橋の設計作品は西欧の最新式の建築様式を取り入れ、大正モダンな建築スタイルの先駆的存在となった建築家だった。そしてこの時期、三橋の設計事務所には当ブログの主人公である、建築家・関根要太郎(１８８９～１９５９)も在籍していた。

　そういう事で、関根の師にあたる建築家・三橋四郎が３３歳のときに設計をおこない竣工したのが、この南部町郵便局。三橋の設計作品の中でも初期の作品にあたる。時代的には本格的な西洋建築を学んだ辰野金吾、片山東熊らの先輩建築家たちが、大規模な西洋スタイルの設計作品を建て始めたころ。三橋の設計したこの郵便局も一見地味ながら、窓のぺディメント、玄関上のアーチ、トスカナ式の角柱など古典的な装飾が施され、西欧建築の基本は押さえている。これは個人的な感想だが、三橋は極端に古典的装飾を飾りたてる建築スタイルを嫌っていたように感じられる。この下関の郵便局のデザインは、三橋がこののちモダンな作風で活躍する兆しのような作品と私は思えてきてしまった。
　また、この建物の煉瓦は横幅６０センチの厚さで積まれているそう。築１００年以上経っても健在なのが頷ける名建築だ。

　あと、この郵便局より歩いて数分の場所には、弟子の関根要太郎がこれより３４年後の昭和９年に設計した不動貯金銀行下関支店(現・山口県労働金庫下関支店)も現存している。下関は師弟の建築作品が揃って現存している貴重な町でもある。

近年、改修工事が施され、竣工当時に近い姿に再現されている。
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★撮影・・・・・２００２年９月