建築家・木田保造について(函館で活躍した請負師)

　木田保造(18８５～１９４０)
　　　　　　　　　　　(木田保造肖像、伝記『木田保造』昭和１６年より)


　今回は東本願寺函館別院の紹介に先立ちまして、函館で活躍した建築家・木田保造(１８８５～１９４０)の経歴を簡単ながら紹介したいと思います。
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　木田保造は明治１８(１８８５)年１月１３日、千葉県君津郡大貫町て生まれます。父は地元でも名の知れた網元でしたが、木田が２歳のときに死別。保造は幼くして親類の家に預けられました。そして９歳のときに地元の波岡村鳴盛小学校へ入学、１４歳で卒業した木田は、そののち同学校で代用教員を半年間つとめています。

　その後、母の再婚相手の家に寄宿しましたが、よく扱われずかなり苦労したと、友人で建築家の関根要太郎(１８８９～１９５９)に生前よく語っていたそうです。そして明治３４年、１７歳になった木田は君津から東京湾の対岸にある横浜へ渡り、大工の弟子入りをし、大工修行のかたわら夜間の工業学校に通います。また明治３７年、二十歳になった木田は上京。東京・築地の工手学校(現在の工学院大学)へ入学、同３９年の７月に同校を卒業。この先月から大蔵省の臨時建築部に就職し、現場監督として函館・青柳町の税務署(もしくは大町の税関？)の現場監督として函館へ訪れていたようです。また明治４１年から２年間、大蔵省での仕事の傍ら、私立明治工業学校の講師もつとめました。そしてこの頃、先輩建築家の田中豊太郎(１８７０～１９４７)の紹介により、当時建築家の卵だった関根要太郎と出会います。

　また明治４３年に大蔵省の臨時建築部の職を辞した木田は、翌４４(１９１１)年４月に東京・赤坂溜池で土木請負業を開業。帝室技芸員の九世・伊藤平左衛門と息子の十世・伊藤平左衛門と繋がりを持つようになり、東京・日本橋の白木屋呉服店の改築を手掛けます。
　大正２年には、伊藤が設計を手掛ける事になった東本願寺函館別院の建設のため、木田はこの前年に結婚したばかりの妻を伴い、函館へ渡ります。この東本願寺函館別院は度重なる大火のたびに寺院が焼失していたため、当時の檀家総代であった三代目・渡辺熊四郎(金森合名会社代表)らが、東京の専門家に意見を聞き、当時最新の技術だった鉄筋コンクリートで寺院は建設されることになりました。しかし、当時鉄筋コンクリートは未知の新素材であった事から、信徒からの反対にあい建設資金の寄付が殆ど集まらず、木田は様々なアピール活動をしながら建設を進めます。そして大正４年には、京都・東本願寺の本堂に劣らない、立派な鉄筋コンクリート製の大伽藍を完成させました。

　四年にわたる東本願寺函館別院の建設を終えた木田は、東京で正式に『木田組』を発足(建築施工のほか、場合によっては設計や土木工事も請け負う、今でいう所のゼネコン形式)。そして帰京後に手掛けた白木屋呉服店の再改築工事は、ルネサンス様式の豪華絢爛なものであり、竣工まもない白木屋は当時の一般向け建築雑誌でも紹介され、木田の名は建築業界で広く知られるようになります。

　また大正１０年４月に起きた函館大火で、木田の手掛けた東本願寺函館別院が火災の被害がなかった事で、木田に対する信頼は揺るぎないものになり、この後、函館でも数々の建築施工の仕事を手掛けます(木田組の支店も函館に置く)。それらの建物は数多く、すべてを紹介しきれませんが、末広町の旧丸井今井デパート、旧金森デパート(現存せず)、北海道拓殖銀行(のちの給食センター、現存せず)、大手町のニチロビルディング、商工会議所(現存せず)、末広町の旧百十三銀行、函館貯蓄銀行、元町カトリック教会、大町の相馬倉庫(現存せず)などが木田組の施工によるものです。

　そして大正８年には、約一年にわたる欧米への視察旅行を敢行。帰国後に木田は東京で、銀座ビルディング(銀座松屋デパート)の建設に着手。関東大震災での工事中断はありましたが、大正１４年に木田組の設計・施工による銀座松屋デパートを竣工させます。現在の銀座和光(旧服部時計店)はまだ建てられていない時代、この松屋デパートは、東洋一の大建築と謳われ人々の注目を集めました。函館・東京以外にも木田組は札幌や大阪にも営業所を開設、特に北海道では札幌の丸井今井デパート(設計：遠藤於菟、増築のため現状をとどめず)、札幌グランドホテル(現存せず)、小樽北運河の北海製罐工場、樺太の北海道拓殖銀行の施工なども手掛けています。

　木田は数々の建築技術の発明をしており、その中でも代表的なものが『深礎基礎工法』という潜函方式(軟弱な地盤の場所で、箱型の枠を掘りながら沈めていくという命がけの工法)の基礎工法です。木田保造は木田組とは別に『深礎工業社』を設立し、東京・丸の内の第一生命本館、大阪の阪神電鉄梅田駅の基礎工事を担当しました。
　また木田は人を育てるのに熱心で、多くの書生を養い世に送り出していたといいます(関根要太郎も同様だった)。

　そして昭和９年３月２１日に起きた函館大火の知らせを聞いた木田は、函館へ駆けつけ、木田組の所員たちと復興バラックの建設に従事します。昭和９年・函館大火後の同地復興は内務省などの国がメインになっておこなわれましたが、友人の建築家・関根要太郎が昭和１４年に建築学会で発表した論文『不燃都市の建設と共同建築に就いて』の作成に協力するなど、関根や木田は函館の復興に対して深いこだわりを持っていたように思えます。
　昭和１５年１月、中国へ視察に赴いた木田は、２月に南京にて脳溢血のため倒れ、同地で療養を続けるも４月１６日に療養先の病院で息をひきとりました。享年５６歳、木田の遺骨は東京・護国寺の墓地にて静かに眠っています。


♯参考文献：『木田保造』昭和１６年
　　　　　　『深礎地業・深層建築』昭和１３年
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※木田保造(木田組)施工の主な建造物リストは後日、発表する予定です。暫らくお待ちください。