日本銀行本店(関根要太郎関連作品)その１

◆日本銀行本店・旧館
　　◎設計：辰野金吾
　　◎施工：分業請負
　　◎竣工：明治２９年(１８９６年)
　　◎構造：煉瓦石貼３階、地下１階建て
　　☆修復：関根要太郎(関根建築事務所)
　　　　　　　　・・・・大正１２年(１９２３年)関東大震災後の修復工事を担当
　　◎所在地：東京都中央区日本橋本石町

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★関東大震災後の日銀本店をめぐる隠れたエピソード


　日本近代建築の第一人者として知られる、辰野金吾(１８５４～１９１９)の代表作の一つ。『なぜ関根要太郎と関係があるの？』と疑問に思われるかも知れないが、大正１２年９月に起きた関東大震災後に、関根率いる〔関根建築事務所〕が修復工事の計画を担当している。まあ、それだけならさらっと紹介してお終いになってしまうが、関根の自伝や文章を読むといろいろと苦労した仕事だったようだし、面白いエピソードも残しているので、今回は紹介させていただきたい。

　大正１２年の震災時までの関根の建築家活動は順調で、この３年前には今まで勤めていた建築事務所が解散したため、東京・銀座に設計事務所を開設。メインの仕事である不動貯金銀行(りそな銀行の前身)の店舗設計をはじめ、函館などで手広く建築設計をおこなっていた。ちなみに、この未曾有の大震災後に起きた火災のため、関根が住む神田宮本町の自宅も全焼してしまったという。
　そして震災後に関根は建築家の長野宇平治(１８６７～１９３７)から、日銀本店の修復計画を依頼された。この長野宇平治という建築家は辰野金吾の弟子みたいな存在で、小樽の日銀をはじめ辰野と共同設計を多数手掛けている。また長野は、関根の師匠である三橋四郎(１８６７～１９１５)と帝国大学建築科の同期だったので、依頼されたというより『仰せつかった』という表現の方が的確かも知れない・・・・・。少し余談になるが長野と三橋の帝大建築学科の同期には、かの夏目漱石もいたという。

　さて本題に戻ろう。最初、関根が長野から仰せつかったのは『日銀本店の建物をもとに実測図を作れ！』という作業。しかし、関根をはじめ事務所のメンバーたちが何度テープを使って建物を測量するものの、なかなか寸法が合わない。たまりかねた関根は、ある大学の図書館に所蔵してあった日銀本店の設計図を参考にして実測図を作ってしまった。しかし、長野にばれてしまい、物凄い勢いで怒鳴られてしまったという。これでは、テストでカンニングが見つかって先生に怒鳴られた生徒みたいではないか・・・・。
　カンニング発覚？というアクシデントはあったが、関根はその後も日銀本店の修復工事を担当し、工事の途中で一つのアイディアを思いついた。そのアイディアというのは、日銀本店の屋根を従来の鉄骨小屋組みの上に銅板を葺くという形式から、フラットルーフ(現在のビルなどに見られる平坦な屋根)に変えてしまおう・・・、というものだった。当時、モダンな作風で鳴らしていた関根にとっては『古臭くて使い勝手の悪い屋根』と思っていたかもしれないが、長野にこのプランを話してもウンと頷いてくれない。しかし、関根は自分が思いついたプランを通したい。当時３０代前半だった関根は最後には、長野の家に押し掛けて『このプランを通してください！』とお願いしにいったという。そして若い建築家の熱意ある主張を聞いた長野は、このようなアドバイスを送ったそうである。『これは辰野先生が設計されたものであるから、形を変えてはいけません・・・・』と。このアドバイスを関根は了解し、辰野金吾が設計した原型のままの形に戻し修復工事を終えた。

　ここまで、日銀修復に纏わる関根のエピソードを紹介してきたが、これは現在の歴史的建造物の復元・再活用でも、あてはまる話ではないかと思った。どの町のどの建物とはあえて言わないが、耐震性を理由においしい所だけ残し不恰好な形の建物にしたり、竣工当時の形を再現すると言いながら似ても似つかぬ建物を作ったり、目立つ場所に一面のガラス張りのスペースを作ってみたり、これらは果たして良いのだろうかと、いろいろ思い浮かべてしまったのは私だけなのだろうか・・・・？。

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※参考文献：『日本建築士』昭和１３年４月・長野宇平治追悼号
　　　　　　　　『自伝・生い立ちより今日まで』関根要太郎著、昭和１１年、私家版