銀座 鈴木ビル(山中節治設計)その１

◆銀座・鈴木ビルディング　
　　◎設計：山中節治建築事務所
　　◎施工：新工務所
　　◎竣工：昭和4(1929)年12月
　　◎構造：鉄筋コンクリート5階、地下1階
　　◎所在地：東京都中央区銀座1丁目28‐15
　　　❖東京都選定歴史的建造物
　　　　・・・・・〔竣工時のデータは『国際建築』昭和５年２月号による〕

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★東京銀座にある和風アールデコ？のモダンビルディング　

　今年の初旬、あるテレビ番組を見て、鈴木ビルの存在を久しぶりに思い出した。
　このテレビというのは、NHKで放送されている『美の壺』という番組で、アールデコ建築の特集をしていたのだ。アールデコというのは、１９２０代にフランスを皮切りに流行した、ジグザクと言えばいいのか結晶的といえばいいのか表現に迷うが、これまでの近代デザインにはなかった幾何学的なデザインの事である。アールデコの国内の代表的建築というべき東京・目黒の都立庭園美術館(旧朝香宮邸)や、東京・神保町の文房堂ビル、東京・御茶ノ水の山の上ホテルと一緒に、この鈴木ビルが紹介されていたのだ。

　「あ～、久しぶりに見に行こうかな」と思って間もなくの事、永田町の某図書館にて衝撃の発見をする事になる。『国際建築』という当時の建築雑誌を閲覧していたところ、このビルディングの写真が付いた広告を見つけた。その広告の主は『新工務所』という東京・神田と大阪に営業所を持つ工務店のものだが、鈴木ビルの設計者の名に『山中節治建築事務所』と記されていたのだ。この山中節治(１８９５～１９５２)というのは、関根要太郎の実弟で、大正なかばから同１２年あたりまで、兄弟で設計活動をおこなっており、これまで紹介してきた函館の海産商同業組合事務所(海同会館)、旧亀井邸の設計も手掛けている。

　そういう事で数日後、１０年振りの再会？を果たすため、銀座一丁目へと向かった。改めて建物を観察してみると、こちらはアールデコ的な要素が多いものの、函館の海同会館に通じるものがあるように思えた。山中節治の単独設計作品で現存しているのは、彼の故郷・埼玉県秩父の小学校１軒だけだと思っていたが、東京の銀座に現存していたとは想像もしていなかった・・・・・。

　鈴木ビルの建設の経緯だが、松竹の貸し衣装業を営んでいた鈴木氏というオーナーがこのビルの建設を依頼したという。現在はオフィスビルとして使われているが、かっては公演や稽古ができる広間があったり、銀座という場所らしい用途で使われていたという。
　また設計者の山中は関東大震災直後から銀座界隈で商店の設計を数多く手掛けており、その時の人脈がこのビルの設計に繋がったと考えられる。空襲で跡形もなくなってしまったが、山中が手掛けた設計作品の中で、『モナミ』という喫茶店は作家・宇野千代の行きつけの店だったというし、また震災後の急造バラック『十字屋楽器店』では山口文象(岡村蚊象)率いる〔創宇社〕という若き建築家集団が第一回の作品展を催したことで知られている。山中は、歴史に残るような大建築は手掛けてはいないが、普段着の町並みを彩る名建築家だったと私は思う。また改めて山中の作品は紹介したい。

　昭和初期のモダンな東京を偲ばせる名建築。東京メトロ有楽町線・新富町下車、徒歩１分、三吉橋の交差点から右手へ曲がるとこのビルが待っている。緑青の屋根窓が目印だ。実際に見学していただきたい名建築である。


★竣工当時の鈴木ビル広告
　　※『国際建築』昭和5年2月号より

上の2点の図版は本文中にも紹介した『国際建築』の広告。
この2年後に発行された『建築写真類聚　事務所建築編』で、設計者として新定蔵の名が記されたことから、山中節治の名は抹殺されてしまったようだ・・・・・・。
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※現在、鈴木ビルは、１階がギャラリーとバーとして使われていますが、その他の場所は事務所として使われております。事務所部分の見学はご遠慮ください。
※なお下の鈴木ビル〔東京・銀座〕をクリックしていただくと、同建物の他の写真をご覧になれます。