村林ビル(関根要太郎設計作品)その１

◆村林ビルディング(旧村林商店) 　

　◎設計：関根要太郎(関根建築事務所)

　◎施工：大林組

　◎竣工：昭和3(1928)年

　◎構造：鉄筋コンクリート3階建て

　◎所在地：東京都江東区佐賀1丁目8

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★東京隅田川の畔にある、テラコッタが美しい昭和初期の商店建築

　隅田川にかかる名橋・永代橋から歩いてすぐの場所にある、東京に唯一現存する関根要太郎設計のオフィスビルディング。もとは村林商店(村林興業)という、乾鰯などの肥料を取り扱う会社の自社ビルだったという。現在は劇団の施設として使われ、テレビドラマのロケなどでたびたび使用されているので、この建物の姿を記憶されている方も多いかも知れない。

　約１０年前、私が近代建築に興味を持ちはじめた頃、この隣にあった食糧ビルディング(既に取り壊し)を見に行ったことがあり、この村林ビルの存在は知っていた。しかし関根設計という事を知ったのは、これより数年後『図面で見る都市建築の昭和』という本を読んだことによる。大正末～昭和初期の『関根建築事務所』は全盛期で、当時最先端の建築スタイルを取り入れた、そのモダンな設計作品は、このころの建築雑誌では華々しく紹介されていたが、少し地味目なこのビルは残念ながら紹介されていない。「何故このビルが関根設計と分かったのか？」と疑問に思った私は、この本の監修者の一人である工学院大学・初田亨先生に伺ってみた。初田先生によると、建物の現地調査の際『関根建築事務所設計』と刻印の入った設計図がでてきたそうである。もし初田先生が調査されなければ、関根設計の作品だと判明しなかった可能性も十分有り得る訳だ・・・・。

　しかし皮肉なもので、大正末～昭和初期に東京都心に建てられた関根事務所設計のモダンなオフィスや邸宅は跡形もなく消え去ったのに、この地味なビルだけが唯一生き残った。８０年の歳月を生き抜いた重みを感じる建物である。年季の入った外壁のタイルと玄関のテラコッタは一見の価値があると思う。

　東京メトロ東西線・門前仲町駅を下車し、永代通りを茅場町の方向へ歩いて数分の目立たない場所にひっそりと建っている。少しわかりづらい所にあるが、この近くに寄った際には実際に見学していただきたい素敵な建物だ。

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※参考文献『図面で見る都市建築の昭和』鈴木博之・初田亨編１９９８年、柏書房
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