函館市弁天町の函館どつく赤レンガ倉庫(函館の建築再見2025)

◆函館どつく煉瓦倉庫

　・・・・明治34年竣工、間もなく解体される隠れた函館の名建築

　

　先週末、5年ぶりに訪れた函館。久しぶりの函館は筆者の目にはとても新鮮に映り、函館山の麓である西部地区を巡ったのだが、2日の日程では全然足りないくらいだった。ちなみに今回宿泊したのが、ここ数年ほど筆者がお世話になっている大町の函館元町ホテルだったこともあり、2日に渡って撮影した写真を見返してみると、大町と弁天町エリアの写真が圧倒的に多かった。

　特に弁天町は函館が開港して間もなくより開けた地域で、町の海岸部にあたる東方面は明治29(1886)年、明治40(1907)年の大火で焼失を免れた事もあり、国の重要文化財に指定されている旧太刀川米穀店(明治34年築)をはじめ、明治中期に建てられた歴史的建造物も何軒か現存している。

　以前はイカの塩辛工場などがあった事もあり、イカの香ばしい匂いが町中に漂っていたが、今回は潮の香りしか感じなかった。これも時代の変化なのだろう。

　5年前の函館旅行の時は、公海食品倉庫や旧西浜旅館(…現ミートハウス、明治40年築)がある幸坂や千歳坂下にあたるエリアで折り返していたが、市電の函館どつく電停そばにあるこの場所にも足を延ばした。それが函館どつくが所有する赤煉瓦倉庫。既にご存じの方も多くいらっしゃると思うが、倉庫左側部分(…西部分)に同工場の寮(…地元の方のご教示によるとドックハウスという名称)が建設されることになり、倉庫の約半分が間もなく解体されるという。

　函館どつく所有の倉庫と、先にも紹介した公海食品倉庫という、弁天町に建つ2つの赤煉瓦倉庫群に魅せられ、函館に訪れるたび必ず足を運んでいた若き日の筆者。全国的に有名なベイエリアの金森赤レンガ倉庫群に比べると小規模だが、地域産業を長年支えてきた風格が感じられる施設である。

　そう思いながら近年は全く足を運んでいなかった筆者。どつく所有の赤レンガ倉庫へ訪れたのは、20年ぶりの事になると思う。

　函館の造船業というと、平成21(2009)年の函館どつくゴライアス・クレーン(昭和48年建造)解体や、函館を舞台にした映画〔海炭市叙景、原作：佐藤泰志、平成22年公開〕のイメージが強く、申し訳ないが衰退した産業だと思い込んでいた。だが函館経済に詳しい地元の方のお話しによると、コロナ禍以降のここ何年かは〔ばら積み船〕と呼ばれる貨物船の建造を筆頭に造船業は好況で、海外からの技術実習生を多く採用するなどし、どつく内の社員寮では完全に手狭なのだという。

　長年に渡り年季の入った赤レンガ倉庫であること以外、そのプロフィールについては何も知らなかった函館どつく倉庫。

　レンガ倉庫解体の計画が発表されたのを機に、地元有志の方が発表されたホームページによると、その竣工は明治34(1901)年の8月とのこと。盛岡出身で箱館開港以来、同地で昆布など海産物取り扱いなどの商いをおこなっていた柳田藤吉(1838～1901)が、かつて弁天台場があったこの土地を購入し建てたのが、冒頭の写真でご覧いただいている倉庫だったそうだ。

　柳田藤吉の没してから9年後の明治43(1910)年に、弁天倉庫株式会社と組織が改変され、更に大正7(1918)年には明治から昭和初期に函館を代表する海産商だった小熊幸一郎(1866～1952)がこの倉庫を買収。戦時色が強くなった昭和18(1943)年には函館船渠株式会社(…現函館どつく)に移管され、以降函館どつく所有の施設となった訳である。

　なお大正10年12月に日本建築学会の機関紙〔建築雑誌〕に発表された、「函館市大火調査報告、調査・作成：西村好時＋関根要太郎＋森田慶一」に掲載された過去の火災焼失地域図よると、このエリア明治40(1907)年8月に発生した大火では、近くまで火の手が迫ったが焼失を免れている。

　函館どつく所有の赤レンガ倉庫は、正確な事までは断言できないが、函館をはじめ北海道内に現存する最古の倉庫建築なのではないかと思う。

　早い時期から地元の方から話は伺っていたが、どのような事情から歴史ある煉瓦倉庫が解体される運びとなったのか、その経緯が分からない事もあり、ここまで発言を控えさせていただいた。函館どつくの業績が好況なのは素直に喜ぶが、築124年を迎える歴史的建造物を解体してまで、同会社の敷地内に寮を作る拘る必要性があるのか正直分からない。壊す事より歴史ある煉瓦倉庫を再生する事で、会社の新たなアピールになるのではないかと筆者は考える。

　久しぶりの函館を満喫する一方、近年取り壊された歴史的建造物の跡地の数々を巡ってしまった今回の旅。あくまでも一旅行者の立場なので多くの事は言えないが、その存在をあまり知られていない名建築がこれからも相次いで解体されていくのだろう。

　まずはその建物の価値を多くに知って貰うこと。このブログを始めた当初の志しを思い出した今回の旅であった。残された時間はあと僅か。皆さんも歴史ある煉瓦倉庫の最期を見届けていただきたい。

◆函館どつく煉瓦倉庫(旧柳田倉庫～弁天倉庫)

　◎設計：不詳

　◎設計：不詳

　◎竣工：明治34(1901)年8月

　◎解体：令和7(2025)年11月…倉庫一部の予定

　◎構造：煉瓦造平屋

　◎所在地：函館市弁天町20-4

今更の紹介になってしまったが、函館どつくレンガ倉庫の保存を訴えるサイトはこちらから。

同じ弁天町にある公海食品倉庫前より。

倉庫の片隅には弁天台場の跡地を示す碑も建っていた。

★1998年～2002年撮影の函館どつく赤レンガ倉庫
今から約四半世紀前の20世紀末から21世紀初頭に撮影したもの。特に上の写真は倉庫前に車が駐車していない時に撮影した珍しい1枚。どつくの赤レンガ倉庫は、この段階で築100年を迎えていたが、そのプロフィールについてはあまり語られる事はなかった。

この写真は2020年10月に撮影したもの。

函館市電の終点の函館どつく電停より、こちらの道を右折すれば函館どつくの赤煉瓦倉庫が建っている。

煉瓦倉庫からは話が逸れるが、以前から気になるどつく構内に建つ3階建てのビル。この作りから察するに、それなりの築年数が経っていると推測される。

2020年10月、函館山山頂から。

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★参考文献・参考資料

「建築雑誌、大正10年12月号、函館大火調査報告」西村好時氏、関根要太郎氏、森田慶一氏作成

「函館の建築探訪、コラム：函館と大火」吉村冨士夫氏著、北海道新聞社、平成9年

「函館の隠れた煉瓦　弁天倉庫　－125年の記憶が消えゆく前に」ホームページ

「函館どつくレンガ倉庫」ウィキペディア

「柳田藤吉」ウィキペディア

「函館どつく　ホームページ」

「嘘数の森」佐田祐一氏制作ホームページほか

★撮影・・・・1998年～2002年、2020年10月、2025年9月