埼玉県秩父市の川瀬祭2025、その2(建築家・関根要太郎の故郷を訪ねる)

◆秩父川瀬祭

　・・・・建築家・関根要太郎の生まれ故郷・秩父大宮郷でおこなわれる美しき夏祭り

　例年の如く今年も7月19日と20日におこなわれた、埼玉県秩父市に鎮座する秩父神社の夏の例祭〔秩父川瀬祭〕。建築家・関根要太郎(1889～1959)の郷里である秩父大宮郷で古くからおこなわれている夏祭りですが、本年は初めて19日の宵宮、20日の本祭の両日ともに訪れました。
　祭りの初日は昼過ぎに西武秩父線の終着駅である西武秩父駅に到着。　例年だとそこから秩父神社にお参りし、関根要太郎のお母さまの実家で、筆者が長年お世話になった要太郎氏の姪であるMさん(…故人)がお住まいになる、かつての商人宿・秩父館(現ほっとすぽっと秩父館、明治12年築)にお邪魔してから、祭り見物をスタートさせていたのですが、今年はコースを変えて最初に東町、中町、本町の祭り屋台や笠鉾を撮影し、そこから秩父神社へと向かったのです。
　筆者が秩父神社に到着した午後2時半過ぎに、神社の境内に停泊していたのが、番場町の屋台と道生町の笠鉾でした。朱塗りの塗装が夏の強い日差しに輝く番場町の屋台と、白の花飾りが美しい道場町の笠鉾の対比はとても美しく、様々な写真を撮らせていただきました。そして神社の境内では祭りの見所である、各町の山車がすれ違った時におこなわれる〔お花交換〕という儀式も見れました。笠鉾と呼ばれる山車は花飾りを一本、屋台は扇子などを交換するとの事です。
　その後は秩父神社にお参り。神社本殿のほか川瀬祭の御祭神である日御碕宮(…ひのみやぐう)、秩父市内各地の町内会からのお供え物が一時安置されている天神地祇社(…てんじんちぎしゃ)の摂社にも手を合わせました。　ちなみに日御碕宮は19日の夜7時、御祭神である須佐之男命(…すさのおみこと)をお迎えし、神社境内に集結した8台の山車と共に、神社平成殿に置かれた天王柱に奉安する神事がおこなわれ、宵宮はクライマックスを迎えます。ここで子供をはじめ人々の無病息災を祈ります。
　神社参拝後は秩父往還(…大通り)に出て、秩父館そばの秩父神社作の森(…ははそのもり)の隣地に山車の収蔵庫を置く宮側町屋台、ピンクの花飾りが美しい熊木町笠鉾、秩父往還から坂を下った〔下平通り〕で2時間ほど前に見た本町屋台を撮影しました。特に宮側町屋台は、関根要太郎が少年期暮らしていた秩父館をバックに、美しい山車を撮影することに成功しました。前回の記事の冒頭に掲載した写真がその1枚です。
　現在は4台の笠鉾と呼ばれる山車と、4台の屋台と呼ばれる山車が出される秩父川瀬祭。12月の秩父夜祭(…秩父神社例大祭)の笠鉾と屋台は、明治から大正期に建造されたのに対し、川瀬祭の笠鉾と屋台の建造は昭和以降と夜祭に比較すると新しいものです。　それは明治40(1907)年頃に秩父町内に電線が多く架設され、山車の曳行ができなくなり、山車を改造して暫定的に使用していましたが、この頃にその時代の町のサイズに合わせ山車が建造されたとの事です。
　川瀬祭にも屋台を出す東町の公式ウェブサイトや、市内番場通りにある謎の写真館〔小菅写真舘〕の店先に掲示されていた、川瀬祭の番場町屋台に関する解説文と同封写真を見てみると、とても興味深い事に気づかされます。明治30(1897)年ころ、つまり関根要太郎が少年期に撮影された川瀬祭の写真には、番場、宮側、東町、上町、中町、本町の山車が写っていますが、それらの山車全てが笠鉾もしくはそれに近い形態の曳き物なのです。
　明治末からの電線架設により、高い山車の曳行が出来なくなった夏の川瀬祭り。先に紹介した東町のウェブサイトに掲載された明治期の写真を見てみると、3層の花笠の笠鉾は秩父夜祭の下郷と中近の笠鉾正装時 に比べると多少低い感じはしますが、10メートル以上はありそうな感じです。　この写真を見て、個人的には毎年4月におこなわれる秩父郡小鹿野町の小鹿野春まつり(…小鹿神社例大祭)の新原と腰之根笠鉾を思い出してしまいました。
　それまで使われていた川瀬祭り笠鉾に代わり、昭和初期に建造されたのが現在の宮側町、番場町、本町、東町の屋台でした。昭和建造の川瀬屋台で興味深い点は、12月の秩父夜祭や３月の山田春まつり(…恒持神社例大祭)、4月の小鹿野春まつりの祭り屋台のように、後方に後幕を張り祭囃子の演奏スペースや詰所にはせずに、秩父夜祭の中近、下郷笠鉾のように中央に内室を置いたことです。これは大正期に改造された秩父夜祭笠鉾の影響なのかと、素人ながらに推測してしまいました。
　関根要太郎が子供のころ見た川瀬祭りと、現代の川瀬祭りはかなり様相が変わったと思います。しかし祭りの願いという事に関しては川瀬祭が始められた当時と、要太郎氏が少年期を過ごした明治期、令和の現代と何も変わっていないと思います。　例の如く長編になりつつある秩父の祭り探訪記ですが、本日も引き続き宵宮(…祭り初日)の様子をご覧ください。真夏の日差しに輝く山車はとても美しかったです。
◆令和7年・秩父川瀬祭、その2




◆令和7年、秩父川瀬祭

　◎7月19日：宵宮

　　　　　　　　各町会山車曳行、天王柱立て神事

　　　　　　　　奉納花火打ち上げ、各町会お水取り行事ほか

　◎7月20日：大祭

　　　　　　　　各町会山車曳行、神社奉納神楽

　　　　　　　　荒川の川瀬祭場にて神社神輿洗いの儀式ほか

　　　❖埼玉県指定無形民俗文化財(令和3年：2021年3月指定)

東町屋台、中町笠鉾、本町屋台の撮影後は秩父神社へ。

★番場町屋台(…ばんばまちやたい、秩父市指定有形民俗文化財)

秩父神社のお膝元である番場町が昭和10(1935)年に建造した屋台。前回紹介した中町笠鉾と同様に秩父の名工であった坂本盛(森)太郎、高橋卯三郎の手により4200円の建設費で作られた。

この当時、秩父神社宮司だった薗田稲太郎(…関根要太郎の手記を見ると、関根は薗田宮司とも面識があった模様)の進言もあり、神社を連想させる朱塗りになったという。なお番場町は祭りの装束、街路灯まで朱色で統一する徹底ぶりだ。

★道生町笠鉾(…どうじょうまちかさぼこ、秩父市指定有形民俗文化財)

　

秩父往還より荒川方面へ坂を少し下ったところにある道生町。戦後まもなくから曳太鼓なる山車で祭りに参加していたそうだが、平成9(1997)年に上町の笠鉾を譲り受け使用を開始したという。秩父市や秩父まつり会館のホームページによると、3層の笠は大正6(1917)年から昭和8(1933)年に建造されたものと推測している。

なお道生町は今年から鐘振り役(…山車の進行係)に女性を登用するなど、秩父の祭りでは革新的な試みを多くおこなっている町会である。今後の更なる道生町会の活躍を期待している筆者だ。

道生町と番場町による花交換。

筆者が秩父神社に訪れ花交換を見た後は、道生町の神社奉納が始まった。

★天王柱と道生町笠鉾

神社平成殿に飾り置きされている天王柱と。

この日の日没後、天王柱立ての神事がおこなわれる。

★秩父神社に参拝

八意思兼命(…やこごろおもいかねのみこと)、知知夫彦命(…ちちぶひこのみこと)、天之御中主神(…あめのみなかぬしのかみ)、秩父宮雍仁親王(…ちちぶのみややすひとしんのう)という御四柱をお祀りする秩父地方の総鎮守。

神社背後にある鎮守の杜〔柞の森：ははそのもり〕からマイナスイオンが放出され、とても爽やかなこの日の秩父神社であった。

★日御碕宮：日御碕神社

前回も紹介した秩父神社の摂社〔日御碕宮：ひのみさきぐう〕。ここに川瀬祭りの神様となる須佐乃男命(…すさのおみこと)をお祀りしている。

★川瀬の神輿

川瀬祭りの大祭・神輿洗いの儀式に用いられる神輿。

秩父神社から神輿が出るのは12月の例大祭(…秩父夜祭)と、川瀬祭りの2回のみ。この神輿で20日の大祭では荒川の川瀬祭場まで向かう。例大祭の神輿は黒塗りなのに対し、神輿を洗うこともあってか白木造り。

★天神地祇社
神社本殿北側に祀られている〔天神地祇社：てんじんちぎしゃ〕。全国にある一宮神社の神様を祀るこのお社の回廊には、20日の神輿洗いの儀式にお供えされる各町の供物の準備がおこなわれていた。12月の夜祭りでも天神地祇社では、川瀬祭りと同様に各町の御供物がここに保管される。

★秩父地域柔道連合会による奉献額

川瀬祭りとは関係ないが、額殿に昭和57(1982)奉納された地元秩父をはじめとした柔道連合会の奉献額。この額の書を担当されたのが、秩父市大滝(…旧秩父郡大滝村)の上中尾集落に住まわれていた山中義一先生(…故人)と知り、感嘆の声を上げてしまった筆者である。

山中先生は長年秩父地方で教職に就いたお方で、今から20年数前に建築家・関根要太郎、山中節治の設計作品研究に際し、色々とご尽力していただいた大恩人の一人である。達筆な山中義一先生からの葉書を今も大切に保管している筆者だ。本当に美しい書である。

夏になると神社境内ではミストが噴出されている。神々しい空気が漂う。

神社の隠れパワースポットの一つ〔神降石〕。道生町は平成殿前で記念撮影の準備中。筆者は神社を一端後にした。★秩父館(現ほっとすぽっと秩父館、明治12年築)

秩父神社を出た後は、神社北の宮側町屋台収蔵庫へ。

秩父館は時間の関係上、表のみ撮影。秩父館はこれまで紹介してきたように関根要太郎のお母さま・リンさんの実家で、江戸期から続く旅籠(商人宿)。明治11(1878)年に秩父大宮郷で起きた大火でこれまでの宿が焼けたため、要太郎の祖父・関根元之助が近隣にあった農家が屋敷として使っていた部材を譲り受け建てたのが、この建物だという。少年期の要太郎もここで暮らした。

★宮側町屋台(…みやかわちょうやたい、秩父市指定有形民俗文化財)
秩父館も建つ宮側町(みやかわちょう：みやのかわちょう)の屋台。明治期は花飾りを取りつけた笠鉾で祭りに参加していたが、電線架設により笠鉾の曳行を断念。改造した暫定的な山車の使用の後、昭和10(1935)年に作られたのが現在の屋台である。
山車の製作は秩父三峯神社内に現存する、秩父宮殿下三峯山御登山記念館：秩父宮台臨記念館(設計：関根要太郎＋蔵田周忠、昭和6年築)の施工も手掛けた、秩父の名工・丸岡治助が担当。反り木、腰支輪(こしりん)、彫刻などは笠鉾時代のものを使用しているという。
宮側町屋台が出発するのは暫く後だそうなので、秩父鉄道の秩父駅へ移動。秩父駅前から見る武甲山。

秩父駅に隣接する、じばさん商店(…秩父市地場産業センター)にて小休止。

店内に飾っている秩父市のイメージキャラクター・ポテくまくんも、カンカン帽を被った川瀬祭り仕様。

そしてじばさん商店では、このところブームになっている〔秩父けずりいちご〕を食す。秩父産の苺の品種・あまりんを使用しているとのこと。宮側町屋台収蔵庫へ戻ると、屋台が出発するところだった。屋台は秩父往還に出て90度の回転。ちなみにこの時は女性の方が、苦戦しながらキリンを回していた。そして秩父館をバックに秩父神社へ向け出発。秩父神社〔柞の森：ははそのもり〕をバックに宮側町屋台は進む。
本町交差点より。先導役の女性が持つ提灯の上の花飾りは、笠鉾時代の名残りだという。秩父館・関根シスターズの長姉Mさん(…故人)に色に関する話も伺ったのだが、残念ながら全て忘れてしまった。簡単なメモでも残しておくべきだったと後悔する筆者である。

それに次いで祭りの主役である子供たち。子供に続いて保護者の皆さま。そして山車。山車は90度の回転。秩父出身のユーチューバー〔埼玉の仙人〕さんの姿も見える。山車の後方を追うケータリングの補給車も、山車に似た仕様と洒落た演出をする宮側町。

担当の子供たちも頑張っていた。

宮側町屋台と別れ、今度は秩父往還を南下。このときは本町屋台が会所前に停泊されていた。

記事発表当初は巻末に地図を掲載していたが、宮側町屋台に長年携わるこの方の映像が迫力あるものなので、こちらに変更させていただいた。屋台の上から見る秩父館、柞の森、秩父神社は絶品である。

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★参考文献・参考資料

「秩父川瀬祭　東町公式ウェブサイト」

「秩父市番場町　小菅写真館、番場町屋台に関する解説展示」

「秩父神社　ホームページ」

「秩父祭り会館　ホームページ」

「秩父屋台囃子　Facebook」ほか

★撮影・・・・2025年7月1９日