埼玉県秩父市の全国植樹祭2025、その2(建築家・関根要太郎の故郷を訪ねる)

◆秩父祭・川瀬祭、笠鉾＆屋台特別公開

　・・・・令和7年5月、秩父の美しい冬夏2つの祭り山車が一同に会する

　

　令和7(2025)年5月25日の日曜日、埼玉県秩父市と秩父郡小鹿野町にある秩父ミューズパークでおこなわれた全国植樹祭。その関連イベントとして秩父市の主幹によりおこなわれたのが、秩父祭・川瀬祭、笠鉾＆屋台特別公開です。過去に国体、市制施行50周年、秩父祭(…秩父夜祭、秩父神社例大祭)の国重要有形民俗文化財指定50周年記念などで、祭りで使われる笠鉾、屋台などが公開、曳行されることは何度かありました。

　しかも今回は毎年12月2日と3日におこなわれる秩父夜祭、毎年7月19日と20日におこなわれる川瀬祭り(…秩父神社の摂社の一つ日御碕宮の例祭)の山車が、一同に見れるという史上初の試みとなりました。

　更に秩父マニアの心をくすぐったのが、中近(…なかちか)と下郷(…したごう)の笠鉾と呼ばれる山車が、往時の花飾りを付けて公開されるとの事。そして中近の笠鉾は市内で曳行されるそう。これは一生に一度のチャンスだと思い、建築家・関根要太郎(1889～1959)の故郷である秩父を訪ねた訳です。

　そして祭りの山車ですが、12月におこなわれる夜祭の笠鉾と屋台は全て見れましたが、正式公開の前日にあたる土曜日の訪問だったため、7月におこなわれる川瀬祭りの山車は、その半分の4基しか見れませんでした。しかもいつ雨が降ってきてもおかしくないような曇り空だったたため、曳行される山車の多くが秩父神社や本町(…もとまち)の停泊場所で、早々と雨夜除けのビニールを被されてしまい、満足な写真が撮れなかったのが正直なところです。

　ですが夜祭は昨年の宵宮の日に晴れ渡る冬空の下で綺麗な写真が撮れましたし、今年の川瀬祭りも日程が合いそうなので、来月たっぷり撮影してみようと思い、今回は山車が多く曳行される祭りの雰囲気を堪能した次第です。

　今回のイベントでは、川瀬祭りで使われる山車の向こうに秩父夜祭の山車が停まっていたり、秩父神社内にある本町の山車収蔵庫には、夏冬の祭りの山車が仲良く並んでいたり等、普段の祭りでは見れない貴重な光景を色々と見させて頂きました。

　そして今回のイベント見学での最大の収穫は、中近と下郷の笠鉾正装復活を見れた事です。この2つの山車は明治末まで山車の上に3層の花飾りを付け、祭りに参加していました。その高さは約15メートルあったそうですが、市中に電線が架設されたのに伴い、曳行が困難となります。結果、中近と下郷の山車連合会は花飾りを付けての曳行を諦め、花飾りに代わって屋根形を新造し祭りに参加するようになったのは、前回も紹介した通りです。それから約110年改造された山車は、祭りの顔として広く浸透しています。

　今回の笠鉾正装復活ですが、下郷笠鉾は滝の上町の山車収蔵庫から市街地に至る幹線道路に、電線が多く架設され花飾りを付けての山車曳行が困難という事もあり、秩父神社内で山車が組み立てられました。

　もう一つの中近笠鉾は、中村町の秩父三十四箇所札所の十六番・西光寺隣にある山車収蔵庫で笠鉾が組み立てられ、土曜日に坂を上って市街地にやって来ました。この姿を見たく、今回は正式公開の前日にあたる、土曜日に秩父へ訪れた訳です。

　小振りな道生町(…どうじょうまち)笠鉾に先導されるように、坂下の収蔵庫を出発し高低差約20メートルある坂を徐々に上っていく姿は感動的でありました。そのあと中近の笠鉾は、建築家・関根要太郎のお母さまの実家である秩父館(…少年期の要太郎もここで暮らした)を通過、その姿も写真に撮る事ができました。今から120年前、少年時代の要太郎氏も、店先から祭りの山車を見物していたのかと想像しながら、これらの写真を撮影していた筆者でした。

　また今から約12年前、秩父館にお住いで関根要太郎、山中節治、山中眞三郎兄弟の姪にあたるEさん(…故人)に会いに行ったところ、その前年(平成24年：2012年)10月に秩父祭国有形民俗重要文化財指定50周年を記念し、中近と下郷の笠鉾が花飾りを付けた姿で復活し、秩父館の前を昼夜に渡り何度か通り、それはしても美しいものだったという話を伺いました。

　今回はEさんのその時の感動を少しながら味わえたような気がします。私を含め多くの人が2つの笠鉾を見て、感嘆の声を上げていておりました。本当に美しかったです。

　史上初めて冬の秩父祭と夏の川瀬祭りの山車が一同に会した、全国植樹祭の関連イベント。色々と興味深い事もありました。このとき印象に残ったのが囃子手(…襦袢着)の人たちです。最初に見た番場町(…川瀬祭り)の屋台には、普段の川瀬祭りだと小学高学年の少年少女が乗るのですが、乗っていたのはそれより4～5歳上と思われる高校生くらいの若者たち。後から聞いた話ですが、コロナ禍で祭りが中止になった世代の若者たちを選抜したといいます。

　更に上町、中町、宮地屋台(…秩父夜祭)の囃子手は、定年退職を過ぎた感じのシニア世代のお父様がた。これは町に長年に渡り貢献した人たちを中心に選抜したそうです。

　そして夏の本町(…川瀬祭り)の屋台は、何と全員少女たち。近年川瀬祭りに関しては、囃子手を少年少女たちが務めていますが、本町、上町は伝統を重んじ男子のみを選抜していましたが、今回は新しい試みをしたようです。時代の変化を感じた今回のイベントでもありました。

　そういう事で本日も新緑の季節に公開された、秩父夜祭・川瀬祭りの山車の様子をご覧ください。そして今年の7月や12月に、秩父の祭りの山車を実際に堪能して頂けたら幸いです。今年は7月に川瀬祭りの笠鉾と屋台をじっくりと撮影したいと考えております。

◆全国植樹祭記念、秩父祭・川瀬祭、笠鉾＆屋台特別公開(その2)

中村町の山車収蔵庫で花飾りを付けた〔正装〕の状態で山車を組み立てられ、秩父ミューズパークから延びる県道を曳き上げられる中近笠鉾。
建築家・関根要太郎のお母さま・リンさんの実家である秩父館(…明治12年築、現ほっとすぽっと秩父館)前を通過する中近笠鉾。

◆令和7(2025)年全国植樹祭、秩父祭・川瀬祭　笠鉾＆屋台特別公開

　◎5月24日・・・収蔵庫からの屋台曳行(…一部を除く)

　◎5月25日・・・秩父神社での笠鉾・屋台の天皇鑑賞、公開・曳行(…秩父祭)

　　　　　　　　　市内での笠鉾・屋台の公開・曳行(…川瀬祭)

　　　❖国指定重要有形民俗文化財…秩父祭の笠鉾・屋台

　　　　(昭和37年：1962年指定)

　　　❖埼玉県無形民俗文化財…川瀬祭りの笠鉾・屋台

　　　　(令和3年：2021年指定)

秩父神社を一端離れ、秩父往還(…大通り)を北上。写真の宮側町は明治から昭和初期に建てられた古い商家が残る風情ある一帯だ。こちらは近年リノベーション工事がおこなわれ、オープンした旧丸十薬局。現在は古民家ホテルとレストランとして使われている。★秩父館(…現ほっとすぽっと秩父館、明治12年築)

今にも雨が降り出しそうな曇天の下、あと4年で築150年を迎える秩父館は、いつも以上に重厚に見えた。

★宮側町屋台(…川瀬祭り)

秩父館が建つ宮側町の屋台。昭和10(1935)年に地元の名工・丸岡治助が建造。丸岡は秩父神社神門のほか、秩父市日野田の東京大学秩父演習林日野田事務所(大正11年築)、秩父市大滝三峯神社内に建つ秩父宮殿下三峯山御登山記念館：秩父宮台臨記念館(設計：関根要太郎＋蔵田周忠、昭和6年築)の施工を手掛けている。

宮側町の屋台収蔵庫のある町公会堂を振り返ると、ご覧のように秩父館が。左に写るのは秩父神社の柞の森(…ははそのもり)。

★坂を上る道生町と中近笠鉾

秩父館から少し歩を進め、秩父駅前の交差点から荒川方面を見てみると、道生町(…どうじょうまち)と中近(…なかちか)の笠鉾が。両者とも坂を上り、少しずつこちらへとやって来た。

前方に収蔵庫を出たばかりの高さ7メートル弱の道生町笠鉾。後方に高さ約15メートルの中近笠鉾が続く。大小、まるで親子のような笠鉾の構図。★道生町笠鉾(…川瀬祭)

平成9(1997)年に上町の笠鉾を譲り受け使用。腰組などは上町笠鉾の形態を色濃く残しているという。いわば上町笠鉾と兄弟ともいえる存在。

この日は若い男性の明るく分かりやすい指示のもと、町民や一般参加の曳手により山車は順調に坂を上っていった。

多くの人が笠鉾の反対方向の、写真を撮ったり振り返っているのは、後続の中近笠鉾がやって来たため。

★中近笠鉾(…秩父夜祭)

中村町と近戸町の合同により出される山車。通常の夜祭では八棟造りという複雑な屋根の造形、煌びやかな細部装飾が印象的。その上に3層の花笠を付けて祭りに参加。山車の高さは約15メートルあるという。

通常の夜祭だと高さ5．5メートルと小振りな山車だが、その上に花飾りを付けるとかなり印象が変わる。今回のイベントで花飾りを付けての曳行が可能という事が実証された訳である。

秩父駅前の交差点が混雑してきた事もあり、こちらの小路を通り秩父館へ。奥手に見えるのが秩父館。そして秩父館前にて中近笠鉾の到着を待つ。秩父駅前で一時停泊する中近笠鉾。

待つこと約10分、中近の笠鉾が秩父館前を通過する。

今から120年前の明治時代に少年だった関根要太郎も、秩父館の店先から中近笠鉾を見ていたのかと想像した筆者であった。天国のEさん、私も13年遅れで秩父祭の笠鉾を秩父館前で見る事ができました。

大通りはかなりの人混みだったので、例の如く秩父神社横の柞通り(…ははそとおり)を歩く。ご覧のように花飾りが付けられた笠鉾はかなりの高さ。

★番場町屋台(…川瀬祭り)

前回紹介した番場町屋台は、神社内に入る上町、中近の山車を迎えるために待機の状態。近年塗りなおされた朱色の塗装が美しい。
★中近笠鉾ぎり回し
本町交差点で中近笠鉾は90度のぎり回し。見てるこちらがドキドキしてしまうような山車の傾き具合だ。★上町屋台(…秩父夜祭)

秩父市出身の落語家・林家たい平師匠が、祭りに参加する事でもお馴染みの上町屋台。昭和後期に山車の曳手に女性を登用するなど革新的な町でもある。

山車は四方に破風を持つ四棟造りで、重厚な屋根が印象的である。また他町の夜祭山車は梃棒を使った〔ぎり回し〕という力技で山車を回転させるのだが、上町の〔キリン〕と呼ばれる機械で山車を回転させる。ちなみに川瀬祭りでもキリンという装置で山車を回転させている。

★伝統に則った上町屋台の車輪の潤滑油

秩父地方の祭りに訪れるたびに注目してしまうのが、山車の車輪に挿す潤滑油。これまでは市販の食用サラダ油、葱などを見てきたが本格的な褐色の油に、これも拘りのありそうな草が備え付けられていた。質問しようと思ったがタイミングを逃し、その謎は解けなかった。左奥に見えるのは中近の笠鉾。★埼玉りそな銀行秩父支店　今回植樹祭の屋台公開に際しては、この近辺が公開場所になるため、本町の埼玉りそな銀行支店駐車場が笠鉾＆屋台の停泊スペースとなった。今にも雨が降り出しそうという事でビニールが被され、明日の公開を待つ事になる。

道場町の笠鉾はビニールを被せる準備中。

宮側町屋台もビニールを被せる作業の最中だった。道路には山車が通過した車輪の痕跡が。本町の交差点もぎり回しの痕跡が。秩父神社に戻ると中近笠鉾が神社境内に。上町屋台も神社に入場する寸前だった。地元番場町の屋台(…川瀬祭り)が神社に入場する屋台を歓迎する役割をしていた訳である。★中近笠鉾と下郷笠鉾(…秩父夜祭)

今回のお目当て2つの笠鉾を撮影しようと思ったが、雨に備えて下郷笠鉾にはビニールシートが被されていた。

上町の屋台が入場して秩父神社境内には下郷、中近の笠鉾、宮地、本町、中町、上町ま屋台という秩父夜祭の６つの山車が勢ぞろいした。但し入場エリアが制限されていたため、全ては撮影できなかった。雨に備えて全ての山車はビニールシートが被されていた。

秩父神社の摂社にもお参りして、会場を後にした。

左から下郷、中近の笠鉾、上町、中町、宮地の屋台。写真には写っていないが、上町と中町の屋台奥には本町屋台があった模様。秩父祭の山車が神社内に集結するのは滅多にない出来事だが、今にも雨が降りそうな天候という事もあり、早々とビニールシートが被されてしまった。

翌日の昼過ぎ天皇陛下も、ビニールシートが被された状態の祭り山車を見学された。
その後、上町の矢尾百貨店で日用品を買い、帰途に就いた。この日、西武秩父駅の構内に展示されていた秩父銘仙。駅の照明も笠鉾の花飾りが。()

40000系(S‐train)と001系(特急Laview)。現代の西武鉄道の花形電車。

この日は特急ラビューで帰宅。

***********************************************************

★参考文献・参考資料

「秩父夜祭」薗田稔氏監修、さきたま出版、平成17年

「秩父夜祭の基礎知識」ホームページ

「秩父屋台囃子」Facebook

「秩父おもてなしTV」ほか

★撮影・・・・2025年5月