埼玉県秩父市の全国植樹祭2025、その1(建築家・関根要太郎の故郷を訪ねる)

◆秩父祭・川瀬祭、笠鉾＆屋台特別公開

　・・・・令和7年5月、全国植樹祭・秩父市記念事業を見る

　令和7(2025)年5月25日、埼玉県秩父市から小鹿野町にかけてある〔秩父ミューズパーク〕にて、全国植樹祭がおこなわれました。この大会は国内緑化の推進を目的に、昭和25(1950)年に山梨県でおこなわれた第一回大会を皮切りに、全国都道府県の持ち回りで、今回で75回目を迎えるという歴史ある大会です。埼玉では昭和34(1959)年の第10回大会から、66年振りの開催になるそうです。

　秩父市内の多くのスポットでは、早い時期から開催を知らせるポスターが掲示されており、このような催し物がおこなわれる事は、埼玉県民の私も認知していました。

　そして4月上旬の事になりますが、秩父市から全国植樹祭に関する興味深いプレスリリースがおこなわれました。それは植樹祭に際する記念事業で、毎年12月におこなわれる秩父神社例大祭(…秩父夜祭)と、毎年7月におこなわれる川瀬祭りの笠鉾と屋台が一般公開されるというのです。

　これまで日本三大曳山祭りの一つとして名高い、秩父神社例大祭(…秩父夜祭、秩父祭)の山車は、秩父市制実施50周年記念や、国の重要有形重要民俗文化財指定50周年、国体などのイベントを記念して、祭りの期間以外にも山車の飾り置き、一部の曳行などの特別公開がおこなわれていました。しかし上町(…かみまち)、中町(…なかまち)、本町(…もとまち)、宮地(…みやじ)、下郷(…したごう)、中近(…なかちか)の6台ある秩父夜祭の山車と、川瀬祭りの笠鉾・屋台と同時に公開されるのは、初めての試みという事です。

　そして今回、私が全国植樹祭記念の山車特別公開に何が何でも行きたかった理由が、笠鉾の正装復活という点です。

　12月におこなわれる秩父夜祭では、上町、中町、本町、宮地の各町会の屋台のほか、中近、下郷という2つの近隣町の連合体が笠鉾と呼ばれる山車を祭りで使用します。秩父夜祭の山車に関しては一見するだけでは、屋台と笠鉾の区別がしづらいかも知れません。かという私も長年に渡り、その違いが分かりませんでした。

　実は下郷と中近の山車は、江戸期からの長きに渡り冒頭の写真のような、造り花を山車に飾り祭りに参加していました。その高さは明治期の段階で15～16メートルあったといいます。高い建物といっても、せいぜい3階建て程度だったこの時代では、祭りの笠鉾は相当なインパクトがあったと思います。しかし明治末に秩父では電話線が町中に架設されることになり、中近と下郷の山車曳行は出来なくなります。

　結果、中近と下郷の町会は造り花の飾りを付けての山車曳行を諦め、山車に屋根を新造して祭りに参加することにしたのです。建築家・関根要太郎(1889～1959)が秩父郡立農学校(…現埼玉県立秩父農工科学高校)を卒業し、上京したのが明治40(1907)年のことでしたので、その数年後に起きた事件だった訳です。

　以降、中近と下郷の笠鉾は屋根を付けた状態で110年ちかく参加していますが、下郷の改編された山車 はとても勇壮なもので、祭りの宣材写真、土産物のパッケージ、商店の看板写真、温泉の壁画などに多く使われています。

　花飾りを付けない状態で、1世紀以上に渡り12月の秩父夜祭に参加している下郷と中近地区。しかし秩父祭の本番ではないですが、今回のようなイベントを記念し、2つの町会が花飾りを付けた、いわゆる〔正装〕の状態で笠鉾が公開されています。近いところでは平成24(2012)年10月、秩父夜祭の国指定重要民俗文化財指定50周年を記念し、秩父神社～秩父往還(…大通り)～秩父駅間を、花飾りを付けた高さ15メートルある山車の状態で笠鉾が曳行されました。

　この時の山車曳行は見に行きませんでしたが(…そのようなイベントがある事すら知らなかった)、翌年の年明けに建築家・関根要太郎の実家である秩父館の女主人Eさん(…故人、関根要太郎＋山中節治・眞三郎兄弟の姪にあたる)に会いに行ったところ、秩父館前を曳行される笠鉾の姿は、とても美しく感動的だったと熱く語ってのがくれたのが思い出に残っています。

　今回、下郷笠鉾は秩父神社内での山車組み立て曳行でしたが、当時のEさんの感動を味わいたく、中近笠鉾の通過を秩父館前で待った土曜の昼下がりでした。

　実はこの日の屋台特別公開は、前日準備という事もあり完全なものではなく、上町、中町(…今回は不参加)、熊木町(…くまぎまち)、道生町(…どうじょうまち)の笠鉾、本町、東町(…ひがしまち)、番場町(…ばんばまち)、宮側町(…みやがわまち)の屋台がありますが、残念ながらその半分にあたる4基しか見れなかったのが、悔やまれる点です。今年は川瀬祭りとスケジュールが合いそうなので、再来月に改めてたっぷり鑑賞・撮影したいと思います。

　そして今回準備段階の土曜日に秩父を訪れたかというと、中近の笠鉾が中村町の屋台収蔵庫から、秩父ミューズパークから続く公園線という、道幅の広い道路を上って来る姿を実際に見たかったからです。

　道生町の小振りで可愛らしい笠鉾に先導されるように、ゆっくりゆっくりと上っていく中近の笠鉾は、本当に美しく感動的でした。天気は悪かったですが秩父館の前でも撮影できました。

　このところ秩父の祭りばかり紹介ているので、今回は発表を控えようとも考えました。しかし一生に一回あるかないかの秩父祭の貴重なイベントを見れたので、全2回に分けて特別公開の様子を発表することに致しました。今にも雨が降り出しそうな生憎な天気の当日でしたが、中近、下郷の両笠鉾を中心に様々な写真を撮れたと思います。当日はかなり体調が悪かったのですが、頑張って秩父に行った甲斐はあったと思います。

　これまで3月の山田の春まつり、4月の小鹿野春まつり、7月の川瀬祭りという秩父地方の祭りの笠鉾を見てきましたが、中近、下郷の笠鉾は規模や美しさなど、他を圧倒していました。本当に素晴らしいものでした。

　そういう事でマンネリ化しつつある秩父の祭り探訪記でが、全2回に渡り秩父祭の美しい山車の数々を今回もご覧ください。

★全国植樹祭記念、秩父祭・川瀬祭、笠鉾＆屋台特別公開(その1)

秩父神社前にて番場町屋台(…川瀬祭り)と、鳥居奥は花飾りが付けられた下郷笠鉾(…秩父夜祭)。秩父の長い歴史の中でも、初めてといわれる冬の祭りと夏の祭りの山車の競演。

建築家・関根要太郎のお母さまの実家にあたる、秩父市宮側町の秩父館(明治12年築、現ほっとすぽっと秩父館)前を通過する中近笠鉾一行。この後、冒頭の写真でご覧いただいた高さ15メートルの笠鉾が通過する事になる。

◆令和7(2025)年全国植樹祭、秩父祭・川瀬祭　笠鉾＆屋台特別公開

　◎5月24日・・・収蔵庫からの屋台曳行(…一部は除く)

　◎5月25日・・・秩父神社での笠鉾・屋台の天皇鑑賞、公開・曳行(…秩父祭)

　　　　　　　　　市内での笠鉾・屋台の公開・曳行(…川瀬祭)

　　❖国指定重要有形民俗文化財…秩父祭の笠鉾・屋台

　　　　(昭和37年：1962年指定)

　　❖埼玉県指定無形民俗文化財…川瀬祭の笠鉾・屋台

　　　　(令和3年：2021年指定)

　

★西武鉄道の特急電車：Laview(…ラビュー)・001系

今回の全国植樹祭記念の秩父夜祭＆川瀬祭りの笠鉾・屋台公開を知り、居ても立っても居られない気分になっていた筆者。早々と西武鉄道の特急電車のチケットを購入していた。今回も少し遠回りして池袋からのスタート。

平成31(2019)年にデビューした西武の新型特急Laview(…ラビュー：001系)は、日本建築学会賞、アメリカのプリッカー賞、村野藤吾賞の受賞経験を持つ建築家・妹島和世(1956～)さんがデザイン監修を担当。近未来的なデザインの特急電車は、相変わらずの人気である。

★西武鉄道・秩父旅の新CMは女優の見上愛さん

西武鉄道の池袋駅では、西武秩父観光の新CMが頻繁に流されていた。主演は女優の見上愛さん。見上愛さんは、来年春から放送されるNHK・朝の連続ドラマのヒロインを務めるという。

★入間市駅付近より奥多摩・秩父の山々を見る

池袋駅を出発して約35分の入間市駅より。晴天ならば日本百名山の一つで東京都の最高峰・雲取山(標高2017メートル)から、秩父の霊峰・武甲山(標高1304メートル)が一望できるのだが、このような天気なので麓の部分が見えるだけだった。

ちなみに写真中央のやや左下に写る青瓦の建物は、旧石川組製糸西洋館(大正10年築)。設計は地元埼玉県狭山出身で、東京帝国大学卒業の建築家・室岡惣七(1885～1951)が担当している。

新緑の奥武蔵路から秩父路を特急電車は走る。

終点・西武秩父駅の一つ前の横瀬駅付近になると、車内から秩父の霊峰・武甲山(…標高1304メートル)が見える。このような曇天なので山頂付近は見えず。そして西武秩父駅に到着。晴天ならば写真右奥に秩父の霊峰で日本百名山の一つである、両神山(標高1723メートル)が見えるのだが曇天で全く見えず。

★西武秩父駅に展示されているE851型電気機関車と特急5000系電車のミニチュア

　

昭和44(1969)年の西武秩父線開通に合わせデビューした、E851型電気機関車と特急電車5000系(…レッドアロー)。両者とも引退から30年近く経ったが、西武沿線で育った筆者にとっては思い出深い電車である。ちなみに特急レッドアローのミニチュアの運転台には、今回の秩父祭・川瀬祭りの笠鉾＆屋台公開のチラシが。そして電車の上には笠鉾の花飾りが施されていた。

西武秩父駅にはこのようなボードも。
★熊木町の御旅所

12月3日におこなわれる秩父夜祭の本祭のハイライトの地となる御旅所。神社の祭りの本番ではないが、こちらに参拝した。

ちなみに秩父夜祭は、秩父神社に祀られる妙見神(…女神)と、武甲山に住む龍神(…男神)が、年一度この場所で会瀬を楽しむという伝説に基づきおこなわれている。

★秩父鉄道・御花畑駅踏切にて

そして御旅所から秩父夜祭の名所として有名な団子坂を下る。秩父鉄道の踏切を走るのは、西武線から乗り入れてきた4000系電車。西武鉄道がバブル期の1980年代末に秩父観光の新たに要として導入したクロスシートの観光用電車だが、時代の流れと共に間もなく引退となるらしい。

ちなみに全国植樹祭の会場となった秩父ミューズパークは、当時西武鉄道の親会社だったコクド(…旧箱根土地～国土計画)が主体となり開発がおこなわれ、平成3(1991)年にオープンしたもの。現在は西武から埼玉県と秩父市の管轄となっている。

★番場通りを歩く

そして秩父神社の表参道にあたる番場通りを歩く。銘仙景気で繁盛していた、大正から昭和初期に建てられたレトロな建物が多く残る。この一帯、近年では大人気のエリアとなっている。

番場通りにある移住相談センターにも笠鉾＆屋台特別公開のポスターが。

★番場町屋台(…川瀬祭り)

今回最初に見た山車は、番場通りに屋台収蔵庫を置く番場町屋台だった。

昭和10(1935)年秩父荒木(…現在の秩父市山田)の工匠：坂本森太郎と高橋卯三郎の手により建造されたもの。朱塗りの赤が美しい山車で、それに合わせて祭りの町会の装束や、街路灯も朱色に塗られるという徹底ぶりだ。

収蔵庫を出た番場町屋台は90度の方向転換。〔キリン〕という回転装置を使っているので、夜祭りの〔ぎり回し〕に比較すると少人数での回転が可能である。しかしながら力のいる作業であることは違いない。秩父神社大鳥居前で山車は一時停泊。筆者夫妻はここから秩父神社へ。鳥居の向こうには下郷笠鉾が。★下郷笠鉾(…秩父夜祭)

秩父市街地から北西にあたる大畑・滝の上・永田・阿保・金室・柳田の6町連合で曳行される。

明治末の電線架設に伴い花飾りを付けた状態での曳行が不可能になり、結果下郷笠鉾連合は花飾りを取った状態で祭りに参加する事を決定。大正6(1917)年には秩父の名工・坂本森太郎により腰屋根付き四方唐破風造りの屋根型が増築された。

福家線された笠鉾の花飾りは、増築された屋根型の上に置かれたものなので、明治末までの姿とは若干違う事になる。御光と呼ばれる飾りまでの高さは15・5メートルあるという。

★秩父神社

市内に山車は出ているが、神社の例祭ではない事もあり境内は落ち着いた雰囲気。

翌日の昼は天皇陛下が秩父神社に来訪され、祭りの屋台を見学した。

境内を流れる柞の禊川は心落ち着く癒しのスポット。★宮地屋台(…秩父夜祭)
秩父市街地から北の宮地地区から出される山車。秩父夜祭の中では一番古い山車と言われている。他の山車と比べるとスマートな感じの作り。後幕に刺繍されているのは、猩々(…しょうじょう)と呼ばれる空想上の動物。先月訪れた小鹿野春まつり(…小鹿神社例大祭)の春日町屋台にも宮地と同様に猩々の刺繡が施されていた。宮地屋台と花飾りが付けられた下郷笠鉾。なかなか見れないツーショット。

猩々が刺繍された後幕は、京都の川島織物セルコンが製作したもの。祇園祭、高山祭など歴史ある祭りの幕などを製作する老舗メーカーだ。この後、秩父夜祭6基の山車が神社に集結する事になる。
★本町屋台(…左・川瀬祭り、右・秩父夜祭)

秩父神社の境内に山車収蔵庫を持つ本町。夏と冬の祭りの山車が並んで飾り置きされるのは、恐らく初めての事ではないかと思う。この後、こちらのエリアの立ち入りが禁止されたため、今回は数枚の撮影のみ。

神社の西門付近で待機する番場町屋台(…川瀬祭)。秩父神社のお膝元の番場町屋台は、神社に集結する夜祭の山車を歓迎する役割をおこなっていたようだ。

★中町屋台(…秩父夜祭)

正面は破風の装飾が賑やかな中町屋台。上町、本町は夏・冬両方の山車を曳行させたが、中町は冬の屋台のみ。

筆者が訪れた昨年の宵宮は、先代の後幕を使用していたが、今回は海老や鯛を刺繍した従来のものを使用していた。

左奥には武甲山の姿も。

本町交差点で秩父夜祭名物の〔ぎり回し〕をおこなう。テコ棒を使った力技で、山車を傾かせ回転させる作業だ。

屋台車輪の潤滑油。市販のサラダ油が秩父地方の祭りでは多く使われているが、本格的な機械用の油の模様。

秩父神社を出た後は、関根要太郎の実家である秩父館へ。

次回は宮側町で見た中近笠鉾の様子を中心に探訪記を進めていきます。

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★参考文献・参考資料

「秩父夜祭」薗田稔氏監修、さきたま出版会、平成17年

「秩父夜祭の基礎知識」ホームページ

「秩父祭屋台囃子」Facebook

「ちちぶまつり会館」ホームページほか

★撮影・・・・2025年5月