埼玉県秩父郡の小鹿野春祭り2025、その2(建築家・関根要太郎の故郷を訪ねる)

◆小鹿野春祭り、小鹿神社例大祭

　・・・・秩父市の西隣・小鹿野町でおこなわれた美しい曳山祭り

　毎年12月2日と3日におこなわれ、国の有形民俗文化財と無形民俗文化財、そして近年はユネスコの世界文化遺産に指定されたことで知られる、埼玉県秩父市の秩父神社例大祭(…通称：秩父夜祭)。当ブログの主人公である建築家・関根要太郎(1889～1959)の故郷・秩父の市街地である旧大宮郷でおこなわれる歴史ある祭りは、6台の屋台と笠鉾と呼ばれる勇壮で美しい山車が曳行され、祭りに華を添えます。昨年12月2日の日中にこれらの山車を見学しましたが、すべての山車が美しく感動的な一日を過ごす事ができました。

　また昨年の秩父夜祭前に地元在住の方が、長年開設されている〔秩父夜祭の基礎知識〕というホームページや、その方が運営されている〔秩父屋台囃子〕というFacebookで、筆者が何度か訪れている秩父神社の夏祭りである川瀬祭りの他にも、秩父地方には多くの山車を曳行させる祭りがある事を知り、その祭りを年数をかけて巡ってみようと思った次第です。

　そして今年になり訪れたのが、3月に秩父市の山田地区でおこなわれる山田の春祭り(…恒持神社例大祭)であり、4月に秩父郡小鹿野町でおこなわれた小鹿野春まつり(…小鹿神神社例大祭)だったのです。

　なお前回や今回の記事に掲載した冒頭の写真をご覧になって、秩父夜祭の山車みたいだと思われた方も多くいらっしゃるかも知れません。私も今回小鹿野春まつりを訪れて、秩父夜祭の曳行される山車と本当に酷似していると思いました。山車は秩父夜祭の強い影響下にある小鹿野の祭りですが、祭りの内容は多少違うものだという事は、前回に述べさせていただいた通りです。伝統を重んじる秩父夜祭に対し、新しい文化をさりげなく添えているのが、小鹿野の祭りという感じでしょうか。

　今回は祭り２日目の4月19日におこなわれた本祭に訪れた筆者ですが、埼玉県某所の自宅を朝５時半に出発。JR武蔵野線～西武鉄道～西武バスを乗り継ぎ、約3時間半をかけて(…特急電車とバスの待機時間を含む)、目的地である秩父郡小鹿野町を訪ねた次第です。

　早出の甲斐もあり、この祭りで曳行される上町、春日町、腰之根(宮元)、新原の4つの屋台・笠鉾を早い時間から撮影でき、また上町屋台は曳行開始の記念行事も見る事もできました。

　昨年12月の秩父夜祭の時は、6台すべての山車を見るために綿密なスケジュールを練っていた筆者でしたが、今回は小鹿野の到着以降はほぼノープランの状態で、観光協会の特設コーナでで山車の曳行予定などが記された祭りのチラシを貰い、古くから小鹿野町の中心地だった県道209号線(…バス通り)に停泊されていた、上町、腰之根、新原の屋台、笠鉾を撮影。町東側の会所を出発したばかりの春日町の屋台を撮影。到着1時間にして小鹿野春まつりに出る4つの山車全ての山車を撮影する事ができました。

　そして午前中における嬉しい収穫の一つが、県道209号線沿いの上二丁目に建つ加藤家住宅(…常盤屋、小鹿野町指定有形文化財)が祭りに合わせて内部公開されており、邸内を見学できた事でした。

　この住宅は小鹿野を拠点に活動した、生糸商の初代・加藤恒吉(1825～1890)により、明治13(1880)年に建てられた店舗兼住宅で、広大な蔵や離れを持つ町ではトップクラスの規模と美しさを誇る歴史的建造物の一つです。小鹿野へ訪問する前にGoogleのストリートビューを閲覧して、見てみたいと思っていた建物の一つでした。

　住宅内で頂いた解説のチラシによると、秩父郡高篠村(…現在の秩父市山田)の棟梁・荒木和市に建てられたものだそうで、3階建ての上階部分は生糸商らしく、蚕の飼育スペースに充てられていたという大規模な板張りの部屋がありました。かつて養蚕業で繁栄していた小鹿野町は、その時代を物語るような古い商家が所々に残っていました。また祭りの山車が曳行された県道沿いも、この北側に新たに国道が敷設された事も影響しているのか、昭和の香り漂う懐かしい町並みを形成していました。

　また加藤家住宅を見学している間に、4つの町会により出された山車は、昼の奉納行事のため町の北部にある小鹿神社(…こじかじんじゃ)に向かっており、筆者夫妻もそれを追いかけ追い越し神社へ向かいました。

　小鹿神社は日本武尊伝説を起源とする神社で、日本武尊を助け息絶えた鹿を祀っている事から〔小鹿〕の名が付けられたといいます。明治43(1910)年の豪雨で以前の社殿が水没したため、現在地に移転したそうです。現在はバイク好きのライダーたちに、人気の神社になっています。

　小鹿神社に参拝後、既に神社に到着していた腰之根笠鉾を撮影した後、午後の御神幸祭の行列で使われる大神輿を撮影。その後は神社広場の片隅に陣取り、新原、上町、春日町の笠鉾と屋台の神社到着の様子を見学。４台の山車が神社に揃い置きされている様子を見て、神社を後にしました。本日も掲載した写真がかなりの量になってしまっているので、今回はそのさわりだけで詳しくは次回紹介したいと思います。

　そして神社の境内やその周辺では東に日本二百名山の一つである武甲山(…標高1304メートル)、西に日本百名山の一つである両神山(…海抜1723メートル)という秩父の両霊峰を望めたのも印象的でした。秩父地方を訪れ、この2つの山を見るたび、古の時代から霊峰として崇められてきたのが頷けるような気がします。

　そういう事で本日は、小鹿野滞在の午前中に撮影した写真を中心に祭りの様子をご覧ください。

★令和7年、小鹿野春まつり(小鹿神社例大祭)、その2

小鹿神社境内より。左から腰之根(宮元)笠鉾、新原笠鉾、上町屋台、春日町屋台。

◆令和7(2025)年、小鹿野春まつり(小鹿神社例大祭)　◎4月18日：宵宮…屋台・笠鉾曳きまわし、歌舞伎上演　◎4月19日：本祭…屋台・笠鉾曳きまわし、歌舞伎上演、神幸祭　　　　　　　　　　神楽奉奏、剣道演武、煙火奉納ほか　　❖埼玉県有形民俗文化財　　　春日町、上町屋台(昭和56年：1976年3月指定)　　　新原、腰之根笠鉾(平成11年：1999年3月指定)
★新原笠鉾(…埼玉県指定有形民俗文化財)
小鹿野郷の西に会所を置く新原笠鉾。腰屋根の上に3層の花笠を置き、万燈、せき台、御幣を置く。全体的には秩父夜祭の中近笠鉾の正装時に似た作り。なお1枚上の笠鉾の前に並ぶ少女たちは、新原笠鉾の先導を務める金棒突きというお役目。カラフルな装束で祭りを盛り上げる。
腰之根、新原の2台の笠鉾を撮影後、来た道を戻り２つの屋台を見に行くことにした。
朝いちばんで見た上町屋台は神社へ向けて曳行中。昭和の香り漂う小鹿野の町並み。本文でも紹介したが、小鹿野には往時の繁栄を物語る歴史的建造物が多く残る。この商家もその一つ。
こちらの洋館は旧医院だという。そして春日町屋台の行列と最後に遭遇する。

★春日町屋台(…埼玉県指定有形民俗文化財)

小鹿野郷の東側に会所を置く。秩父夜祭の山車の影響を強く受けた作り。

山車の後幕は猩々(…しょうじょう)と呼ばれる伝説上の生き物。秩父夜祭では宮地屋台の後幕にも猩々が刺繍されている。

★加藤家住宅：常盤屋(明治13年築、小鹿野町指定有形文化財)

本文でも紹介した小鹿野郷で一番の規模と美しさを誇る、住宅兼店舗。出桁造りの正面、白漆喰が美しい蔵や建物側部など、往時の繁栄が偲ばれる建築作品である。

天井の梁は見事な作り。

2階は養蚕に使われていたという部屋。そこを見下ろすと春日町屋台の一行が。

★2階から見る春日町屋台

2階から見る祭りの山車はなかなかの迫力。と同時に20年前、関根要太郎のお母さまの実家である秩父館(明治12年築)で夜祭見学をさせていただいた時、秩父館の女主人Eさん(…故人)の長姉で、秩父の歴史やしきたりに詳しいMさん(…故人)に、秩父の祭りでは神様を乗せた山車を見下ろすのはご法度で、祭り当日は2階以上の雨戸を閉めるという風習があったと伺った事を思い出した。秩父の大宮郷から山を越えた小鹿野では、そのような風習があったのだろうか気になった筆者である…。
3階からは武甲山も美しく聳えて見えた。

この日は晴天で、正午近くには30℃近くの高温に。町営の無料休憩所前のベンチにて涼をとらせて頂いた。休んでいる間にも上町の屋台が通過していった。

★各町の山車は小鹿神社の表参道へ

県道を曳行されていた山車は、小鹿神社へ向けて90度の右折。

秩父夜祭では〔ぎり回し〕と呼ばれる、長い材木を使った梃の原理を利用した力技で山車を回転させるのだが、こちらは〔シャチ巻き：車地巻き〕という装置を使い山車を回転させている。しかしながらこちらも相当力のいる作業のようだ。

上町屋台に続き春日町屋台も参道入り口近くに。山車の右手に見える独特な山容の山は、秩父郡横瀬町にある二子山(…標高883メートル)。筆者が通勤中の電車内で武甲山と共によく見る山である。

狭い参道という事もあり、山車の曳行には苦労されているようだった。シニア世代のご夫妻、X世代の凸凹筆者夫妻は、祭り見学に来ていた若い女性に先導されるように、小走りで迂回路を通り上町屋台より先頭に回ることに成功した。

小鹿神社の大鳥居で新原笠鉾に追いつく。更に笠鉾を追い越し神社に入った。そして小鹿神社の境内へ。そこには既に腰之根笠鉾が停泊されていた。

★小鹿神社本殿

そういう事で小鹿神社の本殿に到着。明治43(1910)年の大雨で、現在の町役場そばにあった本殿(…現在は元宮として使用)が浸水したのを機に、こちらへ移ってきたという。近年ではバイクのライダーたち人気の神社となっているという。

★御神幸祭で使われる大神輿

正午過ぎからの御神幸祭では大神輿を中心とした行列が、町役場そばの元宮へと向かう。

境内では神楽の奉奏もおこなわれていた。

★神社境内に展示してあった金棒突きの装束

こちらは祭りに華を添える各町会が曳行する先導役を務める、金棒突きと呼ばれる少女たちの装束。前後左右カラフルで。見る角度によって印象が変わる。

ちなみに手前に敷かれているブルーシートは、昼食会場として充てられたもの。ここで各町会お弁当を頬張るという。長閑な小鹿野の春まつりである。

★武甲山と腰之根笠鉾

武甲山と腰之根笠鉾。両神山も作家・深田久弥(1903～1971)が著書〔日本百名山〕で記した、「ギザギザした頂陵の一線」が所々で見えるのだが、周辺の山が邪魔して両神山全体を捉えられる場所が少なかったのに対し、武甲山は障害となる山が少ないこともあり、小鹿野の町からも良く見えた。

神社の境内で新原、上町、春日町の笠鉾、屋台の到着を待つ事にした。詳細はまた次回に。

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★参考文献・参考資料

「秩父夜祭」薗田稔氏監修、さきたま出版会、平成17年

「秩父屋台囃子：Facebook」

「小鹿野町ホームページ」

「ウィキペディア、小鹿神社」

★撮影・・・・2025年4月19日