埼玉県秩父市の山田春祭り2025、その2(建築家・関根要太郎の故郷を訪ねる)

◆秩父山田の春祭り、恒持神社例大祭

　・・・・令和7年早春、秩父の山村でおこなわれる美祭を見る

　1年に300近い祭りがおこなわれるという、建築家・関根要太郎(1889～1959)の郷里である埼玉県の秩父地方。毎年12月2日と3日におこなわれる、日本三大曳山祭りの一つとして名高い秩父夜祭(…秩父神社例大祭)は全国的に有名ですが、長年に渡り筆者は秩父夜祭のほか、7月19日と20日におこなわれる秩父神社の例祭の一つである川瀬祭りしか訪れた事がありませんでした。

　しかし近年、関東地方でおこなわれる曳山祭りに関心を持っている筆者は、〔秩父お祭りカレンダーPROJECT〕というサイトや秩父地方在住の多くの方が発信されるSNSで、秩父には多くの曳山祭りがある事を知り、それらの祭りを見たいと思った次第です。

　そして秩父神社例祭以外の最初の祭りとして選ばせていただいたのが、秩父市街地(…かつては大宮郷と呼ばれた)の北東、山田地区で3月の第2日曜日におこなわれる山田の春祭りでした。恒持神社という地元の神社の江戸期より続く例祭です。

　前回の記事でも簡単に紹介しましたが、この祭りは上組、山組、本組という3つの町会が笠鉾と屋台と呼ばれる山車を曳行させます。秩父地方の祭りはその中心地域である、大宮郷(…現在の秩父市街地)で長年に渡りおこなわれている、秩父夜祭の影響が強いようで、秩父地域ではそれに似た山車を曳行させる祭りが多く存在します。今回訪れた山田の春祭りもその一つで、秩父夜祭に比較すると規模は小さいですが、その文化的価値は古くから認められていたようで、昭和40(1965)年には秩父市の有形民俗文化財に指定されています。

　また山車もそうですが、秩父で長年伝承される屋台囃子、山車に先頭部に乗り先導する4人の囃子手による「ホーリャイ」という掛け声、そして山車の曳行中に各所でおこなわれる所作(曳き踊り)という秩父在住の児童による奉納の日本舞踊など、内容は秩父夜祭に酷似しています。かつては養蚕や絹織物や銘仙の生産で繁栄を極めていた山田地区(…昭和32年までは秩父郡高篠村だったが、同年秩父市へ編入)としては、大宮郷でおこなわれる秩父夜祭に、追いつけ追い越せという意気込みもあったのではないかと想像してしまいます。

　子供の頃より幾度となく訪れている関根要太郎の故郷・秩父地方。埼玉県内で暮らす筆者としては、日帰りでも余裕で行ける場所あります。

　しかし祭りがおこなわれる場所が、秩父市街地より若干離れている事や、祭り当日はバス路線が山車の曳行ルートとなるため、通常と離れた場所を迂回するという事で、臨時のバス停留所が祭りの会場から若干遠いなどの交通面の不安もあり、近隣のホテルに一泊する事にしました。

　今回訪れた山田の春祭りは朝の８時半より山車が動くそうなので、近くのホテルに泊まれば祭りも早い時間から見れると考えた訳です。しかし早朝の露天風呂や、秩父夜祭をモチーフとしたモザイクタイルが美しい大浴場を更に楽んだり、のんびり朝食をとるうちに時間は過ぎてしまい、結局10時近いチェックアウトになってしまいました。部屋から見える早朝の秩父の山々が美しく、急ぐ必要はないと思った訳です。

　秩父市の山田地区、冒頭に掲載した写真の山車の背後に見える山からお察しのように、四方を山に囲まれた地域です。山車が曳行されるメインのルートは途中小さな川を渡る事もあり、それなりの起伏があります。そして上組と山組の笠鉾と屋台の収蔵庫は、県道より少し高い場所に山車の収蔵庫を置くため、朝は山道を下って県道や恒持神社へ向かう様子をYouTubeやSNSで見ましたが、その実際の様子はスタートが遅かったため見ることは出来ませんでした。

　しかしながらホテルを出発して間もなくの四つ辻で、上組笠鉾、山組屋台、本組屋台を３基同時に見ることが出来、それ以降は山車と前後するように、秩父郊外でおこなわれる穏やかな祭りを愉しんだ次第です。

　前回の記事でも紹介したように祭り前日は小雪がちらつく生憎の天気でしたが、当日は晴天で3基の山車の美しさを色々な場所から撮影することが出来ました。武甲山を背後にして曳行される、山田祭りの山車は本当に美しかったです。

　今回の山田の春祭りは朝に各地区の山車収蔵庫や会所を出発し、午前11時前に3台の山車が恒持神社に集合。ここで神社の奉納神事をおこない、山車の曳行は約１時間の休憩となりました。その間を利用して近隣にある秩父三十ヶ所霊場の四番札所・金昌寺の参拝のほか(…次回紹介予定)、山車の細部も撮影する事に成功。秩父夜祭や川瀬祭りでは見ることが出来ない、山車の祭囃子の演奏スペースや笠鉾の内部も撮影する事ができました。さほど混雑していないのも、この祭りの魅力だと思います。

　そういう事で本日はホテルを出発し、恒持神社の境内やその周辺で撮影した3つの山車の写真をご覧ください。次回は午後になり撮影した山車の曳行や、御神幸行列、屋台上でおこなわれた所作(…曳き踊り)の様子を紹介したいと思います。それでは本日も山田の春祭りの様子をご覧ください。

◆秩父山田の春祭り(恒持神社例大祭)、その2

◆令和7(2025)年、山田の春祭り(恒持神社例大祭)

　◎3月9日：例大祭、御神幸祭ほか

　　・・・・近年は3月の第2日曜日に開催、以前は毎年3月15日に催されていた

　　❖秩父市指定有形民俗文化財

　　　→上組笠鉾、山組屋台、本組屋台(昭和40年：1965年1月指定)

　

★ホテル美やまの部屋より

今回の山田春祭り見物に際し泊まった、老舗ホテル〔ホテル美やま〕のベランダより。日の出間際は雲が多かった秩父山田地区だが、時間を追うごとに雲が明け晴天へ。神社や山車の会所からか様々な方向から花火が上げられていた。

ホテルに荷物を預け祭り見物へ出発。外観はかなり貫禄が入っているが、とても素敵なホテルだった。

★秩父の霊峰・武甲山(海抜：1304メートル)

ホテルを出ると武甲山も昨日から一転し、ご覧のような晴れ晴れしい姿に。まさに祭り日和といった感じの爽やかな朝。

ホテルそばの古民家をリノベーションした動物病院の黒塀には、山田の春祭りのポスターが貼られており、祭りへの期待が高まる。

ホテルを出て横瀬川に架かる橋を渡ると遠くから、リズミカルな秩父屋台囃子の音が。急ぎ足で行ってみると上組の笠鉾が。

★上組笠鉾(大棚笠鉾)

山田地区の東・大棚より山車を曳行させる上組笠鉾。

正面153センチ、奥行218センチで三層の笠を付ける。白の造り花は、秩父各地の祭りで曳行される笠鉾と呼ばれる山車で多く用いられている。上組笠鉾の作りとしては、秩父大宮郷(…秩父市街地)で毎年7月19日と20日におこなわれる川瀬祭りの笠鉾に似た造り。明治初年の建造とされ、秩父市の有形民俗文化財に指定されている。

春の日差しに輝く、上組の笠鉾。

★山組屋台(中山田屋台)
屋台の名前からお察しのように山の中腹から山車が曳行される。正面182センチ、奥行303センチ、番匠屋荒船飛騨の作とされ、収納箱に弘化5(1848)年の墨書きがあるという。毎年12月2日と3日におこなわれる秩父夜祭(秩父神社例大祭)の山車を一回り小さくした感じ。山車の上部に付けられた水引き幕は亀、山車後方の後幕は海老、鯛、フグなど海の幸が刺繍されている。こちらも秩父指定有形民俗文化財に指定されている。

山組屋台の車輪。丸太に鉄輪を付けた山車は独特な軋んだ音を響かせながら曳行される。これから山田地区の道路は山車が曳行した白い通過跡が残る訳である。

★本組屋台(荒木屋台)
恒持神社に収蔵庫を置く本組屋台。昨日の午後は半分ブルーのビニールシートが被されていた状態だったが、この日はその美しい山車の全容を見ることが出来た。正面176センチ、奥行303センチ。荒木和泉の作とされるが、建築年代は不詳。山車上部の水引幕は、亀と壺に天女の組み合わせ。後幕は龍と虎。この山車のみ日中から提灯を付けて山車が曳行されていた。こちらも秩父市の有形民俗文化財に指定されている。

★3台の山車が恒持神社へ

午前8時半ころ山田の各地域の収蔵庫や会所を出発した上町、山組、本組の笠鉾と屋台は、午前10時を過ぎて県道11号線を南下し恒持神社へと向かう。

この近辺、横瀬川の支流の一つが流れている事もあり、かなり起伏があり絵になる道である。

常持神社近くの県道は所狭しと露店が並ぶ。その露店の人込みを抜けるように常持神社へと向かう。

山組屋台の山車内の格子天井には美しい絵が絵が描かれていた。

恒持神社の東鳥居から。各地区の山車は大きく迂回して神社に入るので、ここで山車の到着を待つ事にした。

★恒持神社へ入る上組笠鉾
午前10時半過ぎ、3つの地域の山車が宮参りのため恒持神社に入場する。最初は上組笠鉾から。
★恒持神社へ入る山組笠鉾

上組笠鉾に次いで恒持神社に入ってきたのが、山組の笠鉾である。

★恒持神社に入る山組屋台

スマホでダウンロードした祭りの予定表などを確認している間に山組の屋台が到着。肝心のシャッターチャンスを逃してしまった。

★山田の春祭り、山車の方向転換〔キリン〕

秩父夜祭で曳行される山車の多くは、梃の原理を利用した〔ぎり回し〕という、かなりの力技で山車の方向転換をおこなうのだが、山田の春祭りで曳行される山車〔キリン〕と呼ばれる回転装置で、山車の方向を変える。秩父の川瀬祭りや秩父夜祭の上町の山車がこの装置を利用している。とは言えキリンの回転もかなり力のいる作業のようである・・・。

こうして3台の笠鉾と屋台が恒持神社に集まる。これから11時の奉納行事を待つ。

神社の神楽殿では奉納神楽もおこなわれていた。

こちらは午後の御神幸祭の行列で使われる神輿。

恒持神社は昼の神事への準備がおこなわれていた。

左手に見える山は大棚山(海抜718メートル)、そして右奥には秩父の霊峰・武甲山(海抜1304メートル)が。
手水舎で神事前のお清めをおこなう。

★恒持神社の神事

そして11時から神社の祭典がおこなわれていた。3つの山車はここで1時間ほどの休憩に入る。

その休憩時間の前後を使い山車の細部を見学。

笠鉾の内部も撮影。秩父大宮郷の川瀬祭りで笠鉾と出会って約20年、その内部を初めて撮影。その名称の通り笠の骨組みのようになっていた。

先ほど解説させて頂いた〔キリン〕と呼ばれる山車の回転装置。山組のその掛の用具も置かれていた。

山車の細部装飾も美しい。秩父で見たタイガー＆ドラゴン。

★車輪の潤滑油

山車の車輪の近くにぶら下げてある市販のサラダ油と葱。

実はこれ、サラダ油と葱の滑りを使って車輪を回転させるための秘密兵器。秩父夜祭や川瀬祭りでも男衆が車輪に油をさす光景をよく見かける。

★山車の屋台囃子部屋

秩父地方でおこなわれる祭りの、笠鉾と呼ばれる山車や川瀬祭りの山車で、低層部に屋台囃子のスペースが設けられているが、山田の春祭りの山車も同様のスタイル。

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★参考文献・参考資料

「秩父夜祭」薗田稔氏監修、さきたま出版会編、平成17年

「山田春祭りスケジュール表」秩父市観光協会作成

「恒持神社説明版」秩父市作成、昭和56年

「秩父市ホームページ」

「秩父夜祭の基礎知識：ホームページ」

「秩父屋台囃子：Facebook」ほか

★撮影・・・・2025年3月9日