埼玉県秩父市の山田春祭り2025、その1(建築家・関根要太郎の故郷を訪ねる)

◆秩父山田の春祭り、恒持神社例大祭

　・・・・令和7年早春、秩父山田の美しき春祭りを見る

　

　久しぶりに積雪となった3月第2週はじめの埼玉県南部地域。その週末も小雪ちらつく生憎の天気になりましたが、1泊2日の小旅行へ行って参りました。

　今回の小旅行の目的地は、当ブログで頻繁に紹介している埼玉県の秩父市です。言うまでもなく秩父は、このブログの主人公である建築家・関根要太郎(1889～1959)の故郷の町であります。

　長年に渡り西武鉄道沿線の町に暮らしていた事もあり、西武線の終着駅にあたる秩父へは幼い頃より何度も訪れていますが、泊まりで訪れたのは実に30年ぶりの事でした。近年は秩父の市街地や、岩畳や荒川のライン下りで有名な長瀞渓谷、そして地域随一のパワースポットとして名高い三峯神社(…三峰山)がある旧大滝村地区など、訪れる場所が限定されていたような気がします。そういう事もあり今回は少し趣向を変えて、いつも訪れる秩父地域からから少し外れた、山田地区でおこなわれる〔山田春祭り〕を見に行った次第です。

　秩父の山田地区は、かつて大宮郷(…この地方の総鎮守である秩父神社がある事からこの名で親しまれた)と言われた秩父市街地の北東に位置する地域で、長年に渡り養蚕、絹織物、秩父銘仙の生産などで栄えた土地です。

　江戸期に大ブームとなった秩父三十四箇所観音霊場でいうと、一番の四萬部寺から四番の金昌寺にあたる土地です。昭和32(1957)年に秩父市と併合されましたが、それまでは秩父郡高篠村と呼ばれていました。

　昨年は毎年7月19日と20日におこなわれる川瀬祭りと、こちらも毎年12月2日と3日におこなわれる秩父夜祭(秩父神社例大祭)という、秩父神社でおこなわれる2つの例祭の宵宮を見学した筆者。12月の例大祭は夜祭という愛称から、長年に渡り夕方近くから見物に訪れていましたが、昨年は日中に訪問して美しく勇壮な山車の数々を鑑賞して参りました。更に昨年は訪問前に、個人の方が制作されている〔秩父夜祭の基礎知識〕という老舗のサイト、またこの方が開設されている〔秩父屋台囃子〕というFacebookを見て、祭りについて僅かながら勉強させていただきました。

　そしてこの予習の期間に改めて知ったのが、秩父地域には12月の例大祭や7月の川瀬祭りのような、屋台や笠鉾と呼ばれる山車を曳行させる(…一部の祭りは神社など祭場に飾り置き)祭りが数多くある事でした。

　特に今回訪問した山田春祭り、4月に秩父郡横瀬町でおこなわれる宇根の春祭り、同月に秩父郡小鹿野町でおこなわれる小鹿野春祭り、7月に秩父市北部の上郷(…宮地地区)でおこなわれる柿沢の祇園祭り、7月に秩父市北西部の栃谷でおこなわれる栃谷の祇園祭りなど、数は少ないですが秩父夜祭や川瀬祭りに似た美しい山車を祭りで用いています。

　中には地域の過疎化やコロナ禍の影響で、祭りの存続が危ぶまれているものもあるようですが、色々な方がSNSやYouTubeなどで発信されている画像や映像を見ると、どれも本当に美しい。近年は近代建築の探訪のほか、関東地方でおこなわれる山車が曳行される歴史ある祭りに関心を持つ筆者。関根要太郎の故郷である秩父の祭りを、数年かけて巡ってみようと思った次第です。その最初の訪問先にさせて頂いたのが、山田の春祭りだった訳です。

　山田の春祭りは山田地区の南側に鎮座する恒持神社(…つねもちじんじゃ)の例大祭で、江戸期からおこなわれているとの事です。現在は秩父夜祭に曳行される屋台を一回り小さくした感じの本組と山組の屋台、白い花飾りが美しい上組の笠鉾の3台の山車で祭りはおこなわれます。

　また山車の文化的価値は早くから認めれていたようで、昭和40(1965)年には秩父市の有形民俗文化財に指定されています。

　山車は先に紹介した恒持神社から、山田地区の北側にある八坂神社までの片道約2キロの行程を一日かけて曳行されます。実際に山車の曳行と同行しましたが、その道のりは起伏が激しく、とても歩き甲斐のある祭り見物でした。私は日没前に帰宅しましたが、夜は山車に灯篭が灯され幻想的な時間になるそうです。この他に昼過ぎには、恒持神社から八坂神社までの御神幸行列もおこなわれます。

　また山田春祭りは12月の夜祭(秩父神社例大祭)と同様、屋台で曳踊り(所作)という、地元在住の子供たち(…主に女の子)による奉納の日本舞踊がおこなわれるのも見所の一つです。ちなみに曳き踊りは、地元秩父の花柳流の一門によりおこなわれており、この日は夜祭でもお馴染みの演目がおこなわれていました。

　夜祭の時のような大混雑はしていませんので、山車と同行しながら曳き踊りを何度も見物させて頂きました。とてもアットホームな素敵な祭りの探訪でした。

　そういう事で今回は秩父山田祭り前日に訪れた秩父市内の様子、山田祭りの前日の様子の一部をご覧いただいたいと思います。祭りの本格的な紹介は次回以降になりますが、美しく勇壮な山田の山車を色々と撮影できたので、宜しければ来週以降も当ブログにお立ち寄りください。

★秩父山田の春祭り(恒持神社例大祭)、その1

上の写真左側が上組笠鉾、右が本組屋台。下の写真が山組屋台。

◆令和7(2025)年、山田春祭り(恒持神社例大祭)

　◎3月9日：例大祭、御神幸祭ほか

　　　・・・・近年は3月の第2日曜日に開催、以前は毎年3月15日に催されていた

　　❖秩父市指定有形民俗文化財

　　　→上組笠鉾、山組屋台、本組屋台(昭和40年：1965年1月指定)

★西武鉄道の特急電車：001系〔Laview〕
今回の秩父山田春祭り見物は一泊二日の旅行という事もあり、遠出気分を味わうため少し遠回りして、池袋駅より西武鉄道の特急電車〔Laview：ラビュー〕に乗車。平成31(2019)年にデビューした近未来的な特急電車のデザイン監修は、建築家の妹島和世(1956～)さんが担当。ここから約1時20分かけて終点の西武秩父駅へと向かう。
池袋から約35分の入間市駅より。東京都から埼玉県に入ると秩父、奥多摩の山々が間近に見えるようになる。この数日前に降った雪は多少は溶けた感じはするが、武甲山をはじめ秩父の山々は冬の様相である。

★雪景色の武甲山

武甲山もすっかり雪化粧が施されていた。雪が直線状に見える箇所は、石灰岩採掘がおこなわれた場所。昭和54(1979)年に石灰岩採掘のため山頂エリアを閉鎖した武甲山は、山頂から山の正面部分の採掘が本格的に始まる。そして45年という期間を経て、ご覧のような姿になってしまった。手前に見えるのはUBE三菱セメントの横瀬工場。西武秩父線開通と同時期に建設された工場だ。

奥に見える奥秩父・熊倉山(標高1426メートル)なども、雪が積もり見事な白銀の山容に。
★西武秩父線の終点・西武秩父駅(昭和44年築)
極寒の西武秩父駅に到着。この日宿泊するホテルの送迎バスまで2時間ほど余裕があるので、市内を簡単に散策。ちなみに西武秩父駅と周辺土地は、その昔は秩父郡立農学校(現埼玉県立秩父農工科学高校)の校地だった場所である。そして当ブログの主人公・関根要太郎(1889～1959)も、明治40(1907)年に同校を卒業している。

春までまだ遠い趣きの西武秩父駅前。

★西武秩父駅〔祭りの湯〕に展示されている野坂町の神輿

西武秩父駅に隣接する〔祭りの湯〕という、西武鉄道グループが運営する観光施設のフードコート内に展示されている、地元・野坂町の夏祭りで使われる神輿。昭和54(1979)年に製作されたものだという。

なお祭りの湯の館内は、リズミカルな秩父祭りの屋台囃子がBGMとして流れ、一年中祭りといった演出がされている。

★秩父夜祭の御旅所

12月3日の秩父夜祭でクライマックスの地となる、西武秩父駅そばの熊木町にある御旅所。秩父神社の妙見菩薩(女神)と、武甲山に住む龍神(男神)が、12月3日の夜にここで逢引するという言い伝えがあり、祭りのクライマックスを迎える場所となっている。ちなみに翌日に見学する山田春祭りは、山田地区北側の八坂神社が御旅所として充てられている。

夜祭の時は御旅所に安置されている亀石も、祭りが終わり木製の柵で護られていた。御旅所に関しては昨年に投稿した秩父夜祭の記事を参照していただきたい。

★東町から番場通りへ

この日の秩父市内は正月に秩父へ初詣に行った時と同じく、気温は摂氏5℃を切り冷たい風が吹く状態。そういう事で足早に秩父神社と、関根要太郎のお母さまの実家である宮側町の秩父館(現ほっとすぽっと秩父館、明治12年築)へ。

途中、秩父三十四観音霊場の13番札所・慈眼寺や、秩父夜祭と日本テレビの長寿番組〔笑点〕でお馴染みの落語家・林家たい平さんの東町にあるご実家である田鹿洋服店、番場通りを経由して秩父神社へ向かった。

レトロな歴史的建造物が多く残る番場通り。秩父神社の表参道ともいえる通りだ。

★山田春祭りのポスター

番場通りのとある商店には山田春祭りのポスターが掲示されていた。★秩父神社

依然寒いが秩父神社付近で時おり薄日が差し込む天候に。最近のパワースポット巡りブームが影響しているのか、Z世代の若い参拝客で賑わうこの日の秩父神社とその周辺だった。

今年は天気が良ければ秩父神社の祭事である4月4日の御田植祭と、7月19日の川瀬祭りの宵宮に行こうとプランを練っている筆者である。

秩父神社の本殿に飾られた江戸の名工・左甚五郎作の彫刻。

★秩父館：関根家住宅(現ほっとすぽっと秩父館、明治12年築)

長年に渡りにお世話になった秩父館の女主人・Eさんはお亡くなりになったが、秩父へ訪れると自然とその足は秩父往還沿いに建つ秩父館へ向かってしまう。何度となく紹介しているように建築家・関根要太郎(1889～1959)の母・リンさんの実家であり、少年期の要太郎もここで暮らした。

風格溢れるこの建物はかつての旅籠(商人宿)で、江戸期に建てられた以前の宿が明治11(1878)年の大火で焼失。関根要太郎の祖父・関根元之助が、近隣の豪農が建てた屋敷の部材を譲り受けて建てたものだという。戦後は作曲家の古賀政男(1904～1978)も在籍した、明治大学のマンドリン部合宿所としても使われた。

また平成19(2007)年のリニューアルオープンに際しては、戦後女中部屋として使われていたエリアから内井戸も発見された。

神棚も創建時からのもの。昭和11(1934)年に要太郎も自身が連載していた日本建築士会の機関紙で、自身の実家・秩父館とこの神棚を紹介している。

約20年前の改修工事で発見された内井戸。秩父地方の水は近隣の岩石が影響しているのか、個人的にはかなり硬質な印象がする。

向こうに見えるのは秩父神社の所有林〔柞の森：ははそのもり〕。
秩父館から秩父神社の北側にある道を歩く。ここからは先に紹介した、柞の森(ははそのもり)を右手に望む事が出来る。

一般の立ち入りは禁止される神聖な森であるが、時おり木々の間から神社の社殿が見ることが出来た。

★買継商通り

秩父神社の門前町・番場町の北西にある小路。

かつて秩父が繊維業で賑わっていた時代、生産者と販売の仲買人(買継商)が店を構えていたという通り。秩父を歩くと未だに歴史ある養蚕農家や、銘仙業が華やかだった頃に建てられた工場を幾つか見かける。この翌日に訪れた山田地区も、そのような建物を発見する事ができた。

通りの突き当りには昭和56(1981)年に設置されたこのような説明版も。この小路を抜けると、銘仙の全盛期に賑わったもう一つの通り〔黒門通り〕へ。

西武秩父駅に戻り、ホテルの送迎バスへ乗車。この時間帯になると秩父郊外にあるホテル・旅館の送迎バスが、駅前のロータリーに多く停車していた。

★ホテル美やま

今回の山田春祭りに際し宿泊先として選んだのが、昭和30(1955)年に創業した秩父の老舗ホテル。現在のホテル棟は昭和52(1977)年に建てられたものだという。

食事、温泉、昭和レトロな館内の雰囲気、部屋の眺めともに最高だったが、良い部屋が予約段階で埋まっており、今回は仕方なく喫煙室を選択。花粉と煙草臭に苦しむ一夜になってしまった(数年前まで喫煙していたので、大きな事は言えない立場ではあるが…)。

ちなみに大学時代にサークルの合宿所探しで、秩父市の観光協会からこのホテルを始め数軒を紹介され、下見に行った事を訪れて思い出した。しかし先輩から課せられた予算をオーバーしていたため、近くの旅館に合宿先を選んだと記憶している。これは余談になるが、当時かつて明治大学マンドリン部の合宿地として使われていた秩父館も紹介されたが、下見には行っていない。

チェックイン当日は小雪ちらつく寒々しい天気だったので、ホテルの外観写真は翌日の晴天時に撮影したものを。

外観と同様にフロントも昭和レトロな感じ。今から32年前、ここで当時の女将さんから、ホテルの説明を受けた事を思い出した。

今回宿泊した部屋。私の愛する武甲山は見れなかったが、大霧山や蓑山などの名峰を見ることが出来た。翌日の祭りで山車が曳行される県道11号線も、木々の間から見えた。

眼下に見えるのは荒川の支流・横瀬川。

岩石の見本市と言われる秩父だけあって、長瀞には負けるがなかなかの渓谷美。

こちらは丸山という山の尾根続き。子供の頃に何度か登った事がある山だ。

★恒持神社(つねもちじんじゃ)

秩父地方でも多くの伝説を残す日本武尊や、延暦年間に武蔵国にいたという恒望王(…つねもちおう)などを祀る神社。小雪がちらつく中、本組の屋台は明日の祭りへ向けて最中だった。

準備は終了したようで、山車にブルーカバーが掛けられていた。

小雪がちらつき武甲山の山頂付近も見えづらくなってきた。このような天気なので、ホテルへすぐに戻った。明日の天気が晴れる事を武甲山に願ったのである。

****************************************************

★参考文献・参考資料
「秩父夜祭」薗田稔氏監修、さきたま出版会編、平成17年

「恒持神社、買い継通り説明版」秩父市作成、昭和56年

「山田春祭りスケジュール表」秩父市観光協会作成

「秩父市ホームページ」

「秩父屋台囃子：Facebook」

「ホテル美やまホームページ」ほか

★撮影・・・・2025年3月9日・10日