埼玉県秩父市の秩父夜祭2024、その3(建築家・関根要太郎の故郷を訪ねる)

◆秩父夜祭、秩父神社例大祭

　・・・・令和6年初冬、秩父夜祭宵宮で下郷・中近の2台の笠鉾を見る

　気が付けば12月も下旬に入り、祭りの終了から2週間が経ちましたが、本日も今年(令和6年：2024年)の12月2日に訪れた秩父夜祭(秩父神社例大祭)宵宮の探訪記を続けたいと思います。第1回目は西武秩父駅から祭りのクライマックスの場所となる御旅所を経由し、秩父神社の境内に停泊されていた上町屋台、第2回目は秩父神社とやはり神社の境内に停泊されていた宮地、中町の屋台を紹介しました。

　秩父神社内では国の重要有形民俗文化財に指定されている上町、中町、宮地の屋台、また国の重要無形文化文化財に指定されている屋台の曳き踊り、神代神楽奉奏などを見学し、充実した時間を過ごす事ができました。

　更に神社の奉納が終わり山車の収蔵庫へ帰る宮地屋台を、建築家・関根要太郎(1889～1959)のお母さまの実家にあたる、秩父往還沿いに建つかつての旅籠・秩父館(現ほっとすぽっと秩父館、明治12年築)前に撮影する事ができ、当初の計画以上に収穫のある前半戦となったのです。

　その後、秩父館から徒歩僅かの場所にある秩父鉄道の秩父駅(大正3年開業)へ移動。ここからタクシーに乗り、秩父夜祭で曳行される2台の山車を見に行きました。一台は秩父駅から約1.5キロほど離れた滝の上町にある下郷笠鉾(したごうかさほこ、…滝の上、大畑、永田、金室、阿保、柳田の6町連合による)の収蔵庫、もう一台は秩父駅から1.5キロ離れた中村町にある中近笠鉾(なかちかかさほこ、…中村、近戸の2町連合による)の収蔵庫です。

　秩父市の旧市街地から坂下のエリアに収蔵庫を置く下郷と中近の山車保存会ですが、2日の宵宮では山車の曳行をおこなわない事もあり、収蔵庫まで準備中の山車を見に行った次第です。

　今回マニアックなお願いにお付き合い頂いた、奈良県出身というタクシーの運転手さん、今年の夏に奥様の実家がある秩父に転居してきたという方で、なかなか楽しい時間を過ごす事ができました。翌日は奥様と生まれて初めて秩父夜祭を見に行くそうで、壮大で美しい祭りを堪能できたと想像しております。

　さて秩父夜祭りで曳行される6基の山車、〔屋台〕と〔笠鉾〕という表記がされています。実は私も長年に渡り、その違いが分からないままでした。今回タクシーに乗って見に行った下郷と中近は笠鉾という表記がされていますが、その昔は花笠という造花を彩った飾りを山車を載せて巡行していたそうです。規模は小さくなりますが、毎年7月19日と20日におこなわれる秩父神社の夏祭り・川瀬祭りに曳行される笠鉾を見ていただくと、おおよその想像がつくのではないでしょうか。

　ちなみに秩父夜祭で曳行される笠鉾の高さは15メートルもあったそうで、高い建物がほぼ皆無だった昔は相当なインパクトがあったと想像されます。しかしながら秩父市内では明治44(1911)年から電話線が市内に敷設され、笠鉾の曳行は出来なくなります。

　その結果、大正初期から下郷と中近の山車連合は花笠を取り、山車を改造した状態で祭りに参加する事になったのです。建築家・関根要太郎(1889～1959)が、秩父郡立農学校を卒業し上京したのが明治40(1907)年ですから、その数年後の出来事だった訳です。

　また笠鉾という山車の文化ですが、秩父やその周辺の祭りでは広く浸透しています。先に紹介した7月の川瀬祭りの他、3月の秩父市山田の春祭り、4月に秩父郡小鹿野町でおこなわれる小鹿野春祭り、同月の秩父郡横瀬町の宇根春祭り、7月の秩父栃谷の夏祭り、同月の秩父宮地の柿沢の祇園、9月に秩父郡皆野町でおこなわれる三沢八幡大神社の大祭などで、花飾りがされた笠鉾の山車が曳行がおこなわれています。笠鉾のルーツは12月におこなわれる秩父夜祭にあったのではないかと想像してしまいます。

　また下郷、中近の笠鉾の花笠も、平成24(2012)年10月には文化財指定50周年を記念し、秩父往還(大通り)などで曳行がおこなわれた他に何度か復活しているそうですが、夜祭での曳行は実現していません。

　なお平成24年におこなわれた笠鉾の正装(…花笠を付けた状態)での曳行は、とても美しく感動的だったと秩父館の女主人・Eさん(…関根要太郎の姪、故人)に、その数か月後お話を伺ったのも懐かしい思い出です。電線が地下化されつつある現代、花笠の付いた笠鉾が復活する日も近いかも知れません。

　花笠と呼ばれる花飾りが付いていない、現在の下郷と中近笠鉾。しかしとても重厚感のある白木の鬼板が印象的な下郷笠鉾、黒漆がベースに塗られ繊細な装飾が施された小さいながらも見所の多い中近笠鉾、両者ともとても美しい山車であります。今回は宵宮の準備途中の笠鉾を見学しましたが、次回は本祭で大通りの坂道を曳行される、下郷と中近の美しい山車を見てみたいと思った次第です。それでは今回も秩父祭で使われる、美しい山車の数々をご堪能下さい。

　

★秩父夜祭宵宮2024・その3

★令和6(2024)年秩父夜祭

　◎12月1日：御本殿清浄の儀、例大祭奉行祈願祭

　◎12月2日：宵宮(よいみや)、諏訪渡ほか

　◎12月3日：例大祭(本祭：ほんまつり)、御神幸祭ほか

　◎12月4日：蚕糸祭

　◎12月5日：産業発展交通安全祈願祭

　◎12月6日：新穀奉献感謝祭、例大祭完遂奉告祭

　　❖国指定重要有形民俗文化財(昭和37年：1962年指定)

　　❖国指定重要無形民俗文化財(昭和54年：1979年指定)

　　❖ユネスコ無形文化遺産(平成28年：2016年12月登録)

★秩父館(現ほっとすぽっと秩父館、明治12年築)

何度となく紹介している秩父館は、江戸期から秩父往還に建つ老舗の旅籠(商人宿)。建築家・関根要太郎(1889～1959)のお母さま・リンさんの実家にあたり、要太郎も少年時代ここで暮らした。

明治11(1878)年の秩父大火でこれまでの宿が焼けたため、要太郎の祖父・関根元之助が近隣にあった豪農の屋敷で使っていた部材を譲り受け、この建物を建てたという。平成初めころまで旅館として営業し、平成19(2007)年より地元商工会により観光施設してリニューアルオープンされている。

前回も紹介したように秩父館で宮地屋台を見送る。

秩父館が観光施設としてリニューアルオープンする以前は、秩父館の女主人・Eさん(故人)のご厚意で、秩父館の土間や店先より夜祭や夏の川瀬祭りの見物をさせていただいたのも懐かしい思い出である。

秩父館は秩父神社社殿の北側、柞の森(ははそのもり)を望める場所に建つ。夜祭時は2階の旧客室は貸し切りになるので、今年の新年に撮影した写真を。

★秩父市イメージキャラクター〔ポテくまくん〕

秩父館からは徒歩3分ほどの秩父鉄道・秩父駅へ移動。駅に建つ秩父市地場産業センター(じばさんセンター)の1階のショップには、秩父市のイメージキャラクターの〔ポテくまくん〕のぬいぐるみが。ポテくまくんも夜祭に合わせ祭り仕様にお色直しされていた。

★じばさんセンターに展示されていた秩父夜祭の屋台と笠鉾のレプリカ

じばさんセンターの1階の観光ショップに展示してあった、秩父夜祭の屋台と笠鉾のミニチュア・レプリカ。不勉強で詳しく言えないが、上が改造前の宮地屋台もしくは本町屋台、下は大正初期までの花飾りを付けた下郷笠鉾と思われる。

この後は駅前からタクシーに乗り、下郷と中近の笠鉾を見に行った。

★下郷笠鉾(したごうかさほこ)
現在の笠鉾は明治29(1896)年の建造。本文でも紹介したように当初は高さ16メートルの花笠を装着を付けて曳行されていたが、明治末からの電話線敷設が障害となり通行が不可能になった。そのような事で大正3(1914)年から花笠を取って祭りに参加。大正6(1917)年に秩父の名工・坂本森太郎により、腰屋根付き四方唐破風造りの屋根型が増築され、現在のような姿になった。
白木の屋根型と金色に輝く金細工の対比も見事。花笠を付けない状態でも、秩父夜祭の6つの山車のうち最重量との事だ。
明日へ向けて準備中の下郷笠鉾。全員男性という迫力ある構図の下郷山車保存会である。

山車の曳行は翌日という事もあり、下郷笠鉾は準備の真っ最中。山車に取り付けられる腰幕は、ガードレールに干してあった。

下郷笠鉾の収蔵庫より武甲山を望む。下郷地区は秩父往還より一段下の河岸段丘にあり、本祭当日は坂を上って秩父神社や秩父市街地へと向かう。

★秩父まつり会館に展示してある下郷笠鉾の原寸大レプリカ
秩父神社横の秩父まつり会館には下郷笠鉾の原寸大レプリカも。なかなかの迫力である。
秩父まつり会館に展示してあった、下郷笠鉾の花笠装着時と近年の曳行時のレプリカ模型。秩父駅のじばさんセンター、秩父まつり会館と下郷笠鉾の人気を思い知った筆者である。

同会館には下郷笠鉾のイラスト入り解説文も展示されていた。

★秩父橋と秩父セメント第二工場

タクシーの運転手さんに次へ行く場所を言い間違えて、目的地とは反対方面の秩父橋へ。

奥に見える秩父橋の旧橋は昭和6(1931)年の竣工。更に奥に見えるのは大野原の旧秩父セメント第二工場(基本設計：谷口吉郎、昭和31年築)。

秩父橋を過ぎたところで折り返し、次の目的地である中近笠鉾の収蔵庫へ向かう。

★中近笠鉾(なかちかかさほこ)

タクシーは山車収蔵庫から少し先の交差点で下車。そこから練習中のお囃子に導かれるように着いたのが中近笠鉾の収蔵庫だった。この笠鉾は秩父神社西坂下にある中村町、近戸町(ちかとまち)の合同により出される山車。当初は下郷笠鉾と同様に花笠を山車の上部に設置した15メートル近い高さの山車だったが、明治末からの電話線架設に伴い、110年近く花笠を取った状態で祭では曳行されている。

秩父夜祭に参加する他の山車に比べて小振りなのは、かつて秩父神社までの道の一部の幅員が狭いことが影響しているという。下郷笠鉾の白木とは対照的に山車は黒漆塗り。この黒漆と繊細に作り込まれた細部装飾の対比は見事。

お囃子の最終練習も周辺でおこなわれ、とても賑やかな中近笠鉾の収蔵庫周辺。
ビルや家屋に遮られているが、中近の笠鉾と一緒に武甲山を見ることも出来た。

遠くに見えるは秩父公園橋(秩父ハープ橋)。

明日への事前準備は終了したようで、中近笠鉾は午後3時半ころ収蔵庫へ戻された。こちらも秩父神社そばにある、秩父まつり会館内の解説ボードより。次回は曳行される2つ笠鉾を見たいと思った次第である。★山田の春祭り

笠鉾を使った祭りの一例として、秩父まつり会館に展示してあった山田の春祭りを。規模こそ小さくなるが美しいか花飾りが施された山車が秩父地方には多く存在する。その代表的な祭りとして秩父川瀬祭りを参照していただきたい。

★秩父下平通り

中近の笠鉾収蔵庫から秩父神社方面へ戻る途中に歩いたのが〔下平通り〕。秩父往還(国道299号線、県道73号線)の坂下にあたる道で、銘仙業など秩父経済が全盛だった時代は花街として賑わった。朽ちてはいるがその時代の建物がいくつか残っている。

坂上に見える森は秩父神社。かつての秩父も聖と俗が隣り合わせになった町だった。

秩父往還に戻り、次いで夕暮れの本町、中町、上町屋台を見に行く事にした。

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★参考文献・参考資料

「秩父夜祭」薗田稔氏監修、さきたま出版会、平成17年

「秩父夜祭の基礎知識、ホームページ」

「秩父神社ホームページ」

★撮影…・2024年1月6日、12月2日