埼玉県川越市の川越まつり2024、その1(関東の祭りを訪ねる)

◆川越氷川祭、川越まつり

・・・・毎年秋におこなわれる川越氷川神社の祭礼

　ここ数年の温暖化の影響か寒暖の差が激しい10月の中旬、訪れたのは埼玉県の川越市です。川越は蔵造りの和風商家が多く残り、江戸の風情を今に伝えることから〔小江戸〕の愛称で親しまれている町です。

　今年は5月に〔りそなコエドテラス〕としてリニューアオープンした、旧八十五銀行本店(設計：保岡勝也、大正7年築)を見るため、かなりの回数川越を訪れました。そして先日は〔川越まつり〕見物のため、その先週と2回に渡りまた川越を訪れた次第です。

　現在は〔川越まつり〕という名称で親しまれている、川越の秋の風物詩は、10月の第3土曜日と日曜日におこなわれます。厳密な名称は〔川越氷川祭〕と言いまして、江戸初期に始まった埼玉県秩父市の秩父神社の例祭(秩父夜祭)と共に、関東地方では長い歴史を持つ伝統的な曳山祭りの一つです。平成28(2016)年の12月には、秩父夜祭や京都の祇園祭、飛騨高山の高山祭と共にユネスコの無形文化財に登録され、世界的にも注目される祭りになりました。今年も2日間で80万人から90万人の見物客が訪れたそうです。

　川越祭りは川越氷川神社の例祭で、慶安元(1648)年に当時の川越藩主・松平伊豆守信綱(1596～1662)が、氷川神社に神輿・獅子頭・太鼓を寄進し、それを使い神輿渡御をおこなったのが祭りの始まりと言われています。

　ちなみに松平信綱は川越藩主時代、川越街道の整備や新河岸川の船運仕様への改編、玉川上水や野火止用水(伊豆殿堀)の掘削を指導した人物であります。余談になりますが野火止用水そばのレトロな団地で育った筆者、近所にある歩道橋や遊歩道に伊豆殿守の名が冠されており、信綱の存在を知らぬ間に刷り込まれていた訳です。

　そして川越まつりの見所の一つである人形を載せた山車の登場は、江戸後期の天保13(1842)年の事だそうで、城下の商人町と職人町10町が山車を曳き回すようになったと言います。この山車は当時江戸でおこなわれていた神田祭や山王祭を模したもので、明治以降東京(江戸)の山車祭りが途絶えた現代では、かつての江戸の祭りの伝統を伝える貴重なものになっている訳です。その後、川越の祭りは多くの町や企業が山車を作り参加するようになり、現在は29の山車が各町や市により巡行されています。

　川越祭りの山車は古いものだと幕末から明治初期の作で、新しいものだと2000年以降の平成半ばの作と、制作時期にはかなり隔たりがあります。しかしそのスタイルは新旧ともども統一されており、この祭りの伝統が重んじられている事が伺えます。

　そのうち幸町、喜多町、大手町、松江町2丁目、今成などの10の山車が、県指定の有形民俗文化財、その他数基が市の文化財に指定されています。

　ちなみに本年は19の山車が祭りに参加。川越市の市制施行100周年にあたる令和4(2022)年には29基すべての山車が祭りに参加しました。この年も少しだけ祭りを見学しましたが、祭りについてあまりにも不勉強で、どれがどの山車なのか解らないまま終わっています。そういう事で本年は色々と予習をして、祭りを見物しに行った次第です。長年に渡り建築家・関根要太郎(1889～1959)の故郷である秩父の祭りに夢中だった筆者でしたが、また新しい楽しみが増えました。

　そして今回は川越氷川祭の第1回目の記事として、祭りの1週間前に予習を兼ねて訪ねた川越元町の〔川越まつり会館〕と、すっかり川越散策で定番となった〔りそなコエドテラス〕、川越氷川神社、祭りの一部分をご覧いただきたいと思います。

　また川越氷川神社の例祭ということもあり、20数年ぶりに宮下町の氷川神社も参拝しましたが、若者とインバウンドの観光客でとても賑わっていたのは驚きでした。

　また今回の川越まつりで一番の感動は、初日の宵山(土曜日)におこなわれる神幸祭(じんこうさい)を見れたことです。午後１時に氷川の神様を乗せた神輿のほか、神馬、宮司、猿田彦、巫女、斎姫輿などを連ねた行列が氷川神社を出発し、約1時間半をかけて旧市街地を巡行します。文政9(1826)年の〔川越氷川祭礼絵巻〕を再現したもので、時代絵巻を見ているような優雅なものでした。

　川越の歴史と伝統の奥深さを、ひしひしと感じた今回の祭り見物でした。色々な写真を掲載しすぎて、ごった煮の状態になってしまいましたが、ここからは令和6(2024)年の川越まつりの写真をご覧ください。また次回は祭りに巡行した山車の写真を中心に記事を発表する予定です。

◆川越祭り2024

◆令和6(2024)年、川越氷川祭・川越まつり

　◎例大祭：10月14日・・・氷川神社

　◎御幸祭：10月19日・・・氷川神社から市内を巡回

　◎宵山：10月19日

　◎本祭：10月20日

　　❖国指定重要無形民俗文化財(平成17年：2005年指定)

　　❖ユネスコ無形文化遺産(平成28年：2016年登録)

★川越市駅徒歩数分の六軒町の街並み

祭り開催の1週間前に下見を兼ねて川越市内を散策。

この日は東武東上線の川越市を下車し、六軒町を抜け黒漆喰塗の蔵造り商家が多く建つ一番街や氷川神社方面へ。あまり知られていないが、六軒町は歴史ある多くの土蔵商家や木造商家が残る地域でもある。祭りも近い事もあり町は紅白の横断幕で彩られていた。

六軒町をさらに北へ進むと出桁造りの木造商家が。

さらに北を進み末広町に入ると、このような立派な木造商家も建つ。

そして蔵造り商家が多く建つ一番街へ。黒漆喰塗の蔵造り商家の他、ご覧のような洋風建築も多く建つハイブリットな街並みである。

★旧八十五銀行本店(設計：保岡勝也、大正7年築)

今年春〔りそなコエドテラス〕としてリニューアルオープンした、かつての川越の地場銀行本店。蔵造り商家の街並みが一望できるオープンテラスで、埼玉産のスイーツとカフェを楽しんだ。

★埼玉銀行として使われていた時代の旧八十五銀行本店

館内に展示してあった埼玉銀行時代の旧八十五銀行本店。

大正半ばに建てられたこの銀行店舗は、八十五銀行～埼玉銀行～協和埼玉銀行～あさひ銀行～埼玉りそな銀行の店舗として、1世紀に渡り使われていた。

★川越まつり会館

旧八十五銀行本店から札の辻方面へ北上した場所にあるのが、川越まつり会館。

平成15(2003)年に川越の祭りの魅力を伝えるためにオープン。外観は川越の蔵造り商家を模したものだが、内観はご覧のような現代的な施設になっている。

詳しくは下のリンクを参照していただきたい。

こちらは各町の会所を再現したもの。祭り当日市内を歩いてみると、このようなコンパクトに纏められた会所が幾つか設けられていた。

★川越市：猩々の山車(しょうじょうのだし)

まつり会館内には祭りに使われる山車が何基か展示されている。その一つがこちらの山車。バブル景気真っ只中の平成2(1990)年に地元の丸広百貨店が建造し、平成14(2002)年に川越市に寄贈されたもの。

猩々とはオラウータン、もしくはそれに似た想像上の動物とのこと。

こちらは祭りの宵山、川越市役所前にて。

こちらは展示用の山車の骨格を見せたもの。後方の四角い枠に人形が搭載され、リフトアップするような形で山車の最上部に人形が迫り上げられる。

★末広町：高砂(住吉明神)の山車

現在川越市内では28の町と川越市が計29基の山車を所有するが、その何基かは年によって山車の巡行をおこなわない。この末広町もその中の一つ。昭和25(1950)年から昭和32(1957)年にかけて建造されたもの。

★川越祭りのポスター

長年川越祭りは毎年10月14日と15日に催されていたが、平成9(1997)年からは10月の第３土曜日と日曜日の開催に変更された。対する埼玉県秩父市で12月におこなわれる秩父神社の例祭(夜祭)と、7月におこなわれる川瀬祭りは曜日と関係なく毎年同じ日時におこなわれている。

★川越氷川神社

川越の総鎮守。長年川越藩主らにより篤い崇敬を受け、この神社の例大祭が川越まつりにあたる。

現在は縁結びのパワースポットとして若者を中心に、多くの参拝者がこの神社を訪れている。個人的には友人の結婚式に参列して以来、実に20数年ぶりの訪問となった。

縁結びのパワースポットとして人気を集める氷川神社であるが、他の神社と同様に日露戦争の顕彰碑や招魂社(…現在は護国神社と改称)など、戦争や他国への侵略、軍事強化が良しとされていた時代の遺構が、幾つか残されている事も忘れてはいけない。

そういう批判的な事を考えていたら罰が当たったのか、翌日体調を崩した筆者である。筆者にとってパワースポットへの訪問は、常に危険と隣り合わせだ。

氷川神社の裏手を流れる新河岸川。江戸期はこの川を通じて川越地域で生産された農産物が江戸まで運ばれ、川越の町に多くの富が齎された訳である。

★10月19日、川越まつり宵山

★西武新宿線本川越駅

自宅の最寄り駅から川越までは、東武東上線の特急や快速急行に乗れば15分で到着するが、この日は遠回りして西武新宿線を利用。

あまり知られていないが、現在の西武国分寺線と西武新宿線の一部にあたる国分寺駅～本川越駅間は川越鉄道により敷設され、明治28(1895)年に全面開通したものである。川越最初の鉄道駅は西武の本川越駅だった訳である。

そして本川越駅前のスクランブル交差点より。先に紹介した旧八十五銀行本店(現りそなコエドテラス)のドーム屋根が遠くに見える。
新富町の会所。肝心の山車は、川越駅から延びる〔クレアモール〕という商店街沿いに通年展示されている。
町会所の近くの特設舞台では各町によりお囃子が舞が奏でられ、とても景気の良いこの日の川越であった。

★連雀町：道灌の山車(どうかんのだし)

この日、本川越駅から一番街通りを北に進むと最初に出会った山車。

室町時代に川越城をはじめ江戸城の築城に携わった武将・太田道灌(1432～1486)にちなんだもので、昭和27(1952)年の建造。

仲町に建つ蔵造り商家も祭りの紅白幕で彩られていた。

★神幸祭の行列

祭り初日の昼におこなわれる伝統の儀式の一つ。氷川神社をスタートに蔵造り商家が多く建つ旧市街地を巡行する。江戸初期の川越藩主・松平伊豆殿信綱(1596～1662)の時代に始められたという。時代絵巻を見るような優雅な行列だった。

祭りから話はそれるが、川越の町には歴史を重ねた素敵な洋風住宅が数多く残されている。この住宅もその一軒だ。

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★参考文献・参考資料

「川越祭瓦版」株式会社プランズ制作、令和6年

「川越まつりパンフレット」川越市、川越まつり協賛会、令和６年

「東京人、特集：川越散歩」都市出版、令和4年10月号

「カワゴエール・ホームページ」ほか

★撮影・・・・2024年10月