埼玉県秩父市の川瀬祭り2024、その2(建築家・関根要太郎の故郷を訪ねる)

◆秩父川瀬祭り　・・・・令和6年夏、秩父の祇園祭と呼ばれる川瀬祭りの宵宮を見る
　　例年7月19日と20日に埼玉県秩父市でおこなわれる、秩父の神社の夏の例祭〔秩父川瀬祭り〕。今年は6年ぶりに川瀬祭りを見物、今年も例の如く最高気温が35度ちかくある日中の川瀬祭りでしたが、初日にあたる宵宮を日没直後まで見て参りました。全国的に広く知られる秩父夜祭に比べると秩父外からの訪問者は少ないですが、歴史ある美しい祭りです。
　これまで冬の夜祭や夏の川瀬祭りに行っても、混雑や暑さや寒さに負けて、身近にあるものをざっと見学して帰途についてしまうのが殆どでした。そして帰ってみると、色々な見落としがあった事を気づき後悔していたりします。　そのような反省を踏まえ今年の川瀬祭りは、祭りを彩る屋台と笠鉾に注目し祭りを見物して参りました。山車の曳行の最中という事もあり、少し遠慮気味に撮影したものが多かったですが、各町内から出されている8つの屋台と笠鉾を見ることが出来ました。
　前回の記事でも紹介しましたが川瀬祭りには、宮側町、道場町、本町、中町、上町、番場町、東町、熊木町の8つの町が山車を巡行。宮側町、番場町、東町、本町は様々な装飾を全面に飾った屋台、道場町、中町、上町、熊木町は屋台を花飾りで彩った笠鉾で、町を巡行します。秩父夜祭は電線や信号標識などの高さの関係により、笠鉾は花飾りを取って巡行しますが、川瀬祭りの山車は規模が小さい事もあり、笠鉾は花飾りを付けて巡行されます。
　川瀬祭りの笠鉾は熊木町は濃いピンク、道場町、中町、上町は白い花飾りが施され、昼は夏の日差しに美しく輝き、夜は山車の灯籠に彩られ、とても幻想的な雰囲気を醸し出します。　また宮側町、番場町など屋台で巡行する町内も、先導の提灯持ちにはこれに似た花飾りが施され、笠鉾の雰囲気を連想させるものになっています。これはこの町内が、かつて笠鉾で夏祭りを巡行していた事に由来すると、秩父館(…建築家・関根要太郎の母の実家にあたる)の女主人のEさんや長姉のMさん(共に故人)に伺ったことがあります。
　笠鉾も美しいですが、もう一つ注目していただきたいのが、地元の宮大工により建造された屋台の数々です。夜祭りの屋台に比べると規模は小さいですが、なかなかの完成度を誇ります。そして今回注目したのが、宮側町と東町の屋台です。この2つの屋台は前者は昭和10(1935)年、後者は昭和8(1933)年に建造されたものですが、その施工を秩父地方一の棟梁と謳われた丸岡治助(…丸岡工務所代表、現:丸岡設計)が担当しています。　
　丸岡治助率いる丸岡工務所(当時)は、同社のホームページによると明治30(1897)年の創業。今から20年前の平成16(2004)年に、当時、丸岡設計の代表を務めておられた丸岡只一氏に伺った話によると、丸岡治助は工手学校を卒業後、秩父へ帰郷し家業を継いだと言います。　　　　その後、治助は昭和16(1941)年に亡くなるまで、秩父神社の神門(大正14年築)、秩父三峯神社内に建つ秩父宮殿下三峯山御登山記念館(秩父宮台臨記念館、設計:関根要太郎+蔵田周忠、昭和6年築)など数多くの建築施工を担当しています。なお三峯神社の秩父宮殿下御登山記念館は、近年埼玉県の有形文化財に指定されました。　
　この他にも前回紹介した番場町の朱塗りの屋台は、当時秩父で活躍してた坂本盛太郎という棟梁の作によるもの。更にやはり前回紹介した本町の屋台は作者不詳ではありますが、こちらもとても完成度の高い作品です。秩父川瀬祭りで使用する4町の山車の建造された時期が、昭和8(1933)年から昭和10(1935)年とほぼ同時期に重なってますが、電線設置などの道路の交通事情でもあったのでしょうか。ちなみにこの頃の秩父は銘仙で好景気に沸いていた時期でもあります。
　そういう事で本日は前回紹介した番場町、本町を含め8つの町内が出した笠鉾と屋台の写真をご覧ください。また来年以降、川瀬祭りに訪れる機会があれば、テーマを変えて夏の美しい秩父の祭りを再び取り上げたいと思います。　なお川瀬祭りの主役は子供たち。地元の子供たちの黄色い歓声がこだましていた祭り当日でした。アットホームな雰囲気の良い祭りだと思います。ではここからは祭りの写真をご覧ください。
★宮側町屋台(みやがわちょうやたい)　　　　本文でも紹介したように秩父の名匠:丸岡治助の施工によるもの。昭和10(1935)年の建造だが、細部装飾は先代のものを使用しているという。写真は秩父神社北側にある収蔵庫を出て、地元宮側町の秩父往還を巡行している時に撮影したもの。

先導の提灯に刺されている花飾りは、かつて宮側町の屋台が笠鉾で巡行していた名残だと、秩父館の主・Eさんの長姉で地元の歴史にお詳しいMさん(故人)に今から20年前に伺ったことがある。

★秩父館(ほっとすぽっと秩父館、明治12年築)

秩父館が観光施設としてリニューアルされる20年前、大正末から昭和一桁生まれの関根家のご姉妹に、祭りの歴史やしきたりをレクチャーされながら川瀬祭りや夜祭りを見物していた筆者であるが、その大部分の事を忘れてしまった。簡単なメモでも記録しておけば良かったと、今更後悔しているのである。

秩父館2階旧客間から秩父往還を見る。中山道の熊谷宿から海抜2082メートルの雁坂峠を抜けて甲州へと向かう。

秩父館を出発し秩父往還を大滝方面へ南下して再び秩父神社へ。

夕方になると秩父往還や秩父神社付近は子供や若者で賑わっていた。

初日の夜半に秩父神社の境内でおこなわれる〔天王柱立て神事〕の柱越しに、宮側町の屋台を見る。

★東町屋台(ひがしまちやたい)

秩父神社前にいると遥か遠くから祭囃子の音が。その音を追って歩いて行くと、東町の屋台置き場に到着した。

先の宮側町と同様、秩父の名工・丸岡治助の作。四方に唐破風を置いた立派なもの。

屋台の収蔵庫も、屋台と同じく唐破風で飾られている。

東町の屋台収蔵庫の前にあるスーパー・マーケット〔ベルク〕の駐車場より。収蔵庫の右手には明治期に建てられたという洋館(旧医院)と武甲山が見える。ちなみにベルクは昭和34(1959)年に秩父市宮側町に創業したマーケットをルーツとしている。

★熊木町笠鉾(くまぎまちかさほこ)

ピンク色の花飾りが印象的な笠鉾。昭和29(1954)年の建造だが、秩父・旧大滝村の栃本集落の笠鉾や、宮側町の屋台の部材を譲り受け、この笠鉾が完成したという。

日没後の天王柱立の儀式に向けて各町の屋台・笠鉾が秩父神社に集まる。写真でご覧いただいているのは、番場町と宮側町。★上町笠鉾(かみまちかさほこ)
秩父夜祭で屋台を出す上町は、夏の川瀬祭りでは笠鉾を出す。昭和57(1982)年の建造と、製作より42年と比較的新しい山車だが、先代の笠鉾の旧態を継承しているという。

★中町笠鉾(なかまちかさほこ)

12月の夜祭りで屋台を出す中町は、上町と同様に笠鉾での参加。

番場町の屋台を手掛けた地元の名工・坂本盛太郎の作。川瀬祭りの笠鉾ではいちばん古株の昭和11(1936)年の建造。

★本町屋台(もとまちやたい)

秩父往還の南側(三峰方面)から山車や笠鉾が続々と到着。前回紹介した本町の屋台も上町、中町に次いで神社前にやって来た。

かつて夜祭も秩父神社の表参道にあたる番場通りを巡行していたが、見物人の多さを理由にルートが変更されてしまったという。

ここまでの写真は番場町の収蔵庫と会所付近から撮影。

★道生町笠鉾(どうじょうまちかさほこ)

日没間際にやっと撮影することが出来た道生町の笠鉾。

以前は曳太鼓と呼ばれる山車で巡行していたというが、平成9(1997)年に上町の笠鉾の部材を譲り受け新たな山車を建造。笠も大正から昭和初期に作られたものと推測されているという。

日没直後の秩父往還を見る。

★番場町屋台(ばんばまちやたい)
日没後の朱塗りの番場町屋台は幻想的。

秩父神社を後にし、神社の表参道である番場通りを歩き西武秩父駅へと向かう。

花火と武甲山。

12月の秩父夜祭のハイライトの場所となる熊木町の亀石は、夏の川瀬祭りは出番はなし。軽く手を合わせて夜祭の再訪を願った筆者である。西武秩父駅へ到着。

********************************************************★参考資料「秩父市ホームページ」「秩父まつり会館ホームページ」ほか★撮影・・・・2024年7月19日