埼玉県秩父市の川瀬祭り2024、その1(建築家・関根要太郎の故郷を訪ねる)

◆秩父川瀬祭り　・・・・令和6年夏、6年ぶりに川瀬祭り宵宮を見る

　早いもので今年も半年が終わり7月。今年は空梅雨のまま6月が終わり、梅雨明けと同時に猛暑の季節が到来しました。そのような猛暑だった先週金曜日、約2ヶ月振りに埼玉県の秩父市を訪れ、秩父神社の例祭である〔川瀬祭り〕の宵宮を見て参りました。　コロナ・ウイルスが蔓延した令和2(2020)年以降、2年ほど祭りは縮小されていましたが、一昨年からは以前の形態で祭りがおこなわれるようになりました。私が最後に川瀬祭りを見たのは、平成30(2018)年のことでしたから、6年振りの川瀬祭り見物なる訳です。
　秩父の川瀬祭りというと、毎年12月2日と3日におこなわれる秩父神社の例祭である夜祭に比較すると知名度は低いですが、江戸期には既に行われていたという歴史を持つ祭りで、京都の祇園祭にそのルーツがあるとも言われています。夜祭りは大人の祭りという意味合いが強いですが、川瀬祭りの主役は子供。開催される日時が夏休みが入る前後という事もあり、秩父に夏の本格的な到来を知らせる祭りとして地元の人々には馴染みが深いようです。
　長年私のライフワークとして研究している、建築家・関根要太郎(1889～1959)の故郷である埼玉県の秩父。幼少の頃から頻繁に訪れている大好きな町の一つである秩父ですが、川瀬祭りの存在を初めて知ったのは恥かしながら約20年ほど前のことです。
　その頃お知り合いになった、関根要太郎の姪でかつての旅籠・秩父館(明治12年築、…要太郎のお母様の実家にあたる)の女主人Eさんに、夏に川瀬祭りというものがある事を教わり、訪ねたのが初めての川瀬祭りでした。まだ秩父館が観光施設としてリニューアルされる前の話です。
　川瀬祭りは宮側町(みやかわちょう)、番場町(ばんばまち)、本町(もとまち)、東町(ひがしまち)は屋台、道場町(どうじょうまち)、上町(かみまち)、中町(なかまち)、熊木町(くまぎまち)は屋台を造花で飾った笠鉾で、宵宮・本祭両日市内を巡行します。川瀬祭りは冬の秩父夜祭より規模は小さいですが、夜祭の6基より2つ多い8基の屋台・笠鉾が出されるのも特徴です。ちなみに夜祭では、笠鉾が電線の高さを超えてしまう等の理由により、花飾りを取った状態で巡行されますが、川瀬祭りでは花飾りを付けたまま巡行されるのも見どころの一つです。
　またこの祭りは川瀬という名称からお察しのように、秩父の町の中央に流れる荒川と密接な関りを持つ祭りです。宵宮(初日)の行事が終了したあと各町内の若い衆たちは荒川に水を汲みに行き、自分の町をその水で清めるといいます。　そして本祭にあたる、2日目は山車・笠鉾を出した8つの町が神輿を出します。そしてその神輿は海抜差30メートル近くある坂道を下って、荒川の武之鼻橋近くの河原に到着。ここで神輿を荒川の水で清め、祭りはクライマックスを迎えます。
　川瀬祭りの本祭は今から20年ほど前に行った事はありますが、荒川の清めの儀式は未だに見たことはありません。今年こそ荒川の儀式を遠くからでも見ようと思ってもいましたが、最高気温が35度近くあった初日の暑さに体は疲弊してしまい、2日連続して秩父へ行く事は出来ませんでした。秩父市内と荒川の河原と広域でおこなわれる本祭を、滞りなく見物するのはこれからの課題としておきます。
　今回の川瀬祭り見物に際し、自分に課したテーマは8つの屋台と笠鉾を全部見ることでした。実はこれまで川瀬祭り・夜祭へは何度も訪問していますが、混雑や暑さ・寒さなどで全ての山車を見学していないのが現状でした。　そのような事もあり、今回は8つの屋台と山車のすべてを撮影してきました。ちなみに一番古い山車は昭和8(1933)年建造との事で、この祭りが12月の夜祭と同様、秩父の人たちにより大切に受け継がれている事が伺えます。
　また冬の夜祭が大人が主役の祭りに対し、夏の川瀬祭りは子供が主役の祭り、そして夜祭が武甲山にいるという龍神を崇める祭りに対し、川瀬祭りは荒川の清流で神を清めるという対比も興味深いところです。　今回は建築家・関根要太郎(1889～1959)の母の実家である秩父館の写真をご覧いただいたあと、秩父川瀬祭りの写真をご覧いただきたいのですが、膨大な写真量になってしまったため2部構成の第1回目とさせていただきました。まずは川瀬祭りに行くまでの写真と、川瀬祭りの前半部分をご覧ください。

◆秩父館(ほっとすぽっと秩父館)

　◎設計：不詳

　◎施工：不詳

　◎竣工：明治12(1879)年

　◎構造：木造2階建て

　◎改修設計：根岸俊雄

　◎改修竣工：平成19(2007)年

　◎所在地：埼玉県秩父市宮側町18-2

　　❖平成20年、彩の国景観賞2008受賞

秩父館の土間部分。観光施設に改修される前は、ここに女中部屋(戦後の増築)があって、秩父館の女主人・Eさんのご厚意により、ここから川瀬祭りや夜祭を見学させていただいた筆者である。

★秩父館の神棚

秩父館の象徴ともいえる神棚。関根要太郎は自らの手記〔旅泊余滴、日本建築士・昭和10年5月号〕で秩父館を取り上げ、この神棚を写真入りで紹介している。

★秩父館・2階の旧客間

秩父館2階の旧客間。秩父館の主・Eさんの長姉・Mさん(故人)によると、昔の秩父は高い場所から神様が乗った山車を見下ろすのは失礼だという事で、祭り当日は建物2階・3階の雨戸を閉めるという習わしがあった事を伺った。観光施設として改修される前の秩父館も、その慣習に従って1階から祭りを見物していた。

今回の川瀬祭りで驚いたのが出店の多さ。コロナウィルス騒動が起きる一昨年にあたる平成30(2018)年に比較すると、秩父往還沿いには所狭しと店が出店していた。

★秩父川瀬祭り、宵宮2024

この日も秩父への移動は西武鉄道を利用。所沢駅からは特急電車〔Laview〕に乗車。

大きく取られた窓に快適な座席が好評な特急電車、特に飯能～西武秩父間の山間路線は電車に乗りながら、奥武蔵・秩父の大自然を満喫できた。

全長4811メートル、関東の私鉄では最長の鉄道トンネルである正丸トンネルを抜けて10分ほど経過すると、秩父の霊峰・武甲山が。

西武秩父駅を下車して会場の秩父神社方面へと向かう。

秩父夜祭のクライマックスの場所である団子坂も、ご覧のように静まり返っている。

その昔、団子坂上の左側には、関根要太郎の実弟である山中節治(1895～1952)が設計した、秩父産業館(昭和26年築)が建っていた。

秩父神社の表参道にあたる〔番場通り〕を歩き最初に通過したのは、東町の山車収納庫。

但し山車は巡行に行ってしまい、本祭の神輿洗いの儀式に使われる神輿のみが展示してあった。
★番場町(ばんばまち)屋台

番場通りを更に進み番場町で巡行していたのが、番場町の屋台。荒木の工匠：坂本森太郎と高橋卯三郎の手により、昭和10(1935)年に建造されたもの。朱塗りの山車が印象的。それに倣って装束も赤で統一されている。
遥か遠くには秩父神社の鳥居が。
秩父神社前の収蔵庫より。
★宮前家住宅(設計：山田醇、昭和5年築)

更に番場通りを秩父神社方面へと進んだところに建つ美しい住宅。秩父出身の建築家・山田醇(1884～1969)の設計により、昭和5(1930)年に竣工したものだ。マナーを守って見学していただきたい、秩父を代表する名建築の一つだ。

★秩父神社

そして秩父地方の鎮守社である秩父神社へ。これからの祭りへの準備はほぼ完了し、日没後からの神事を待つばかりの状態になっていた。

上の写真の柱は〔天王柱〕と呼ばれるもの。写真の解説板に詳しい解説がされているが、宵宮の夜半にこの柱を立て、スサノオと呼ばれる神を迎え祭りの初日はクライマックスを迎える。

★本町屋台(もとまちやたい)

中山道の熊谷宿から甲州地方を結ぶ秩父往還。その往還沿いにある本町は、冬の夜祭、夏の川瀬祭りとも屋台を出す。

川瀬祭りの本町屋台は昭和10(1935)年の建造。夜祭りの屋台に比べると規模は小さいが、八棟造り(やつむねづくり)の立派な山車だ。本町、以前は土蔵造りの古い商家を祭りの会所として使っていたが、数年前に道路拡張のため解体。周辺の古い商家も解体され、すっかり様変わりしてしまっている。

埼玉県熊谷と山梨県を結ぶ秩父往還。本町の屋台越しから寄居方面を眺める。遥か遠くには秩父神社の柞ノ森(ははそのもり)の木々が見える。
************************************************************★参考資料「秩父神社、秩父まつり会館ホームページ」「秩父市ホームページ」「秩父館在住・Mさん(故人)に伺った秩父の昔話」★撮影・・・・・2024年7月19日