東京多摩市の旧多摩聖蹟記念館(建築家・関根要太郎作品再見2024、その2) : 関根要太郎研究室＠はこだて

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大正・昭和初期に函館をはじめ国内で活躍した建築家の関根要太郎(1889～1959)、山中節治(1895～1952)、山中眞三郎(1897～1977)兄弟の設計作品、函館の歴史的建造物や風景、関根・山中兄弟の故郷である秩父の祭や風景、明治・大正・昭和に建てられたモダンな近代建築などを紹介します。
by ヨウタロウ研究員

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東京多摩市の旧多摩聖蹟記念館(建築家・関根要太郎作品再見2024、その2)

◆旧多摩聖蹟記念館

　・・・・昭和5年築の旧多摩聖蹟記念館でおこなわれている蔵田周忠展を見る

　　本年(令和6年：2024)年の2月26日より、東京多摩市の旧多摩聖蹟記念館(設計：関根要太郎+蔵田周忠、昭和5年築)でおこなわれている〔多摩聖蹟記念館と建築家・蔵田周忠展、監修：東京都市大学・岡山理香教授〕。　この企画展には3月に3回訪れたほか、4月下旬に蔵田が生前教授として活躍した武蔵工業大学の後身である東京都市大学(東京都世田谷区)でおこなわれた、シンポジュウムにも電車を乗り継ぎ、多摩川の急峻な河岸段丘の坂道を下って聴講させていただいた。長年一人で気になった事を好きな時に調べてる身にとっては、とても勉強になる講演会だった。
　その建築家・蔵田周忠展も残すところ、あと1週間ほど。その先日に体調を崩して3日ほど寝込んでいた筆者であったが、この企画展をもう一度見たい。そういう事でリハビリを兼ねて、昨日の昼下がり緑豊かな都立桜ヶ丘公園を訪れた次第である。当初は旧多摩聖蹟記念館周辺の桜が満開の頃に記念館を訪ねるつもりでいたが、肝心の休日は冷たい小雨が降る日と、翌日は今にも雨が降り出しそうな曇天の一日で、訪問を断念。その翌週に建築家・関根要太郎(1889～1959)の故郷である埼玉県秩父市に花見へ行ったのは、先月末の記事で紹介した通りである。
　今回の企画展では、大正末から昭和初期にかけて関根要太郎(1889～1959)率いる、関根建築事務所のチーフデザイナーとして活躍した蔵田周忠(旧姓：浜岡、1895～1966)の建築家としてのキャリアが、年代を追って紹介されている。とても簡潔で非常に分かりやすい内容である。　実をいうと担当の学芸員の方と、監修者の岡山教授にお願いして、筆者が所有する多摩川原遊園京王閣(設計：関根建築事務所、設計監督：関根要太郎、製図主任：蔵田周忠、昭和2年築)の絵葉書も展示させていただいた。個人的にもとても感謝の心で一杯の今回の企画展であった。
　今回は関根要太郎と蔵田周忠、その周辺の人物の交友を物語る展示も幾つかされていたのも、関根要太郎について長年研究する筆者としてはとても印象的だった。今回は蔵田が所蔵していたという3点の書簡(はがき)について紹介したいのだが、図版の転載が許可されなかったので、非常に分かりにくい話になってしまっている事をここでお詫びしたい。旧多摩聖蹟記念館を訪れたことがある人なら想像が付くかもしれないが、明治天皇像の裏手にあたる回廊の突き当りの、窓側のワンコーナーにそれらが展示がされている。
　まず最初が関根要太郎が蔵田周忠(当時は浜岡姓)に送った年賀状。関根要太郎と関根の実弟である山中節治(1895～1952) の連名によるもので、HAPPY NEW YEARという挨拶と、МCМXXⅡという年号(つまり1922年：大正11年)の上には、当時の関根・山中兄弟が好んで設計していたユーゲントシュティール調の、可愛らしい邸宅のイラストも添えられている。　住所は建築事務所が銀座2丁目、自宅が神田宮本町8(現在の神田明神の隣)と記されている。ちょうど2人が函館で活躍していた時期に作られた貴重な年賀状だ。
　次いで注目していただきたいのが、大正14(1925)年に関根要太郎へ宛てられた中国北京の天安門が描かれた絵葉書。蔵田周忠展の訪問初日、天安門の黄色い屋根瓦に書かれた差出人の名を見つけて、驚きのあまり思わず叫んでしまった筆者であった。　その人の名は泉泰三(1882～1934)。泉は当時の函館を代表する資産家の一人で、大正半ばから昭和初めまで函館市議を務め、函館近辺の小作人の解放運動や慈善事業などに積極的に参加する正義感溢れる人物で、長年にわたり関根と親しかった人物である。
　泉泰三は大正10(1921)年の函館大火後、函館曙町(現在の函館市元町)の自宅再建の設計を関根要太郎と山中節治兄弟に依頼。大正12(1923)年には、当時の住宅建築ではとても珍しい鉄筋コンクリート造にて新居を竣工させている。また大正15(1926)年には函館近郊の湯の川に、泉のセカンドハウス(泉合名会社湯川住宅)が関根建築事務所の設計により竣工したのだが、図面のタッチから推測するに蔵田周忠が製図主任を担当したと想像される。
　上海、南京、漢口、天津を経由し北京に到着した泉泰三から送られた書簡は、憧れの中国の地を踏みしめて満足という感想が述べられるとともに、次いで奉天へ向かう旨も書かれている。実は関根要太郎、建築家・三橋四郎(1867～1915)の建築事務所在籍時、同事務所設計による日本領事館建設の現場監理のため、中国の奉天や営口(牛荘)に明治44(1911)年から長期間滞在していた経験を持つ。そのような関根の話を思い出し、旅先から書簡を送ったのかもしれない。　また泉は旅先の地という事もあり、関東大震災後の関根の転居先を忘れてしまい、当時関根が建築事務所を置いていた、不動貯金銀行の日本橋支店を宛先にしたと筆者は想像した。
　そして最後に紹介したいのが、国会議事堂のイラストの切手印が印刷された5円葉書。一目で関根要太郎と分かる筆跡で、昭和33(1958)年の1月に埼玉県浦和市元町(北浦和)で暮らす当時68歳の要太郎が、渋谷の猿楽町(代官山)で暮らす当時63歳の蔵田周忠に送ったもの。達筆な字で読み取れない箇所があるが、内容は関根が所有する建築家・三橋四郎の著書〔理想の家屋：大正2年〕を蔵田に委ねたというもの。三橋は言うまでもなく2人の師にあたる人物である。
　そして関根が所有していた〔理想の家屋〕は、三橋本人から頂いたものだそうで、関東大震災や東京大空襲で焼かれることなく、関根が40数年に渡り大切に所有していた大切な本だったと想像される。　関根は60代後半という高齢なっていたのにも関わらず、郷里埼玉で積極的な建築家活動を展開。この年(昭和33年)に関根と実弟の山中眞三郎(1897～1977)の設計により建てられた、上尾の高校と戸田の小学校の校舎は現在も現役の校舎として使われ続けている。
　なお関根はこの翌年(昭和34年)の2月、埼玉県上尾の建設現場で体調を崩し、それより間もなく69年に渡る生涯を閉じている。今風に言うなら関根は〔終活〕の一環で、武蔵工業大学で多くの若者たちを指導していた蔵田にこの本を託したのだろう。今回紹介した3枚の書簡をはじめとした諸資料は、東京都市大学に〔蔵田文庫〕として所蔵されているそうである。　今回はかなりマニアックな話になってしまったが、個人的には是非ご覧いただきたい関根要太郎に纏わる展示。会期はあと1週間、新緑まぶしい旧多摩聖蹟記念館でおこなわれている、蔵田周忠展に是非とも訪れていただきたいものである。

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◆旧多摩聖蹟記念館　◎設計：関根要太郎+蔵田周忠(関根建築事務所)　◎施工：大倉土木株式会社　◎起工：昭和4(1929)年10月12日　◎竣工：昭和5(1930)年 6月26日　◎構造：鉄筋コンクリート造平屋　◎所在地：東京都多摩市連光寺5-1-1(都立桜ヶ丘公園内)　　❖多摩市指定有形文化財(昭和61年指定)　　❖東京都「特に景観上重要な歴史的建造物等」選定(平成14年付)　　❖DОCОМОМО JAPAN選定　　　日本におけるモダン・ムーブメントの建築(令和4年指定)