フィルムカメラで撮影した少し昔の函館(その2)

◆フィルムカメラで撮影した少し昔の函館

　・・・・元町、船見町の高台に建つ教会と洋館を巡る

　先々週は〔フィルムカメラで撮影した少し昔の函館〕と題し、平成10(1998)年から平成20(2008)年にかけて撮影した、函館に残る建築家・関根要太郎(1889～1959)、関根の実弟でやはり建築家の山中節治(1895～1952)の作品写真をご覧いただきました。今回はその続編として同年代に撮影した函館元町の教会と洋館、船見町で現在は改修工事がおこなわれている旧ロシア領事館の写真を紹介してきたいと思います。

　函館を初めて旅したのは平成9(1997)年の初夏、まだ20代の前半だった頃の事でした。それまで旅というと、埼玉県秩父の日帰り旅行か、京都や東北ばかりだった筆者でしたが、当時若者を中心に大ブレイクしていた辻仁成さんの小説〔海峡の光〕〔母なる凪と父なる時化〕、その同時期に発表されたエッセイ〔函館物語〕を読み、函館に興味を持ち、新幹線に津軽海峡線を乗り継ぎ函館へ向かいました。

　特に〔函館物語〕は辻さんが撮影した、観光地ではない哀愁を帯びた町の写真が多数掲載されており、実際に函館の町を見たくなったのです。この時は宿すら予約していない行き当たりばったりの旅でした。

　この時の写真を何枚かと言いたいところですが、この時の写真は残念ながらありません。この旅では、使い方が全く分からない父の形見である年季の入ったNikonのカメラを持参し、撮影終了時にフィルムを強引に巻き取ったため、フィルムを切ってしまうという大失態をやらかしてしまい、現像に出す前に廃棄してしまいました。そういう事で残っている写真は、その翌年に函館を訪れてからのものです。これらの写真もお見せするには、下手過ぎる酷いものだらけなので、それから数年後の写真を掲載しております。

　そのような事で写真が残っていないので記憶が曖昧ですが、ボーニアネックス(設計：明石信道、昭和57年築)内に入る書店でガイドブックを購入し、市電に乗ってロープウェイで函館山へ上り、そのあとに西部地区やベイエリア、立待岬や函館朝市や五稜郭を巡ったと思います。

　古い建物が多く残る街の中を走る、レトロな車両が多い函館市電をいたく気に入り、フリー切符を購入し何往復もしたのも、この記事を書きながら思い出しました。時に強烈なものへと変わるときもありますが、海峡から吹く風が心地よい初めての函館旅行でした。

　そして初めての函館旅行で一番感動したのが、元町の高台に建つキリスト教会の数々でした。眼下に津軽海峡と函館湾を一望できるという絶好の立地に、ビザンチン様式の白と緑青が吹いた玉葱屋根のロシア正教会や、グレーの鐘楼が印象的なカトリック教会、十字架がクロスしているようなモダンな容姿の英国国教会の聖堂には、本当に見惚れてしまったものです。幼少のころ母親に連れられ通った質素なカトリック教会とは違い、絵に描いたような本格的な教会建築の数々に、〔異国情緒〕という言葉はこのような事を指すものだなと思ってしまいました。

　またこれらの教会、幕末の箱館開港直後にアメリカ、フランス、イギリス、ロシアの各国が置いた宗教施設がそのルーツにあり、横浜、神戸、長崎などの函館と同時期に開港した港町には、キリスト教会は点在していますが、函館のように一つの場所に纏まって建っている町は他にありません。これらの教会群の真下で育った作家・亀井勝一郎(1907～1966)は、我が家を中心に各国の宗教が集まっている、私は宗教的コスモポリタンであったと自身の手記で記していますが、元町の高台から教会群を眺めていると、その言葉が頷けてきます。

　また元町の教会群から数分北へ歩いた旧函館区公会堂(明治43年築)、旧北海道庁函館支庁舎(明治41年築)、旧イギリス領事館(大正2年築)という洋館群も、その建物の美しさとボリュームに感動しました。この当時は何も知りませんでしたが、これらの洋館は明治40(1907)年の函館大火後に建設されたもので、旧イギリス領事館を除く2棟は、度重なり函館で起こる大火に諦めたかのような、防火対策を全くおこなっていない、今を謳歌しているような建造物でもあります。

　そして函館へ訪れるようになって徐々に興味を抱くようになったのが、船見町の旧ロシア領事館(明治41年築)です。筆者が初めて函館へ訪れた前年まで道南青年の家として使われていましたが、それ以降は長年にわたり空き家の状態が続いていました。

　煉瓦造による無骨な建物、かつてロシア領事館として使われていたこともあり、ロシア風建築と紹介される事が多くありました。しかし実際の設計者はドイツ人建築家のリヒャルト・ゼール(1854～1922)によるもので、ドイツ風の建築スタイルに唐破風など和風のエッセンスを混ぜた独特な作品です。

　横浜、神戸、長崎など他の開港都市とは違い、ロシア文化の影響が強いと言われる函館。実は明治期から繁栄を極めた北洋漁業と密接な関係があり、その後の町の繁栄が異国情緒溢れる函館に新たなエッセンスを与えたのは、紛れもない事実ではないかと思います。

　今回ご覧いただく写真は観光エリアという事もあり、すべてが現存していますが、建物後方に写る景色はかなり変化しているように思えます。では今回も20世紀末から21世紀初頭にかけての函館の写真をご覧ください。

　

◆函館ハリストス正教会(元町、大正5年築)

◆カトリック元町教会(元町、明治43年築、大正12年増改築)

教会玄関入ってすぐにあったステンドグラス。バラ窓のこのデザインは竣工当初から用いられたものだったが、この後新しいものへと取り換えられた。
◆函館聖ヨハネ教会(元町、昭和54年築)

◆日本基督教団函館教会(元町、昭和6年築)

◆旧日本基督教会函館相生教会、函館元町港ヶ丘教会(元町、昭和9年築)

◆旧函館区公会堂(元町、明治43年築)

◆旧北海道庁函館支庁舎(元町、明治42年築)

◆旧イギリス領事館(元町、大正2年築)

◆東本願寺函館別院(元町、大正4年築)

◆旧日本海員掖済会函館宿泊所(元町、昭和3年築)

◆旧ロシア領事館(船見町、明治41年築)

船見町の高台から。この頃は函館ドックのゴライアスクレーンが残っていた。
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★撮影・・・・1998年～2006年