東京西東京市の如意輪寺山門(建築家・山中眞三郎作品再見2024)

◆真言宗如意輪寺山門

　・・・・昭和44年築、関根要太郎の実弟が設計したコンクリート造の寺院山門

　昨年の秋から始めた、埼玉県秩父出身の建築家・関根要太郎(1889～1959)、山中節治(1895～1952)、山中眞三郎(1897～1977)の埼玉県内に現存する設計作品巡り。海抜1100メートルの三峯神社をスタートに、秩父往還沿いの山間にある旧大滝村上中尾集落、埼玉中東部の上尾、海抜2メートルの荒川沿いに位置する戸田を訪ね、計3回に渡る関根・山中兄弟の建築作品巡りの旅を終えた。戦後、関根要太郎と山中眞三郎は、埼玉県内各地で多くの建築設計を手掛けており、生前の関根・山中兄弟の熱意溢れる活動を少しながら辿れた、この数ヶ月だった。

　今年で築66年を迎える関根要太郎最晩年の作品である、戸田市立戸田第二小学校(昭和33年10月竣工)の撮影後、新宿を経由して立ち寄ったのは東京都の西東京市であった。西東京市という地名が未だにピンと来ない筆者だが、旧保谷市の泉町に現存するのが、山中眞三郎の晩年の作品：如意輪寺山門である。

　昭和44(1969)年4月に竣工した山中眞三郎作品を見に、今回は西武新宿線の西武柳沢駅を下車し、平坦な武蔵野台地の地形ながら微妙な高低差に設けられた用水や小川の暗渠を楽しみながら如意輪寺へと向かった。

　約20年近く建築家・関根要太郎と山中節治兄弟について調査をおこなってきた筆者。しかし2人の弟である山中眞三郎(やまなかしんざぶろう)については、関根・山中兄弟の母の実家にあたる、秩父市宮側町にある秩父館の女主人であったEさんや、長姉のМさん(両人とも故人)から生前の話をよく伺っていたが、そのプロフィールが殆ど分からない建築家であった。しかし今から3年前より、眞三郎のお孫さんにあたるあたるМさん(ドイツ・フランクフルト在住)から、幾つかの資料を送付していただき、その活動の一部が明らかになってきたのである。

　山中眞三郎のお孫さんより3年前に送付していただいた、眞三郎が昭和31(1956)年11月に作成した手書きの履歴書によると、眞三郎は明治30(1897)年8月29日の生まれ。山中の姓を名乗っている事から、父の実家である埼玉県秩父郡旧大滝村の上中尾集落で育ったと想像される。また眞三郎14歳の春(大正2年：1913年)には、東京下谷区の私立岩倉学校(現私立岩倉高等学校)に入学。東京で建築家の卵として活動する長兄・関根要太郎の影響もあってか高等建築科を専攻し、大正5(1916)年10月に卒業した。

　また岩倉学校を卒業する3ヶ月前の大正5(1916)年1月には、鉄道院総裁研究所に就職。履歴書によると職務内容は、停車場や橋梁の設計、施設の研究をおこなってたいという。更に大正6(1917)年9月からは、東京市浅草区の私立東京商工学校(現埼玉工業大学)の夜学に、鉄道院勤務の傍ら通学し、大正7(1918)年の9月に同校の本科・商業科を卒業している。

　鉄道院は大正9(1920)年2月に退職。同年3月には、兄の関根要太郎と山中節治が東京銀座に開設した〔関根建築事務所〕に加入し、約1年ほど建築設計の手伝いをおこなっている。

　そして大正10(1921)年2月からは、逓信省営繕局の経理課に就職し、電話局設計の製図工や現場監督などを務めた。なお山中眞三郎が在籍した頃の逓信省は、岩本禄(1893～1922)、吉田鉄郎(1894～1956)、山田守(1894～1966)といった東京帝大卒の若手スター建築家が在籍し、とてもモダンで華々しい電話局や郵便局が相次いで建てられていた。当時20代半ばだった眞三郎は、兄たちの建築事務所在籍時と同様、そのモダンな作品に大いに刺激を受けたと想像される。

　逓信省は4年ほど勤務ののち退職。大正14(1925)年11月からは大倉土木株式会社(現在の大成建設)に移籍し、建築設計や施工計画などに携わったという。

　大倉土木は約20年に渡り勤務し、昭和21(1946)年4月に退職。その翌月には東京都大田区久が原のは自宅近くの、大田区千鳥町に文具店を開業。それと同時に埼玉浦和で建築事務所を再開させた兄・関根要太郎の建築事務所の手伝いをおこなう。

　戦後間もなくの混乱期という事もあり、その頃の関根建築事務所には大口の仕事は舞い込まなかったが、昭和27(1952)年に埼玉県桶川町の小学校、昭和28(1953)年に上尾の町役場を低予算で建てたのを機に、慢性的な財政難に苦しめられていた埼玉の市町村から注目を浴び、埼玉県内で多くの建築設計を手掛ける事になった。還暦を過ぎた関根の片腕として、山中眞三郎は精力的に活躍。関根は昭和34(1959)年2月に上尾の現場で体調を崩し、同月の20日に69年に渡る生涯を閉じたが、眞三郎により建築事務所は継承され、幾つかの建築設計をおこなっていたようである。

　そして約2年前に当ブログで初めて如意輪寺山門を紹介して数ヶ月後、日本に一時帰国されていた眞三郎のお孫さんであるМさんから送られてきたのが1枚の写真。会社の慰安旅行と思われる集合写真、上田館なる建物の前に高齢になった眞三郎も写り、社員の背後には〔日清建設KK〕なる立て看板が写っていた。

　日清建設なる会社、実は埼玉県内に2社あり、どちらの会社か判断がしずらい。しかし関根要太郎の建築事務所が置かれていた浦和に本社がある事や、株式会社〔KK〕なる会社表記から、浦和にあるこちらの会社ではないかと筆者は推測する。

　この日清建設において、山中眞三郎がどのようなポジションや役職で会社に携わっていたか謎だ。しかし兄・関根要太郎の没後も、建築設計の業務に携わってきた事を裏付ける貴重な写真だ。この時期にどのような建築設計に携わったのか一切分からないが、新たな資料が発見される事を期待したい。そして長兄・要太郎が亡くなってから10年後に、東京の保谷に建てられたのが、眞三郎設計の如意輪寺山門だったのである。

　八脚門と呼ばれる寺院建築の定番スタイルに、総鉄筋コンクリート造の如意輪寺山門。若き日はモダンな作風で大活躍した兄たちや、逓信省のモダン建築のエッセンスをたっぷり吸収しただろう山中眞三郎。しかし眞三郎72歳の設計作品は、和風建築を忠実に再現したものとなった。

　堂々たる佇まいのコンクリート造の山門。今回も時間をたっぷりかけて、ベテラン建築家が設計した純和風建築を堪能させていただいた。

◆真言宗智山派如意輪寺山門

　◎設計：山中眞三郎

　◎施工：不詳

　◎起工：昭和43(1968)年2月11日

　◎竣工：昭和44(1969)年4月20日

　◎構造：鉄筋コンクリート造

　◎所在地：東京都西東京市(旧保谷市)泉町2-15-7

門前を走る伏見稲荷通りに架けられた歩道橋より。写真には納めきれなかったが、遠くには関根要太郎、山中節治、山中眞三郎の故郷・秩父の武甲山をはじめ秩父や奥武蔵の山々が見る事が出来た。

◆竣工当時の如意輪寺山門

今から3年前、山中眞三郎のお孫さんであるМさんから送付していただいた画像。

下の写真をご覧いただくとお分かりのように、所在地、起工・竣工年、眞三郎自身が設計を手掛けた事など詳細なデーターが明記されており、順調に作品調査をする事が出来た。写真表側にはMAY・69と年号も記されている。

筆者が暮らす町より10キロ程しか離れていない保谷(現西東京市)の町、筆者も頻繁に利用する西武池袋線ひばりが丘駅の徒歩圏内に、山中眞三郎の作品が現存していたとは本当に驚きであった。
◆日清建設社員旅行での1枚

こちらも山中眞三郎のお孫さんであるМさんから提供していただいた写真。写真前列右から2人目が山中眞三郎。

本文でも紹介したように、埼玉県内に日清建設という会社は浦和と川越に2社あり、どちらか分からなく問い合わせはしていないが、何かしらの重要な役職についていたと想像される。

この碑からも分かるように、仁王像の安置は山門竣工から3年後の昭和47(1972)年の事であった。◆如意輪寺本堂

こちらは昭和51(1976)年竣工。この他に檀徒会館(旧幼稚園)などは、モダニズム調の洒落た出来栄え。伝統と新風が交錯する如意輪寺であった。

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★参考資料

「履歴書」山中眞三郎作成、昭和31年

「山中眞三郎のお孫さんであるМさんから送付していただいた資料」令和3年～令和4年

★撮影・・・・2021年11月、2024年1月