埼玉県立上尾高等学校(建築家・関根要太郎作品再見2024)

◆埼玉県立上尾高等学校

　・・・・昭和33年築、関根要太郎が最晩年に設計を手掛けたモダンな校舎建築

　埼玉県秩父出身の建築家・関根要太郎(1889～1959)の設計作品：秩父宮殿下三峯山御登山記念館(秩父宮殿下台臨記念館、昭和6年築)をはじめ、その実弟である建築家・山中節治(1895～1952)の設計作品：旧秩父郡大滝村立上中尾小学校(昭和7年築)、要太郎と節治の実弟である山中眞三郎(1897～1977)と要太郎が設計を手掛けたと思われる、旧秩父郡大滝村立大滝小学校三峰分校(昭和32年築)を再見するため、秩父三峯山と秩父郡旧大滝村上中尾集落を訪ねた昨年秋。それから約１ヶ月経った暮れの週末、関根要太郎の最晩年の作品を見るため訪ねたのは、埼玉県上尾市である。

　上尾は埼玉の中東部に位置し、近世では中山道の日本橋から5番目にあたる宿場町として栄え、近現代では東京近郊のベットタウンとして発展した。また昭和26(1951)年から昭和38(1963)年まで上尾町長～上尾市長を務めた下里金太郎は、町の発展のためブリヂストン・サイクルや東邦レースの工場誘致に成功。更なる町の繁栄をもたらしている。

　そしてその頃建てられたのが、埼玉の出身のベテラン建築家・関根要太郎が設計を手掛けた、埼玉県立上尾高校の校舎だった訳である。冒頭の写真でご覧いただいた校舎がそれである。

　大正初期から昭和戦前までは、東京を拠点に不動貯金銀行、仁壽生命の店舗営繕をはじめ東京、函館などで数多くの建築設計を手掛けた関根要太郎。昭和17(1942)年には、長年に渡り店舗営繕に携わってきた不動貯金銀行を退職。それより少し前に東京麹町区六番町の邸宅とは別に、埼玉浦和に土地を購入しアパートや義弟の邸宅などを建設し、活動のベースを浦和に移している。また不動貯金銀行退職から数年間は、大阪に本店を置く藤木工務店の東京支社にも勤務した。

　そして終戦後は、浦和にて[関根建築事務所]を再開。以前ご遺族から伺ったお話しによると、戦後から数年間は関根のもとに大口の仕事は舞い込まなかったという。しかし昭和26(1951)年に、埼玉県桶川町の小学校校舎の設計を手掛ける事になる。

　これは戦前不動貯金銀行の幹部を務めていた天沼雄吉(桶川出身)の仲介によるもので、校舎不足に悩まされていた同町のために低予算で校舎を建てるというものだった。当時桶川町は就学児童の増加により校舎不足の問題が深刻化し、小学校の授業を二部に分ける事によりその状況を繕っていた。

　そのような状況にあって関根は、戦前から支持していた建築構造研究者・岡隆一(1901～1988?、関根の出身校：東京高等工業学校の後輩にあたる)が開発した〔平衡構造工法〕を用い、通常の約半額で木造2階建ての校舎を昭和27(1952)年4月に竣工させている。桶川小学校の竣工間もなくに、この前年の2月に火災のため町役場を全焼させてしまった、桶川の隣町である上尾町のために鉄筋コンクリート造2階建ての庁舎を設計。昭和27(1952)年10月に起工し、昭和28(1953)年2月に竣工させている。

　上尾町の町役場は133坪の庁舎を、630万円の低予算で竣工させる事に成功。予算の関係もあり窓枠は木造だったそうだが、当時の新聞記事には「県内一モダンな庁舎」と取り上げられるなど、好意的に迎えられたそうである。

　関根要太郎の設計により昭和27年から昭和28年にかけて建てられた、桶川の小学校舎と上尾の町役場の仕事は、ご遺族の話によると慢性的な財政難に苦しめられていた、埼玉県内の地方自治体関係者の間で評判となり、関根のもとには相次いで設計依頼の話が舞い込んだという。

　そして上尾では町役場の竣工以降、上尾第二小学校(現中央小、昭和29年築)、町立保育所(昭和30年築)、上尾中学校(昭和31年、昭和32年増築)、上尾町文化会館(昭和33年築)、共立上尾商業学校高等学校(昭和33年築)の設計を手掛けた事が、関根が昭和33(1958)年に作成した経歴書により明らかになっている。また上尾中央小第二校舎(昭和34年築)の竣工は、昭和34(1959)年2月20日に関根が急逝した2ヶ月後に竣工したものだが、関根のご遺族の話やその作風から推測するに、関根が関与した可能性が高い作品である。

　当時60代後半になっていたベテラン建築家・関根要太郎と、若き日は逓信省や大倉土木(現在の大成建設)に勤務していた百戦錬磨の建築家・山中眞三郎。2人が上尾町(上尾市)のためにデザインしたのは、どちらかというと無機質な白い箱型の建築群だった。

　この記事の後半に関根・山中兄弟が上尾で手掛けたその他の作品の写真を掲載してみたが、一見すると判別が付かない出来栄え。しかしながら当時としては、とても斬新なデザインだったと想像される。上尾高校に関しては建物北面にあるガラス張りの階段室は、とても明るく若き日はモダンな作風で鳴らした関根らしさが出た箇所ではないかと思う。

　当初は上尾・桶川・伊奈の3町村により設立された共立上尾商業高校(現県立上尾高等学校)。昭和33(1958)年5月に新校舎の工事が開始され、同年10月に鉄筋コンクリート造2階建て、7教室、教職員室・事務室各1室の校舎が竣工し、翌月から使用が始まっている。またその翌年の11月に冒頭や下の写真でいうところの右半分の校舎が竣工。現在のような姿になっている。この右側部分は、関根の生前に設計を手掛けた校舎のデザインを奇襲したものであるが、関根建築事務所(関根建築事務所)を継承した山中眞三郎が設計を手掛けたものなのか、第三者に委ねられたものなのか詳細は不明である。

　戦後、上尾にて数多くの公共建築の設計を手掛けた関根要太郎・山中眞三郎兄弟。今から10数年前までは小中高校の各校舎が現存していたが、小中学校は築60年を経過し耐震問題やバリアフリーなどを理由に、新たな校舎へと建て替えられている。

　上尾高校もこの先どのぐらい使用されるかは謎だが、地元埼玉出身の建築家の最晩年の作品として多くの人に認知していただきたい、簡素ながら美しい建築作品である。レトロモダンな白亜の校舎は、とても澄んだ冬の空ととてもマッチしていた。

◆埼玉県立上尾高等学校(旧共立上尾商業高等学校)

　◎設計：関根要太郎+山中眞三郎(関根建築事務所：関根建築研究所)

　◎施工：島藤建設埼玉支店

　◎起工：昭和33(1958)年5月

　◎竣工：昭和33(1958)年11月

　◎構造：鉄筋コンクリート造2階建て

　◎所在地：埼玉県上尾市浅間台1-6-1

★上尾高校第一校舎階段室

この作品の見所の一つ校舎裏の階段室。若き日はモダンな作風を武器に活躍した、関根らしい洒落た作り。現存する戸田第二小学校や、平成18(2006)年に解体された朝霞第一中学校なども、ガラス張りのモダンな階段室が設けられていた。

先に紹介した階段室より左側部分が、関根の没後9ヶ月後の昭和34(1959)年11月に竣工した増築部分。関根の存命中に竣工したガラス張りの階段室に対し、こちらの階段室は窓が閉ざされた状態になっている。

背後の4階建て校舎は通称・第二校舎と呼ばれるもので、昭和38(1963)年1月の竣工。関根設計による第一校舎をはじめ、築60年を超えた歴史ある校舎を多く使用している県立上尾高等学校である。★上尾自治だより

共立上尾商業高等学校の新校舎竣工を伝える上尾市の市報。校舎右部分が竣工するのは、この1年後のことである。

当初、上尾・桶川・伊奈の3市町により設立された上尾商業高校だったが、昭和35(1960)年4月に県立に移管し、埼玉県立上尾高等学校と改称している。

❖図版・・・「上尾自治だより」昭和33年11月号
★関根要太郎・山中眞三郎兄弟の写真

以前にも何回か紹介させていただいているが、山中眞三郎のお孫さんにあたるМさん(ドイツ・フランクフルト在住)から送られた写真。写真中央が関根要太郎でその左に写るのが山中眞三郎。足場が組まれた建設中の建物やその前の敷地から推測するに、埼玉の校舎の建設現場で撮られたものではないかと思う。

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★埼玉県上尾における関根要太郎+山中眞三郎作品

◆上尾町役場(昭和28年築、旧所在地：本町)

❖図版・・・「上尾市ホームページ」

◆上尾町立第二小学校：現上尾市立中央小学校(昭和29年築、旧所在地：上町)

◆上尾市立保育所(昭和30年築、旧所在地：本町)

❖図版・・・「上尾市史　第7巻通説編下」

◆上尾町立上尾中学校第1期工事(昭和31年築、旧所在地：愛宕)

◆上尾町立上尾中学校第2期工事(昭和32年築、旧所在地：愛宕)

◆上尾市立文化会館(昭和33年築、旧所在地：本町)

❖図版・・・「上尾自治だより」昭和33年2月号

◆共立上尾商業高等学校：現埼玉県立上尾高等学校(昭和33年築、所在地：浅間町)

◆上尾市立中央小学校第2校舎(昭和34年築、旧所在地：上町)

写真手前に写る2階建ての校舎が、関根の没後から9か月経った昭和34(1959)年11月に増築された部分。

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★参考文献・参考資料

「考え直して見る事など」関根要太郎氏著、埼玉県建築士・昭和28年

「経歴書」関根要太郎氏作成、昭和33年

「上尾自治だより」昭和29年～昭和34年

「上尾市史」上尾市史編纂委員会、昭和47年

「ウィキペディア：上尾市」ほか

★撮影・・・・・2010年1月、2023年12月