埼玉県秩父市の秩父館と秩父夜祭2023(建築家・関根要太郎の故郷を訪ねる)

◆秩父館と秩父夜祭

　・・・・令和５年、秩父夜祭の宵宮を訪ねる

　

　早いもので今年も12月に入り、残す所ところ僅かとなってきました。近年の地球温暖化も影響しているのでしょうが、秋らしい季節が僅かで一気に冬になったという今年の印象です。この季節になると、建築家・関根要太郎(1889～1959)の故郷である埼玉県秩父市で、毎年12月2日と3日におこなわれる〔秩父夜祭〕の事が気になる私であります。本年は12月2日の宵宮に行って参りました。

　秩父夜祭は毎年12月1日から6日までおこなわれる秩父神社の例祭で、6つの町と数町の連合体が管理・所有する屋台と笠鉾が曳き回しされる2日の宵山と3日の大祭で祭りはクライマックスを迎えます。

　特に3日の夜半に秩父神社から約1キロ離れた御旅所(秩父市熊木町の秩父公園内に設置されている)に向けて6つの屋台と笠鉾による御神幸行列では、団子坂という御旅所直前の急坂に、10トンから20トン近い重さがある山車が曳き手により引き上げられ、祭りはフィナーレへと近づきます。

　その曳山の美しさと雄大さから、京都の祇園祭と飛騨の高山祭と並んで、日本三大美祭り及び日本三大曳山祭りの一つに数えられています。そして毎年10月中旬の土曜日と日曜日に埼玉県川越市でおこなわれる、川越祭り(川越氷川祭、神社の例祭は14日と15日)と混同される方も多いようですが、秩父夜祭は曜日関係なく12月の2日と3日に催されます。なお夏の秩父川瀬祭りも曜日関係なく、7月19日と20日に催されます。集客の観点から川越のように、週末の祭り開催についても長年議論されているようですが、伝統を重んじているのが秩父神社の祭りです。

　今年の秩父夜祭2日(土曜日)の宵宮を見物は、昼過ぎに西武秩父駅に到着し、御旅所を見学した後に秩父神社に参拝。その後、秩父神社そばに建つ関根要太郎の母・リンさんの実家である、秩父館(現ほっとすぽっと秩父館、明治12年築、かっての旅籠)で小休止した後、秩父往還沿いに停留されている本町(もとまち)、中町(なかまち)、上町(かみまち)の屋台を見学。帰りは日没間際の特急電車のチケットを購入していたので、山車の曳き回しや花火を見ずに帰って参りました。

　秩父に行くと必ず立ち寄るのが、関根要太郎の実家である秩父館です。秩父館の主で筆者が長年に渡りお世話になっていた、Eさん(要太郎、山中節治、山中眞三郎兄弟の姪にあたる)が、2年前に永眠されとても寂しい限りですが、女主人がいなくなった現在も何となくここに立ち寄ってしまいます。

　なお秩父館が観光施設に改修される数年前には、Eさんのご厚意により筆者の友人やその家族と一緒に秩父館の土間から、祭りを何度か見学できたのはとても良い思い出です。

　なお冒頭の写真でご覧いただいたように、秩父館の2階は雨戸が開けられ、そこから観光客の方々が、秩父往還を通る山車や笠鉾を見学できるシステムを取っています。コロナウイルス蔓延の騒動以前に比べて数は減ったような気もしますが、個人家屋や施設の高い階から山車を見るという場所も所々で見られました。実は昔の習わしではこのような行為は、神様を乗せた山車や笠鉾を見下ろす御法度のおこないで、祭り当日はどこの家屋も2階を閉めていたと、Eさんの長姉であるМさん(故人)から伺ったことがあります。これに関しては時代が変わったという事でしょう。

　また本年の宵宮は土曜日に催されていた事もあり、かなりの人出で正直驚きました。行きの西武線の各駅停車もかなりの混雑でしたし、秩父神社も神門南の社務所あたりから参拝の人の列が並んでいたのも、本祭のような賑わいでした。実は7年前にあたる平成28(2016)年に夜祭の宵宮を見学したのですが、金曜日だった事もありさほどの賑わいではなかったのを考えると、本当に驚きでした。

　また電車内にはスーツケースを携えた、インバウンドの祭り見物客グループを何組か見かけた、今回の秩父夜祭でした。

　

　なかなか日程が合わないですが、やはり見たいのは3日の本祭。2年前に縮小された本祭へは訪れましたが、やはり雄大なあの祭りをこの目で実際に見てみたいものです。なお来年の夏は川瀬祭りが週末(金曜・土曜)に催される事もあり、天気が良ければそちらにも訪れたいなと考えております。

　また最晩年の関根要太郎も、毎年夜祭の開催を心待ちにしていた話を、ご遺族から以前伺ったことがあります。故郷の忘れられない行事だったのでしょう。ではここからは相当な写真の数になってしましたが、夜祭宵宮と祭り当日の秩父館の様子をご覧ください。

◆秩父館(ほっとすぽっと秩父館)

　◎設計：不詳

　◎施工：不詳

　◎竣工：明治12(1879)年

　◎構造：木造2階建て

　◎改修設計：根岸俊雄

　◎改修竣工：平成19(2007)年

　◎所在地：埼玉県秩父市宮側町18-2

　　❖平成20年：彩の国景観賞2008受賞

★令和5年、秩父夜祭宵宮を訪ねる当初は池袋駅から西武の特急電車で西武秩父駅へ向かう予定だったが、早い時間で満席になっていたためJRと西武線の普通電車を乗り継いで秩父へ。途中の乗換駅には秩父夜祭のポスターが掲示してあった。
自宅出発から約2時間、西武秩父駅に到着。この一帯、その昔は関根要太郎の出身校・秩父郡立農学校(現埼玉県立秩父農工科学高校)の校舎があった場所である。今から110年ほど前、10代の関根はここで学生生活を送っていた訳である。いつもの撮影スポットより武甲山を撮影。祭りという事もあり、駅前の駐車場には出店のワゴンカーが多く駐車してあった。

西武秩父駅のそばの秩父公園内にある秩父夜祭の御旅所。

御旅所には亀の子石と呼ばれる妙見菩薩を表す石が置かれており、ここで秩父神社の妙見菩薩(女神)と、武甲山に住む龍神(男神)が12月3日に逢引きするという伝説がある。

ちなみに秩父公園脇の秩父市役所や秩父市文化伝承館が建つ場所には、戦後まもなく関根要太郎の実弟である山中節治(1895～1952)の設計作品：秩父産業館(昭和26年築)が建っていた。

そして御旅所の直前にある団子坂。3日の夜半には20トンから10近いトン近い重さがある6台の山車がこの坂を上り、祭りはクライマックスを迎える。ちなみに坂下にある秩父鉄道の架線は祭りに際し、一時撤去される。まだまだ秋の風情が残る秩父神社の門前町・番場通り。背後に写る和風モダンな住宅は、秩父市金崎出身の建築家・山田醇(1884～1969)の設計作品：宮前家住宅(昭和5年築、国登録有形文化財)。西武秩父駅から歩くこと約10分、秩父神社に到着。

宵宮にも関わらず、時間を追うごとに秩父神社には、本祭の時のような長蛇の列が。秩父神社から武甲山を望む。

秩父鉄道秩父駅の駅ビル・地場産業センター内にあるショップには、秩父市のイメージキャラクター〔ポテくまくん〕が。祭りに合わせてはっぴ姿のご覧のような姿に。

秩父神社そばの宮側町に秩父館は建つ。秩父館の右に写る道路標識も、祭りの山車通行に合わせ方向が変更されている。夏の川瀬祭りと冬の夜祭になると、標識がこのように折り曲げられている。

今から10数年前は、ここが女中部屋で、炬燵に入りながら夜祭を見学ていた筆者である。かなり老朽化した民家の1階には祭りに合わせて素敵な菊飾りが。

12月3日の本祭で多くの山車が通る聖人通り。こちらも夜祭に合わせて道幅が拡張され、面白みのない通りになってしまった。

奥に見えるのは横瀬町の二子山。特徴ある山容は、筆者の通勤途中の電車内からも武甲山と共によく見える。

秩父館を後にして、秩父往還を三峰方面へ進む。

上町の屋台。屋台も立派だが旦那衆の赤い着物が気になる筆者である。明治初めに建てられた木造商家〔松本三階〕の1階に展示されていた旧上町の屋台後幕。昭和12(1937)年から昭和54(1979)年にかけて使用されたもの。養蚕や銘仙で全盛を極めていた当時の秩父を偲ばせる貴重な遺構である。日が暮れて中町の屋台。屋台前後の鬼板が大きいのが特徴。

本町の屋台。中央の達磨の垂れ幕が印象的。

3町の屋台を見学後、秩父往還を長瀞・寄居方面に戻り再び宮側町へ。

帰りは西武線の特急電車・Laview(ラビュー)に乗り帰途についた。*******************************************************★参考資料「秩父夜祭の基礎知識ホームページ」「秩父神社ホームページ」「関根要太郎の姪・松枝さんのお話：平成17年～平成18年」★撮影…2023年12月2日