東京文京区の鳩山会館(大正モダン邸宅再訪2023)

◆旧鳩山一郎邸

　・・・・大正13年築、音羽の高台に建つ鉄筋コンクリート造の洋館

　梅雨の晴れ間となった先月中旬の土曜日、最寄りの東京メトロの駅より1日フリーパス(24時間券)を購入し、東京都内に建つ幾つかの近代建築を巡ってみた。その最初に訪れたのが、文京区音羽に建つ鳩山会館である。我が家から、鳩山会館の最寄り駅にあたる地下鉄有楽町線の護国寺駅まで、電車で30分ほどの距離なので、頻繁に訪れていたつもりでいたが、過去の写真データを調べてみると実に14年ぶりの事であった。

　音羽の高台に建つ鳩山会館は、昭和29(1954)年から2年間に渡り内閣総理大臣、自由民主党の初代総裁を務めた、政治家・鳩山一郎(1883～1959)の自邸として、大正13(1924)年に建てられたものである。

　鳩山一郎の没後は長男の鳩山威一郎(1918～1993)と、その妻・安子(1922～2013)が相続し、平成7(1995)年には大改修を施し一般公開の運びとなった。また鳩山一郎の孫にあたる鳩山由紀夫(1947～)氏が、内閣総理大臣に就任した平成21(2009)年秋から約1年間ほどは、この洋館に大挙して見学者が訪れたは記憶に新しい。

　鳩山会館というと庭に咲き誇る薔薇が有名だが、見頃を完全に過ぎた時期だったのにも関わらず、決して密にならない程度のペースで会館には見学者が訪れていた。この洋館の一般公開より約20年、鳩山会館が東京の名所として認知されてきた事の証なのだろう。ちなみに筆者が鳩山会館へ最後に訪れたのは、鳩山由紀夫氏の総理就任前だったが、それ以降に館内には本人そっくりのブロンズ像が、新たに設置されていたのは正直驚いた。

　先に紹介したように鳩山会館は大正13(1924)年に、当時衆議院議員を務めていた鳩山一郎の自邸として建てられたもの。大正12(1923)年9月の関東大震災で、これまでの鳩山邸が倒壊したため、鳩山一郎の親友で建築家の岡田信一郎(1883～1932)に設計を依頼。その翌年に竣工したのが、この邸宅だったのである。

　ちなみに鳩山家は、由紀夫氏や故鳩山邦夫(1948～2016)氏の曽祖父にあたる、衆議院議員で東京大学教授、外務次官などを務めた鳩山和夫(1856～1911)が、明治24(1891)年に同地に居を構えたそうである。

　設計者の岡田信一郎は、洋風の古典主義からモダンなセセッション、和風建築まで幅広い作風を得意とした建築家で、鳩山邸はイギリス風のトラディショナルなデザインで纏められている。そして鳩山邸で特筆すべき点は、当時最新の建材だった鉄筋コンクリートで、この住宅が建てられた事である。耐火・耐震では優れたコンクリート住宅だったが、建築費用や家屋税(固定資産税)の問題から、建設する者はまだ殆どいなかった。

　ちなみに函館市議で函館の資産家であった泉泰三(1882～1934)は、大正10(1921)年の大火を教訓に建築家・関根要太郎(1889～1959)、山中節治(1895～1952)に、耐火素材である鉄筋コンクリート造の自邸設計を依頼。大正12(1923)年に函館元町の高台に、鉄筋コンクリート造2階建てのモダン住宅を竣工させている。

　この邸宅が竣工した当時、現役バリバリの政治家だった鳩山一郎。多くの来客を想定したのか、1階の応接間、居間、食堂、サンルームは連続して一つのスペースとして使える構成になっているのは興味深い。

　なお2階の大広間は平成の改修に際し、新たに設置されたものでもとは連続した洋間が設けられていたという。2階は鳩山家のプライベートスペースだったと想像される。また鳩山という苗字に因んで、洋館の至るところに鳩のオブジェが置かれているのも微笑ましい。

　そして旧鳩山一郎邸のもう一つの見所が、邸内に設置されているステンドグラスの数々である。日本ステンドグラス制作の第一人者として知られる小川三知(1867～1928)の工房で制作されたものだ。邸宅本体と同様に玄関に鳩がデザインされ、階段室にも五重の塔と鳩がデザインされている。サンルームや応接室のステンドグラスに鳩は登場しないが、この洋館のイメージに連続した模様が盛り込まれている。

　大正時代後期に竣工した旧鳩山邸だが、設計者の岡田信一郎の好みが出たのか、きめ細やかながらも骨太な印象をも受ける重厚な出来栄えになっている。大理石の玄関階段など、今の時代の感覚からしてみても相当派手な印象を受けるが、中に入ってみると妙に落ち着くのも、設計者と施主の狙いだったのであろう。

　複雑に入り組んだ武蔵野台地端の舌状台地の上に建つ鳩山御殿、そのすべてが見事な作品であった。来年こそバラの季節に訪れたいと思った筆者であった。

◆旧鳩山一郎邸(現鳩山会館)　◎設計：岡田信一郎　◎施工：不詳　◎竣工：大正13(1924)年　◎構造：鉄筋コンクリート造2階建て、地下1階　◎所在地：東京都文京区音羽1-7-1

1階食堂とサンルーム。黄色がかったステンドグラスが印象的。右側には鳩山由紀夫氏のブロンズ像も。

こちらが鳩山会館の見所の一つ、小川三知の工房で製作されたステンドグラス。鳩と五重の塔の組み合わせがユニークである。

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★参考文献・参考資料

「歴史遺産　日本の洋館　第四巻　大正篇Ⅱ」藤森照信氏著、講談社、2003年

「日本のステンドグラス　小川三知の世界」田辺千代氏著、白揚社、2008年

「鳩山会館リーフレット」

★撮影・・・・2023年6月