東京渋谷区のエビス加藤ビル(建築家・遠藤楽設計作品探訪)

◆エビス加藤ビル

　・・・・昭和60年築、恵比寿の繁華街に建つライト式モダンビル

　先月の初旬、久しぶりにおこなった東京と埼玉のプチ建築探訪。最初の訪問先である埼玉県草加市の中田医院(設計：遠藤楽、昭和63年築)の訪問後、中田医院の最寄りである東武鉄道の草加駅へ戻った。草加駅へ向かう東武伊勢崎線の車内から見えた、日光街道・草加松原の松並木や、日光街道に建つ出桁造りの木造商家も気になったが、時間の制限もあることもあり取り合えず再び電車へ乗ることにした。

　ここからは東京メトロ日比谷線直通の各駅停車に乗車。草加駅の一つ前の駅にあたる松原団地駅は、今から数年ほど前に草加にキャンパスを置く獨協大学前駅へと名称を変え、昭和30年代後半に竣工し東洋一の団地と謳われた松原団地群は、高層のマンション群に建て替えられている。

　地下鉄日比谷線も開通から60年が経ち、東武との相互乗り入れ開始からこちらも間もなく60周年を迎えようとしている。以前は硬質で窮屈なイメージが強かった電車も、近年になり快適なものへと代替わりしている。

　そして1時間弱の地下鉄電車の旅を終え下車したのは、東京都渋谷区の恵比寿。ゴールドラベルでお馴染みの、ヱビススビールの発祥の地としてお馴染みのこの町であるが、同ビール工場跡に建てられたガーデンプレイス以外に、恵比寿の施設には訪れたことがない馴染みが全くない筆者である。下調べしたように地下鉄の出口から幹線道路の信号を渡り、渋谷駅方面へと歩を進めた。

　駅から歩いて間もなく見えてきたのが、ベージュのタイルに白のベランダの対比が、非常に印象的な冒頭の写真でご覧いただいたビルである。このビルが本日2つ目の目的地であるエビス加藤ビル。昭和58(1983)年から建設プロジェクトが開始され、その2年後の昭和60(1985)年4月に竣工したものである。

　設計は東京出身の建築家・遠藤楽(1927～2003)が手掛け、施工は遠藤作品の幾つか作品の施工を手掛けた白石建設が担当。鉄骨鉄筋コンクリート造7階建てのビルである。

　設計者の遠藤楽は、アメリカ出身の世界的建築家：フランク・ロイド・ライト(Frank Lloyd Wright、1867～1959)の日本における一番弟子であった建築家：遠藤新(1889～1951)の次男として生まれ、遠藤楽自身もライト最晩年の弟子となり、ライトのアトリエであるタリアセンで学んだ。その後はライトや父・遠藤新のスピリットを受け継ぎ、師・ライトの作風を現代的にアレンジした作品を数多く制作している。

　この日訪問したエビス加藤ビルであるが、一見すると町によくありがちな少し年季の入った雑居ビルにも見える。しかしベージュの外壁タイルと白のベランダの連続的な対比はとても軽快な印象を受け、このビルが只者ならぬ建築家が設計した事が伺える。またベージュと白ベランダの構成は、遠藤楽がこの10数年前に設計を手掛けた東京豊島区の婦人之友社社屋(昭和38年築)を彷彿とさせる。

　また建物の西面に回ると白のベランダが2つに分かれており、段違いになっている心憎いデザインが施されているのも見逃せない点である。

　冒頭の写真だけ見ると一体このビルが、フランク・ロイド・ライトの最晩年の弟子であった遠藤楽の作品かと疑問を抱いた方もいらっしゃるかも知れない。しかし建物西面(写真右側)伸びる出入口部分に回ると、玄関部分には師・ライトや父・遠藤新が好んで用いた大谷石がほんの少しだけだが効果的に用いられており、この建物がライトのスピリットを受け継いだ遠藤楽の作品である事を、如実に物語っていた。

　また大谷石が用いられている玄関部分には、定礎の銘板も取り付けらており、そこを見るとこのビルの建て主である加藤正和氏の名や施工者の白石建設の他に、設計者である遠藤楽(遠藤楽建築創作所)の名も銘板に刻まれていた。

　筆者は遠藤楽の作品集の巻末に収録されていた作品リストで加藤ビルの名を知り、Googleで検索してみると遠藤楽の作風に似たビルが恵比寿に建っている事を発見。それで現物を見に行った訳だが、この銘板により遠藤楽作品という確証を得たのである。

　恵比寿の繫華街にあった遠藤楽設計による、ライト風の雑居ビル。遠藤楽の作品というと、郊外のゆとりのある敷地に建っているというイメージがあったので少し意外な印象を受けた筆者である。しかし恵比寿の町に建築家・遠藤楽の設計作品はとてもよく際立ち、美しいオーラを放っていた。次の遠藤楽作品探訪はどこに行こうか、次のブランを練り始めた筆者である。

◆エビス加藤ビル

　◎設計：遠藤楽(遠藤楽建築創作所)

　◎施工：白石建設

　◎竣工：昭和60(1985)年4月

　◎構造：鉄骨鉄筋コンクリート造7階建て

　◎所在地：東京都渋谷区恵比寿西1-7-15

建物西側に回るとあるビルの玄関部分。ほんの一部だが大谷石が用いれており、この建物がライトの弟子である遠藤楽設計であることを物語っている。その上の白に塗られたベランダが、左のベランダと段違いになっているのも、とても見逃せない洒落たデザインである。
玄関部分には定礎の銘板が取り付けられ、設計者として遠藤楽の名も刻まれていた。

***********************************************************★参考文献・参考資料「楽しく建てる　建築家　遠藤楽作品集」遠藤楽作品編集委員会、平成19年、丸善「白石建設株式会社ホームページ」★撮影・・・・2023年3月