東京北区の日本基督教団滝野川教会(建築家・遠藤楽設計作品探訪)

◆日本基督教団滝野川教会

　・・・・平成3年築、ライトの愛弟子・遠藤楽設計による美しい教会建築

　先日は東京都北区滝野川の旧古河虎之助邸(旧古河庭園、設計：ジョサイア・コンドル、大正6年築)を紹介したが、その前に訪れたのが旧古河庭園から徒歩数百メートルの場所に建つ、日本基督教団滝野川教会である。この滝野川教会は20世紀を代表する世界的建築家：フランク・ロイド・ライト(Frank Lloyd Wright、1867～1959)の最晩年の弟子の一人である、建築家：遠藤楽(1927～2003)の設計作品で、平成3(1991)年に竣工したものである。

　但し初回の訪問は午後3時過ぎの訪問で、教会の聖堂は夕方の弱々しい日差ししか射さず、撮影には向かない生憎の状態に。そのような事でその翌週の朝方、改めて滝野川教会へ再訪したのである。

　この日はJR山手線の駒込駅を下車し、聖学院と女子聖学院高校・中学校脇の道幅の狭い坂(聖学院通り)を上る。その昔は富士山や丹沢、道志、奥多摩などの山々がよく見えたのではないかと想像できる、西方面がよく見渡せる眺めの良い美しい坂であった。

　聖学院脇の坂を上り切った場所には、滝野川教会発祥の碑が置かれていた。滝野川教会は聖学院の前身にあたる聖学院神学校が、明治37(1904)年に教会を設置したのが同教会のルーツで、アメリカ・メゾシスト系のディサイプルス・オブ・クライストと呼ばれる宣教師のグループが設立したのだという。また詳しい年代は分からないが、初代聖堂から程近い上中里(滝野川)の現在地に、その後教会を移転させている。

　遠藤楽はこれまで紹介してきたように、フランク・ロイド・ライトの日本における一番弟子とも呼べる存在だった、建築家・遠藤新(1889～1951)の次男として生まれ、昭和8(1933)年に自由学園の初等部に入学し、昭和21(1946)年に同学園の男子部高等科を卒業する。

　卒業後は東京の和泉工務所での勤務を経て、昭和20年代の半ばより遠藤楽の建築事務所(遠藤新建築創作所)に入所し、父のもとで建築設計の実務を教わる。

　そして昭和26(1951)年6月には、長年心臓の病を患っていた父・新が62歳で逝去。父の事務所を継承するとともに、昭和32(1957)年3月から10ヶ月に渡り、ライトのアトリエであるアメリカのタリアセンで学んでいる。その後はライトや父・遠藤新の作風をもとに、学校施設や住宅、病院、商業ビルなど、その時代の建築事情に共調させた、独自の建築作品を長年に渡り数多く制作させていく。

　年号が昭和から平成に変わった平成元(1889)年、遠藤楽が依頼を受けたのが、滝野川教会の新聖堂設計の仕事だったという。ちなみに遠藤楽はこのとき62歳、父・遠藤新が亡くなった年と同じ年齢に達していた。

　ちなみに遠藤新の遺作は、東京新宿区に現存する日本バプテストキリスト教目白ヶ丘教会(昭和25年築)で、奇しくも父子同じ年齢にして教会建築を手掛ける事になったのである。なお遠藤楽にとっては数少ない宗教施設の設計となった。

　父・遠藤新の遺作である目白ヶ丘教会の竣工(昭和25年：1950年)から、およそ40年後にあたる年(平成元年：1991年)に竣工した滝野川教会。時代は戦後間もなくの混乱期からバブル景気全盛へと変わっているが、父子の作品ともに師・ライトの教えを受け継いだような芯の通った作品となった。滝野川教会、三角形のいびつな形の立地だが、塔屋を持つ玄関部分を三角形の先端に置くという巧みな設計がされている。

　この当時筆者はまだ学生だったが、何か全てのものが浮かれていたような感じだったバブル経済の全盛期。しかし遠藤楽が設計を手掛けた滝野川教会は、ずっしりと地に足が付いたような安心した作りになっている。時代に翻弄されない、ベテラン建築家ならではの出来栄えである。

　また建物の細部には、遠藤楽作品の定番となった大谷石の装飾、ライト風の幾何学模様の窓が用いられ、更にはライト建築を彷彿とさせるベージュのタイルも用いられているのも見逃せない点である。

　また教会の背後には、聖堂竣工から13年後(平成16年：2004年)に建てられた、遠藤楽設計による滝野川教会100周年記念館が建っており、そちらも聖堂と共に見学していただきたい作品である。但し遠藤楽は起工まもない平成15(2003)年7月に76年に渡る生涯を閉じたため、事務所の若手スタッフだった藤川曜子(自由学園女子部卒)氏に引き継がれ建物は竣工している。こちらもライト風のデザインが施された美しい作品だ。

　長年に渡り、いつかは訪れようと思っていた遠藤楽の設計作品。遠藤楽晩年の傑作と言っても過言ではない美しい教会であった。少し入り口が分りずらいが、女子聖学院正門の近くに平成版のライト式建築は建っている。皆さんも実際に見学していただきたい、遠藤楽の設計作品である。

◆日本基督教団滝野川教会

　◎設計：遠藤楽

　◎施工：白石建設

　◎竣工：平成3(1991)年

　◎構造：鉄骨鉄筋コンクリート造3階建て

　◎所在地：東京都北区上中里1-1-12

◆日本基督教団滝野川教会100周年記念館

　◎設計：遠藤楽、藤川曜子

　◎施工：不詳

　◎竣工：平成16(2004)年

　◎構造：鉄筋コンクリート造3階建て

　◎所在地：東京都北区上中里1-1-12

本文でも紹介したように滝野川教会の設立100周年を記念して建てられた会館。

平成16(2004)年に竣工したが、設計者の遠藤楽は建設が開始されて間もなくの平成15(2003)年の7月24日に76年に渡る生涯を閉じたため、この作品が遠藤楽の遺作となった。滝野川教会のホームページによると、遠藤楽の協力者であった藤川曜子(1970～)氏の援助を受けながら、記念会館は完成に至ったそうである。

藤川曜子氏は遠藤楽の晩年のお弟子さんにあたる建築家で、自由学園女子部の出身。東京理科大学に進学後に遠藤楽創作所にアルバイトとして参加し、同大学を卒業後に遠藤楽創作所の正式スタッフとなった。現在は自由学園南沢キャンパスにほど近い、東京都東久留米市学園町に自宅兼アトリエを構えているそうである。ちなみに藤川さんのご自宅、師・遠藤楽作品を彷彿とさせるライト風の素敵な邸宅で、学園町の美しい景観を彩っている。

門や門柱は遠藤楽の十八番である、ライト調のデザイン。

本文でも紹介したように、聖学院高校・中学の脇に設けられているのが、滝野川教会発祥の地碑。

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★参考文献・参考資料

「楽しく建てる　遠藤楽作品集」遠藤楽作品編集委員会、平成19年、丸善

「自由学園ホームページ」

「日本基督教団滝野川教会ホームページ」

「エキサイトブログ：近代建築ゼミ」平山達氏製作

★撮影・・・・2022年11月