東京東久留米市の自由学園幼児生活団(建築家・遠藤楽設計作品探訪)

◆自由学園幼児生活団

　・・・・昭和42年築、シャープなデザインの園舎が印象的な正統派ライト建築

　

　20世紀を代表する世界的な建築家である、フランク・ロイド・ライト(Frank Lloyd Wright、1867～1959)の、日本における一番弟子である建築家：遠藤新(1889～1951)と、遠藤新の次男でライトの最晩年の弟子であった建築家：遠藤楽(1927～2002)。

　以前にも紹介したようにライトは東京日比谷の帝国ホテル(大正12年築)の建設中に、遠藤新の紹介により雑誌〔婦人之友〕の創刊者で思想家の羽仁もと子(1873～1957)、羽仁吉一(1880～1955)夫妻が、大正10(1921)年に設立した自由学園校舎の設計を引き受ける。そして大正11(1922)年に現在の東京西池袋に、後に明日館と呼ばれる美しい校舎を竣工させた。

　ライトは帝国ホテルの工期の遅れや予算オーバーを理由に、帝国ホテルの設計主任を解雇され大正11(1922)年に帰国。その後は遠藤新が設計主任となり明日館の施設の一部、その数年後には明日館のはす向かいに講堂(昭和2年築)を竣工させている。遠藤新の設計により建てられた講堂は、ライトの教えと日本の風土を見事に協調させたもので、遠藤新の初期の代表作の一つとなった。

　年号が昭和となって間もなく、自由学園は東京府北多摩郡久留米村(現東京都東久留米市)の南沢へと移転。それに際し遠藤新は同学園の校舎や体育館、食堂などの諸施設の設計を担当している。遠藤新は昭和26(1951)年に62歳で亡くなるが、遠藤新の次男である遠藤楽がそれを引き継ぎ、それ以降もキャンパスの充実が図られていく。

　先月紹介させていただいた自由学園東天寮(現自由学園しののめ茶寮、昭和48年築)も、そのような流れで建設された施設の一つである。筆者もいまだに実物を見たことはないが、写真を見ると息をのむほど美しい校舎群である。

　ちなみに自由学園のキャンパスの諸施設は、一般には公開はおこなわれおらず、筆者にとってはその大半は幻の施設である(西武池袋線のひばりが丘～東久留米間の車窓からほんの少しだけ数棟の施設が見える)。また今年の秋にはコロナウィルス蔓延以降初となる、自由学園主催による一般向けの見学会が行われるとのこと。但し募集人員はごく少数なので、応募しても恐らく当選する可能性は低そうな感じである。

　その中で公道からしっかりとその姿を確認できる、数少ない自由学園の施設の一つが、今回紹介させていただく幼児生活団である。幼児生活団とは自由学園独特な言い回しだが、要は幼稚園という事で昭和14(1939)年に学園の付属の幼稚園として開設している。

　そして冒頭の写真でご覧いただいた園舎は、昭和42(1967)年に竣工したもの。設計は自由学園のその他の施設と同様、同学園の専属建築家とも呼べる存在だった遠藤楽が担当している。

　ちなみに幼児生活団、開園以来長年に渡り週一回の登園のみという、独特な教育方針をとっていたとのこと。しかし平成19(2007)年からは毎日通園する認可制幼稚園になったのに伴い、施設の大規模増改築工事を実施。しかし遠藤楽の設計した園舎は現状のままほぼ残され、現在に至っている。現役の幼稚園舎という事で、道路から見える範囲の施設を見学・撮影したのが今回の写真だ。

　学園通りからはあまり目立たないが、園舎北側に設けられたシャープな庇を持った2階建ての事務所棟部分は印象的。この他に平屋の園舎部分は、亀甲型ともいえる独特な形をしている。恐らく採光を考えてこのような形になったのだろう。

　ライトの弟子である遠藤楽の作品という事で、師のライト作品に類似作を探してしまうが、アメリカ・ウィスコンシン州に建てられたユニテリアン教会(1947年築)に似ている。師のライト作品をオマージュしながら数々の作品を制作したのが、遠藤楽作品の特徴ではないかと考える。

自由学園幼児生活団が竣工した当時遠藤楽は、フランク・ロイド・ライトのアトリエであるタリアセンで学んでから9年後。年齢も40歳を過ぎ建築家として成熟の時期に製作したのが、この幼稚園舎だった訳である。小さいながらもライトと遠藤楽の精神が伝わってくるような、素敵な作品ではないかと思う。控えめにその作品の美しさを堪能していただきたい、建築家・遠藤楽若き日の傑作の一つだ・・・。

◆自由学園幼児生活団

　◎設計：遠藤楽

　◎施工：大明建設

　◎竣工：昭和42(1967)年

　◎構造：木造平屋、一部2階建て

　◎所在地：東京都東久留米市学園町1-11-17

園舎の塀や建物の一部には、大谷石が使われている。大谷石を積極的に使っているのも、遠藤楽作品の特徴。
こちらは幼稚生活団の北側を撮影したもの。写真右側の施設は平成19(2007)年に増築された幼稚生活団園舎。遠藤楽の没後に建設されたものだが、統一感のあるデザインに纏められている。この写真のいちばん奥に見えるのは、新清風寮(昭和63年築、平成13年増築)。こちらも遠藤楽の設計作品となる。
拙ブログで紹介した自由学園や婦人之友社などの施設に関する記事はこちらを参照していただきたい。

幼稚生活団の園舎を過ぎると、自由学園の南沢キャンパスへ。緑豊かな自由学園のキャンパスだ。

自由学園南沢キャンパスの正門。こちらは遠藤楽の父である遠藤新が設計したものと考えられる。大谷石の重厚な門柱が印象的だ。

◆東久留米市学園町に建つ遠藤楽設計作品：О邸(昭和51年築)

　自由学園は現在の東久留米南沢キャンパスの開設に際し、周辺10万坪の土地を購入。約3万坪を校地に充てるとともに、残りの土地を宅地として分譲した。現在の東久留米市学園町1丁目、西東京市ひばりが丘1丁目の一部などがそれにあたる。

　その宅地開発された住宅街には、父・遠藤新の設計による住宅建築のほか、遠藤楽が設計した邸宅が幾つか残る。その1軒がО邸、幾つかの住宅関連の雑誌に取り上げられるなどした、とてもモダンな装いの住宅である。

　竣工当時から家主が変わってしまった邸宅も多いが、このО邸のようなライト風の幾何学模様の門や、大谷石を用いたり築地塀ふうの門柱や塀を手掛かりに探して頂けると、このエリアで何軒かの遠藤楽設計と思わしき邸宅と出会えるのではないかと思う(なお遠藤楽晩年のお弟子さんである藤川曜子さんの作品も、これに似たデザインの作品を何軒か建てている模様)。相続などで解体されてしまった物件もあるが、将来の歴史的建造物として後世に残して頂きたい素敵な住宅建築の数々である。

◆西武池袋線の車内から見た自由学園の校舎群
西武池袋線のひばりが丘駅～東久留米駅間の車窓からはほんの一瞬であるが、自由学園のキャンパス群が見ることが出来る。これらの写真は西武線の特急電車・ラビューに乗った時に撮影したもの。撮影はいつも失敗しているが、新清風寮、男子部体育館、羽仁吉一先生記念ホール、創立60周年記念体育館などが肉眼で確認できた。

西武鉄道・ひばりヶ丘駅にて。

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★参考文献・参考資料

「楽しく建てる　建築家・遠藤楽作品集」遠藤楽作品編集委員会、丸善株式会社、平成19年

「自由学園ホームページ」

★撮影・・・・2021年12月、2022年5月・6月、8月・9月