函館市元町のカトリック元町教会(函館の建築再見2022)

◆元町カトリック教会

　・・・・明治43年築、風見鶏の鐘楼が美しい函館を代表する教会建築

　函館の元町は、安政6(1859)年の開港まもなくより、諸外国の領事館や教会が置かれたことから、現在もロシア正教、英国国教会、フランス経由のカトリック、アメリカ経由のメゾシストなどキリスト教各宗派の教会が建てられている。特に坂上のハリストス正教会(大正5年築)、カトリック元町教会(明治43年築、大正13年～14年増築)、聖ヨハネ教会(昭和54年築)が立ち並ぶ姿は、横浜、神戸、長崎などの他の開港都市には見られない独自の風景である。

　その中の一軒であるカトリック元町教会は、開港間もなくの安政年間にフランスのカトリック神父：メルメ・デ・カッションが箱館に訪れ小聖堂が建てたのがその始まりだという。その後、来函した神父たちがフランス語学校や施薬院を開設したり、司祭館を建設させ、カトリック布教の基盤を作っている。

　そして明治10(1877)年には、幕末に建てられた司祭館に隣接する場所に聖堂を建設。これが函館元町カトリック教会としては、初代の本格的な大聖堂となった訳である。

　明治12(1879)年に起きた大火で司祭館は焼けてしまうが、この2年前に建てられた聖堂は火災の被害を免れて、この後も祈りの場として使われ続ける。しかし明治40(1907)年8月の大火で聖堂は全焼。その後は仮設の聖堂を建設し、明治43(1910)年には煉瓦造ゴシックスタイルの新聖堂を竣工させる。また当時函館の司教を務めていたベルリオーズ司教は、他方に寄付金の尽力をおこない、新聖堂のほかその隣地に私立聖保禄女学校(聖パウロ、函館白百合学園の前身)の新校舎も竣工させている。

　しかし町の両岸を海に挟まれ、津軽海峡から吹く強風により、数年に一回の割合で大火の被害に襲われる函館の町。大正10(1921)年4月に発生した大火では、煉瓦の外壁とステンドグラスを残して全焼してしまった。

　大正10(1921)年12月に日本建築学会の機関紙〔建築雑誌〕に発表された、「函館大火調査報告、作成：西村好時+関根要太郎」の中では、その様子が写真入りで紹介されており、防火対策は十分されていたのに関わらず、何故焼けてしまっのかという所見が述べられている。

　そして間もなくカトリック元町教会は聖堂の再建に着手。大正11(1922)年6月には、ベルリオーズ司教は72歳という高齢にも関わらず、アメリカへ約1年に渡る募金行脚をおこなう。その募金をもとにカトリック元町教会の再建工事は進められることになった。再建工事は焼け残った外壁を活かしながら、鉄筋コンクリート造による各施設の増築を開始したのである。

　カトリック元町教会の再建工事の施工は、千葉県木更津出身の請負師・木田保造(1885～1940)率いる木田組が担当することになった。また実施設計も木田組によりおこなわれた可能性が推測される。

　以前にも紹介したように木田保造は、日本初の総鉄筋コンクリート製寺院となる東本願寺函館別院建設のため、大正元(1912)年に来函。大正4(1915)年の本堂竣工後も函館でも幾つかの建築施工を手掛けていたが、大正10年の大火で東本願寺が被害なく済んだことから、函館の政財界人の間で評判となり、数多くの建築施工を手掛けることになった。

　なお木田の没後間もない昭和16(1941)年に刊行された、〔木田保造〕に所収された木田組の工事業歴一覧によると、大正11(1922)年には函館天主公教会のほか、末広町(船場)の北海道拓殖銀行支店、末広町の渡辺合名会社本館、大手町の函館商工会議所、千代台町の大谷女学校、末広町の丸井今井百貨店の工事履歴が記載されている。当時木田組はかなり繁盛していた訳だ。ちなみに木田組より再建されることになった元町教会の眼下には、木田の施工作品である東本願寺函館別院が建ち、木田の施工作品が連続して建つことになったのである。

　カトリック元町教会の聖堂の修繕工事と鐘楼の新築工事は、大正12(1923)年の12月に竣工。翌年の6月に落成式が執り行われたという。更に大正14(1925)年には、木田組の施工により司祭館が竣工。これにより現在の教会の形が出来上がった訳だ。

　またこのとき当時のローマ法王：ベネディクト15世(1854～1922)により、イタリア・チロル地方のウルリコ・ガルディナ製の中央祭壇、副祭壇、現在は聖堂内の窓際に設置されている十字架の道行きと呼ばれる壁画が寄贈されている。

　函館元町の教会群の絵画や調度品というと、ハリストス正教会の山下りん(1857～1939)をはじめとしたイコン画に注目が集まるが、カトリック元町教会の祭壇をはじめとした調度品も、忘れてはならない函館を代表する美術品である。祭壇も勿論だが歴史を重ねた聖堂内は雰囲気は、他のカトリック教会にはない独特の空気を醸し出している。そして聖堂の裏手に設けられたルルドの洞窟も、静粛を守りながら是非訪れていただきたい美しい場所である。

　筆者は近年函館へ訪れると、トラピスト・トラピスチヌの各修道院詣でに時間を費やしてしまい、このところ元町のカトリック教会へはほとんど注目していなかったのが正直なところ。次回の函館訪問では外観・内装とも、ゆっくりと時間をかけて見学したいと思った次第である。

　なお同教会の歴史、内部の調度品については、同教会の信者Оさんが制作された、下にリンクしたこちらのサイトを参照してていただきたい。これを見てますますカトリック元町教会へ行きたくなった筆者であった。

◆カトリック元町教会

　◎設計：不詳(外国人技師、外国人牧師の可能性あり)

　◎施工：木田保造(木田組)・・・・大正10年大火後の施工を担当

　◎竣工：明治43(1910)年・・・・聖堂

　　　　：大正12(1923)年・・・・鐘楼

　　　　：大正14(1925)年・・・・司祭館

　◎構造：鉄筋コンクリート造・・・・鐘楼、司祭館

　　　　：煉瓦造平屋・外壁モルタル補強・・・・聖堂

　◎所在地：函館元町15-30

　　❖函館市指定伝統的建造物

カトリック元町教会から大三坂を少し下った場所には、関根要太郎+山中節治兄弟の設計作品：旧亀井喜一郎邸(大正10年築)が建つ。こちらも大正10年の大火後に建てられたものだ。

函館山ロープウェイのゴンドラ内より。

聖堂裏手に設けられたルルドの洞窟。1858年にフランス・ルルドで起きた聖母マリアの出現をモチーフとしたもので、カトリックの教会や施設にはよく見られるもの。函館近郊・北斗市のトラピスト修道院や、函館上湯川のトラピスチヌ修道院にもルルドのマリア像が設置されている。ちなみにカトリック元町教会のルルドは、明治40(1907)年の大火後に作られたものである。

尖塔形の窓にはめられたバラ型模様の窓。こちらの窓のデザインは明治43(1910)年の竣工依以来、引き継がれているものだ。

カトリック元町教会の門前から。向かいには木田保造のもう一つの施工作品・東本願寺函館別院(大正4年築)が建つ。

函館市電の十字街電停から。手前に写るドームが付いた鉄筋コンクリート造3階建ての建物は、旧丸井今井百貨店函館店(現函館市地域交流まちづくりセンター、大正12年築)、その左手に写る黒瓦の建物が元町の東本願寺函館別院(設計：九世・伊藤平左衛門、大正4年築)、そして建物右手に今回紹介している元町カトリック教会の鐘楼(大正13年築)の先端が確認できる。実はこの3軒の建物、すべて木田保造率いる木田組の施工作品なのである。

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★参考文献・参考資料

「カトリック元町教会ホームページ」

「カトリック元町教会応援サイト」小原雅夫氏制作

「はこだて歴史散歩」北海道新聞社編、北海道新聞社、昭和57年

「木田保造」木田組編さん、昭和16年

★撮影・・・・2009年6月・10月、2010年4月、2016年3月・10月、2018年9月、2020年10月