函館市若松町のボーニ・アネックス(函館の建築再見2022)

◆ボーニ・アネックス(棒二森屋新館)

　・・・・昭和57年竣工、40年の営業を終えた函館駅前の商業施設

　　　令和4(2022)年1月31日、函館駅前で40年に渡り営業を続けていた商業施設が惜しまれつつ閉館となった。そのビルとは函館駅前ビルである｡　それよりもボーニ・アネックス(BОNI ANNEX)という名称の方が、馴染み深いかも知れない。アネックスというビルの名前が示すように、この隣にあった棒二森屋デパート(平成31年：2019年3月閉館)の別館として、昭和57(1982)年にオープンしたものである。本日はこのビルについて考察をおこなっていきたい。
　昭和9(1934)年3月の函館大火発生から2年後にあたる昭和11(1936)年6月に、函館市地蔵町で百貨店を営んでいた棒二荻野(代表：荻野清六)と、同市末広町で大正末から昭和初めにかけて巨大なデパートメントストア建設させていた森屋百貨店(代表：三代渡辺熊四郎)は、対等合併する。そして棒二森屋が誕生し、棒二荻野を経営していた荻野清六が初代社長に就任した。また両社の合併と前後して、荻野の主導により函館駅前の大門地区に新店舗の建設プロジェクトが進行していた。
　そして昭和12(1937)年12月に鉄骨鉄筋コンクリート造5階建て、アール・デコスタイルの新店舗が竣工。地蔵町と末広町の旧店舗からこちらに店舗を移転する形で同地での営業が始まったのである。　この新店舗建設にあたって荻野清六は、函館出身で早稲田大学卒業の若手建築家・明石信道(1901～1986)を設計者に抜擢。明石は昭和はじめに東京新宿の武蔵野館(昭和3年築)という映画館の設計で注目を集めたが、その後は世界大恐慌の影響もあってか大口の仕事は舞いこまず、久々に手に入れた大口の仕事が、棒二森屋の設計だったのである。
　当初、1326坪というどちらかというと小さめの売り場面積だった棒二森屋。しかし戦後になると幾度となく店舗の増築工事が実施されることになる。その増築工事は昭和29(1954)年から昭和49(1974)年にかけて6回に分けて実施され、建物の規模も地上5階建てから9階建て、売り場面積は当初の約8倍にあたる8398坪までに増床を遂げている。そしてこれらの設計全てを、明石信道が手掛けることになったのである。棒二森屋の第一期工事竣工時36歳の若さだった明石も、第六期増築工事の竣工時には73歳という高齢になっていた。
　その後も棒二森屋は店舗増築を計画し、昭和50年代半ばには既存の店舗北側に新店舗の建設に着手する。それが先日閉館になった旧ボーニ・アネックスだったのである。なお正式なビル名称は〔函館駅前地区第一種市街地再開発事業函館駅前ビル〕といい、設計は棒二の本館と同様に明石信道、施工は竹中工務店が担当した。　またボーニ・アネックス、デパートの店舗以外に第一勧業銀行(現みずほ銀行)、山一證券の店舗も入居する複合ビルとなったのてある。
　昭和50年代半ばに建設されたボーニ・アネックス。このような大中規模の商業施設が、どの町にもごく当たり前に建てられた時代の建築作品ということもあってか、建物内はごく標準的なデパート建築といった感じの出来栄えである。棒二本館のような美しい螺旋階段もないし、薄紫の階段室のタイルや鈴蘭の装飾も見られない。建物内にいるだけでは、筆者が暮らした町に昭和50年代初頭に建てられた、西友やイトーヨーカドーとさほど変わらない感覚に襲われる。
　しかしこの時代を代表する建築家の一人であった明石信道だけあって、そのような無個性な演出だけで終わらせる訳ではない。ボーニ・アネックスのとっておきの演出といえば、建物正面に設置されたスケルトン式のエレベーターであろう。　建物の大部分は茶褐色のタイルが貼られているが、エレベーターの周りだけ白く塗装が施され、このエレベーターの上にはボーニの屋号と店名が記されている。これはインパクトのある、とても格好いい演出ではないかと思う。当時80歳を過ぎた明石であったが、らしさが出たデザインである。
　実をいうと棒二森屋の本館、函館駅に背を向けるように建っており、函館駅から見ると少し迫力がないものになっていた。そのような会社側の思惑もあったのだろうか、ボーニ・アネックスの中央エレベーターはとても印象に残るものとなった訳である。　明石信道の設計作品という基礎知識はあったにせよ、過去十数年間に渡ってこれだけの写真を撮っているので、筆者もこの作品に魅了されていたのだろう。また店内には無印良品や書店などが入居し、旅行者としてはとても重宝させていただいた建物でもあった。
　なおボーニ・アネックスと棒二の本館は近々解体され、本館の跡地には商業施設とマンション、アネックスの跡地にはシティーホテルの建設が予定されているという。具体的なデザインはまだ決まっていないようだが、函館が生んだ名建築家・明石信道が45年に渡り作り続けてきた、函館を代表する商業建築を凌ぐものを作れるかというと、これは相当ハードルが高い話である。旧建物のイメージ継承が妥当なのだろうが、とても個性のある名建築の思い出を台無しにする演出は、やめていただきたいものである。
　ちなみにボーニ・アネックス竣工から4年後の昭和61(1986)年、明石信道は85歳でこの世を去った。ボーニ・アネックスは明石の遺作ともいえる作品なのである。　解体まで期日は迫っているようだが、そのようなストーリーを巡らせていただきながら、この建物を見ていただくと、明石信道作品の違った輝きを発見していただけるかも知れない。函館の名建築の一つとして、後世に残して欲しい名作であった。

◆ボーニ・アネックス(棒二森屋新館、函館駅前ビル)

　◎設計：明石信道

　◎施工：竹中工務店

　◎竣工：昭和57(1982)年9月

　◎閉館：令和4(2022)年1月31日

　◎構造：鉄骨鉄筋コンクリート造8階建て、地下1階

　◎旧所在地：函館市若松町16-10

令和2(2020)年10月撮影。この前年に棒二森屋は閉店し、〔函館駅前ビル〕と改称。エレベーター上に取り付けられていた棒二の看板も白く塗られ、ちょっと違和感のある姿になっていた。

棒二の本館についてはこちらの記事を参照していただきたい。

棒二森屋の本館とはこのような連絡通路で繋がっていた。

帰りの函館空港行きリムジンバスの車内から撮影。函館駅や駅前のロータリーからボーニアネックスよく目立つ建造物だった。

なお館内の様子は全く撮影していなかった筆者。その様子は函館の弁天町で出版会社を営む、〔新函館ライブラリ〕さんのこちらの動画を参照していただきたい。

竣工当時のボーニ・アネックス。

❖図版・・・・「明石信道作品集」平成元年より

和光デパートがまだ健在だった平成21(2009)年の夏に撮影。
函館駅構内より。

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★参考文献・参考資料

「函館市史　通説編　第三巻」函館市史編さん室、函館市、平成9年

「明石信道作品集」新建築社、平成元年ほか

★撮影・・・・・2009年3月・6月・10月、2011年4月・6月、2012年7月、2014年7月、2016年10月、2018年9月、2020年10月