東京豊島区の自由学園講堂(昭和モダン建築再訪2021)

◆自由学園講堂

　・・・・昭和2年竣工、明日館の向かいに建つライトの弟子にあたる遠藤新の作品

　前回は東京都豊島区の西池袋に建つ、大正モダン建築の最高傑作・自由学園明日館(設計：フランク・ロイド・ライト+遠藤新、大正11年築)を紹介させていただいた。実は自由学園の明日館、本館以外にも見学コースが続いている。

　それが明日館の筋向いに建つ、自由学園の講堂である。講堂は、ライトの日本の一番弟子ともいえる建築家・遠藤新(1889～1951)の設計により、明日館の5年後にあたる昭和2(1927)年に竣工したものてある。

　自由学園の明日館をはじめとした諸施設は、平成9(2007)年に明日館が国の重要文化財に指定され、約3年に渡る大規模な改修工事を経て、平成13(2001)年から一般公開が始まった。明日館をはじめとした自由学園の公開は、動態保存という形式をとっており、公開と同時に施設が利用されている事も多い。そして今回紹介する講堂も、筆者がここを訪れる時はほぼ貸し出されており、10月の下旬に今年2回目の訪問をした時に久々に堂内を見学する事が出来たのである。

　自由学園の講堂は今から数年前に耐震・防火を目的とした大規模修繕工事が実施され、平成29(2017)年に再オープンを果たしている。以前の状態を限りなく忠実に再現される修繕がおこなわれたそうで、一見するとほぼ同じという印象を受けた。

　そして10月下旬の講堂見学時は、自由学園の校舎に関する一般参加型のセミナーがおこなわれており、途中参加ながら明日館に関する貴重なお話を伺う事が出来たのである。その後、開校まもなくに撮影されたという、自由学園の生徒たちの学校での日々の暮らしを撮影した記録映画も上映され、当時の自由学園を暮らしを色々と知ることが出来た。

　自由学園は創立当初、明日館のホールを講堂として兼用していたが、生徒数の増加に伴いホールではが手狭になったため、筋向いに建設の運びとなったものである。明日館はフランク・ロイド・ライトのコンセプトをもとに、遠藤新を始めとした日本人スタッフが実施設計に至ったが、講堂は遠藤新が構想から実施設計までを手掛けたようである。施工はライト作品の施工を数多く手掛けてきた、米良工務店が明日館に引き続き担当している。

　ジャーナリストで思想家、そして雑誌〔婦人之友〕の創業者である羽仁もと子(1873～1957)と、その夫でジャーナリストの羽仁吉一(1880～1955)により創設された自由学園。なぜフランク・ロイド・ライトや遠藤新が校舎の設計を手掛けるようになったかというと、遠藤が東京帝国大学在籍時より通っていた東京千代田区の富士見町教会の信者に羽仁夫妻がおり、そこで親交が始まったのだという。

　帝国ホテルの建設のため日本に滞在していたライトに、羽仁夫妻は遠藤を介してコンタクトを取り、夫妻の熱い思いに共感したライトは、帝国ホテルの設計管理の傍ら自由学園の設計を引き受けたそうである。

　フランク・ロイド・ライト設計による帝国ホテルは大正8(1919)年に建設工事がスタートしたが、建設費オーバーと工期の遅れを理由に、ライトは帝国ホテルホテルから大正11(1922)年に解雇通告を受け、直後に帰国。その後は遠藤新が筆頭スタッフとなり、ライトが手掛けていた国内に建設中だった設計作品を竣工させていく。その一つが自由学園の明日館だったが、その後も遠藤は長年に渡り自由学園の諸施設の設計を手掛けていくのであった。

　特に自由学園の講堂は、師・ライトが設計した明日館のイメージを継承した、純度の高いライト風の作品に仕上がっている。どの季節も日差しが気持ち良く当たる明日館に比べ、写真を撮ろうとすると常に逆光のポジションになってしまうのは、立地を考えると致し方ない事なのだろう。しかも外観デザインもかなり控えめなもので、師であるライトの作品に気を遣ったのではないかと勘繰りたくなる。細部を見るとなかなかの出来栄えなのだが、この存在感のなさは最初から脇役に徹した建物にしようとした、遠藤新の狙いが感じられる。

　そして肝心の講堂内だが、明日館のホールのイメージを継承した作りになっている。その中で遠藤新のオリジナルともいえる部分が、自身が考案した〔三枚おろし：内在骨格〕と呼ばれる3部から成るの縦割り構成だ。中央部分のホールを地面とほぼ同じレベルにし、両脇の部分を若干高めに設定するというもの。建物の高さを抑えると共に、耐震対策も兼ねているという。

　この後、遠藤はこの〔3枚おろし〕という建物の構成を好んで用いていくことになる。遠藤新というとライトのコピー建築家と解釈される事が多いが、徐々に自身のオリジナリティーを模索していくのであった。

　この後、遠藤新と羽仁吉一・もと子夫妻の交流は続き、東京東久留米市の自由学園南沢キャンパスの校舎設計や、南沢キャンパスの隣に自由学園が分譲した学園町の住宅設計(羽仁夫妻の住宅も勿論含まれる)など、長年に渡り手掛けていくことになる。

　明日館ばかりに注目が集まるが、ライトの高弟である遠藤新の設計作品。明日館に訪れた際には是非注目して頂きたい、とても贅沢な時間が過ごせる美しい建築作品である。次回はこの敷地内に建つ、もう一人のフランク・ロイド・ライトの弟子である建築作品を紹介する事にしい。

◆自由学園講堂

　◎設計：遠藤新

　◎施工：米良工務店

　◎竣工：昭和2(1927)年

　◎構造：木造モルタル塗り平屋、一部2階建て

　◎所在地：東京都豊島区西池袋2-20

　　❖国指定重要文化財

ステージ脇に飾られている羽仁もと子・吉一夫妻の肖像写真。ホール中央を低くし、左右を高くする遠藤新考案による〔三枚おろし：内在骨格〕というもの。その後、遠藤はこの建物構成を数多く自身の設計作品に採用していく。

今回の改修で建物の竣工当初に設置された水洗トイレが発見され、撤去されずに展示されることになった。

講堂2階から明日館を望む。

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★参考文献・資料

「続生き続ける建築　遠藤新』INAX REPORT №181、平成22年

「リーフレット：自由学園明日館　100周年記念季刊誌　まるわかり明日館」自由学園編、令和3年ほか

★撮影・・・・2009年5月・7月・9月、2021年10月・11月