昔の絵葉書で巡る大正・昭和初期の函館

◆昔の絵葉書で巡る大正・昭和初期の函館　・・・・筆者所蔵の絵葉書コレクションより当時の函館を見る

　今回は趣向を変えて、私が長年コレクションした大正期より昭和初期に発行された絵葉書をもとに、当時の函館を紹介してきたいと思います。この頃の函館と言えば北洋漁業を主とした海産業で賑わっていた時期で、そのような町の好景気もあってか、多くの絵葉書が発行されいたようです。
　ちなみにこの時代に発行された絵葉書、コロタイプ印刷という写真製版の方法で刷られており、とても精密かつ繊細に印刷されているのが特徴です。私のような近代建築や当時の町並みを研究している者にとっては、とても有難い第一級資料でもあります。　例えばPCでご覧いただいている方だと、この文章の上下に掲載した〔海産商の中心船場町〕〔函館鶴岡町通り〕と題された写真を左クリックして拡大画像して頂ければ、その精度の高さがお分かりいただけるのではないかと思います。
　また私が所蔵する昔の函館を写した古絵葉書コレクションですが、函館市立書簡のデジタルアーカイブと比較すると圧倒的に少ないのは予めご了承ください。またそのコレクション内容も、在京の建築家・関根要太郎(1889～1959)とその実弟でやはり建築家の山中節治(1895～1952)が函館で活躍した大正期から昭和初期に制作されたものを中心に蒐集したため、かなり偏ったものになっている事もここでお断りいたします。
　そして今回の古絵葉書で巡る函館の旅は、末広町の旧船場地区をスタートに鶴岡町(大手町)の電車通り、銀座通りに十字街、末広町、会所町、仲浜、船見町、駒場町と巡ります。それらの絵葉書は多く流通していたこともあり、以前ご覧になった事があるというものが殆どですが、中には現在は高橋病院の天使寮として使われている、日本海員掖済会函館宿泊所(元町、昭和3年築)を写した絵葉書などレアのものも何枚かあります。そちらも是非ご覧ください。
　また今回発表した絵葉書の画像ですが、出典先の当ブログの名前を掲載していただれば、営利目的のサイトでなければ使用は一向に構いません。　そういう事でここからは当時の古絵葉書をお楽しみ下さい。　★函館鶴岡町通り(現在の大手町)
写真右手に写るのは関根要太郎・山中節治の設計作品：不動貯金銀行函館支店(大正7年11月竣工)。

★函館銀座通り
大正10(1921)年4月の大火後、函館区の有力者や行政関係者の主導により建設された、コンクリート建築を主とした防火建築帯。昭和9(1934)年3月の大火で多くの建物は内部を著しくが焼失したが、修繕され引き続き使われる事になった。また北洋業業全盛の時代は、歓楽街として大いに賑わい〔東北以北最大のカフェ―街〕として大いに賑わった。その何軒かは令和の現在も現存している。上2枚の絵葉書は大正末に撮影されたもの。





★十字街の丸井今井百貨店函館店
こちらも大正末に撮影されたものと推測される。新築間もなくのドーム状の屋根を持つ、丸井今井百貨店が印象的。

★末広町十字街
こちらも大正10年大火後に撮影されたもの。左手に足場が組まれた工事中の建物は、金森一二堂(現本郷計測機)。右手には平成はじめまで現存していた松下毛皮店の姿が確認できる。



★末広町の風景

丸井今井百貨店の上階と、その前の電車通りから撮影したもの。写真左手に写るアールの付いた建物は、旧目貫商店(大正10年築)。設計は大正10年大火後函館で活躍した中村鎮(1890～1933)による。なお、このころ函館では中村が開発した、廉価で建てられる中村式鉄筋コンクリートブロック工法の建物が多く建てられた。しかし時代の流れと共にその多くは取り壊され。絵葉書に写る旧目貫商店(現北斗ビル)が数少ない現存作品となっている。



★大三坂下、末広町電車通りから
写真右手に写るのは、現存するヱビス商会。

★函館海産商同業組合事務所
建築家・関根要太郎+山中節治兄弟の初期の傑作の一つ。ユーゲントシュティール調の外観デザインは、当時の函館では一際美しい建造物だったと想像される。

★八幡坂下、末広町の電車通りから

写真右手に写るのが函館貯蓄銀行本店(施工：木田保造、大正15年12月竣工)。写真には写っていないが、この左手にはもう一つの函館の地場銀行で函館貯蓄銀行の系列会社だった、百十三銀行本店(設計：関根要太郎+蔵田周忠、施工：木田保造、大正15年11月竣工)が建つ。共に函館と縁の深い、木田保造(1885～1940)率いる木田組の施工により建てられた鉄筋コンクリート建築である。

★日和坂下、末広町の電車通りから

写真左手の建物と中央の時計台の付いた建物は、大正13(1924)年のこの付近で発生した火災後に再建された金森回生堂と、金森魁文舎。これまで日和坂付近に店舗を構えていた金森合名会社(金森森屋)だったが、大正13年で多くの店舗が焼失したのを機に、鉄筋コンクリート造の近代的店舗を再建した。魁文舎の隣には現在、函館市文学館として使われている第一銀行函館支店(設計：西村好時+八木憲一、大正10年11月竣工)の姿も確認できる。

★東濱桟橋そばの萬世ビル

函館の海運王・日下部久太郎(1871～1953)が大正6(1917)年ころ建てた商業ビル。鉄筋コンクリート造の豪華絢爛なビルだったというが、大正13年にこの周辺で起きた大火事で建物内を焼失。その後は規模を縮小され改修され、昭和30年代まで現存していたようである。

現在は日和坂の中腹に、日下部久太郎の函館邸が現存している。

★日和坂の日本海員掖済会函館海員宿泊所

日和坂に建つ隠れた函館の名建築。現在は病院の寮として使われているが、現在も竣工当時の姿をほぼ保っていることが分かる。

★区立函館病院外来診療棟

基坂の中腹に関根要太郎+山中節治兄弟設計により大正10(1921)年秋に竣工した病院建築。先の函館海産商同業組合事務所と共に関根・山中兄弟の初期の傑作の一つである。

★仲濱の小熊倉庫

当時、函館を代表する海産商だった小熊幸一郎が大正末に建てた、函館で初の冷凍設備を備えた鉄筋コンクリート造の倉庫。冷蔵倉庫としての役目はすでに終えているが、建物はまだ現存している。

★船見町の函館ロシア領事館

函館が北洋漁業の拠点だったこともあり、ロシア(カムチャッカ)方面へ漁に赴く日本人漁業家へのビザ発給のため、函館にロシア国の領事館が建設された。在日の建築家：リヒャルト・ゼールとゲオログ・デラランデの設計により明治39(1906)年に竣工。しかし翌年夏の大火で領事館が全焼し、明治41(1908)年竣工のこの領事館舎だった。当時の設計図と比較すると、当初の図面から変更それた箇所が幾つか見受けられる。

★函館競馬場観覧席

函館競馬場倶楽部により建られた鉄筋コンクリート造の観覧用のスタンド。設計は建築家・関根要太郎の実弟である山中節治が担当。東京以北最大の規模を持つ競馬場の施設だった。

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★図版・・・・筆者所蔵絵葉書コレクション(全ての図版)

★撮影・・・・2018年9月、2020年10月