函館市末広町の旧金森三星堂、旧金森一二堂(函館の建築再見2021)

◆旧金森三星堂、旧金森一二堂

　・・・・明治中期と大正期に建てられた、かつての金森の商店建築

　函館市末広町の十字街。北国らしい名が付けられたこのエリアは、函館の商業地帯の中心地だった場所で、今から20年ほど前までは大正後期や昭和9(1934)年大火後に建てられた中小商店が幾つか残り、とても風情ある一帯だった。

　しかし地域の大規模再開発がおこなわれ、函館市の企画局などが入居するアクロス十字街が落成してから、昭和の香り残るこの一帯も、平成の典型的な地方都市といった町並みに変貌してしまっている。

　

　更に近年では、長らく営業を続けていた洋装店があった場所には、函館とは無縁の幕末の志士の銅像が建てられ、その隣には大手コンビニの店舗が開店するなど、電停線路の分岐点以外は20世紀末まであった町並みを偲べるものは数少なくなっている。その中で十字街に残る数少ない歴史的建造物が、今回紹介する金森三星堂と金森一二堂だ。冒頭でご覧いただいた写真右手に写る建物が、旧金森三星堂で現在は大二物産、写真左手に写る建物が旧金森一二堂で現在は本郷計測機の店舗として使われている。

　その築年数は外観を見る分には判断しづらいが、旧金森三星堂が明治27(1894)年ころの竣工、旧金森一二堂が大正11(1922)年に竣工したものである。令和3(2021)年の段階で旧三星堂が築127年、旧一二堂が築99年を迎えるれっきとした歴史的建造物なのである。

　この2軒の建物、金森という名称からお察しのように、ベイエリアの金森赤レンガ倉庫でお馴染みの、初代渡辺熊四郎(1840～1907)が創業した渡辺合名会社の店舗として建てられたものだ。三星堂は砂糖・食料品を取り扱う商店、一二堂は書店などとして当初は使われていたという。

　これらの商店の施主は、明治末から昭和初期にかけて渡辺合名会社を統括していた、三代渡辺熊四郎(1864～1940)という人物。本名を林源太郎といい、函館の生まれ。明治12(1879)年に金森に入社し、明治26(1893)年に三星堂の経営を任されると同時に渡辺家に養子に入る。その間もなくに建てられたのが、現存する三星堂だったという訳である。外観は昭和9(1934)年の大火後に改修されたが、煉瓦造漆喰塗りの旧金森洋物店(明治13年築)の流れを汲む、防火袖(うだつ)を持つ洋風デザインの商店だった。

　また渡辺家に養子入りした林源太郎は、二代目渡辺熊四郎(1847～1916)の逝去後に渡辺熊四郎を襲名。その数年前には檀家総代を務めていた東本願寺函館別院(設計：九世伊藤平左衛門、施工：木田保造、大正4年築)を鉄筋コンクリート造で建設させるなど、耐火建築の建設を積極的におこなっていく。また大正10(1921)年の函館大火後は、火防設備実行委員会の副委員長を務めた。

　更にこれより3年後の大正13(1924)年8月の火災で焼失した金森魁文舎、回生堂、時計店に代わる近代的デパートメントストアを鉄筋コンクリート造にて建設(大正14年築、昭和5年増築)。これが平成31(2019)年に閉店した棒二森屋の前身となったのである。

　

　少し話が前後してしまったが、大正10年に起きた大火の翌年に鉄筋コンクリート造で建てられたのが、金森一二堂だった。当時の新聞記事を見ると大正11(1922)年11月に新築落成の広告が掲載されているので、この時期に竣工したことになる訳だ。なおこの広告では開店した場所について、「末広町四十番地、元のトコロ二」と記載されているので、以前の店舗が大正10年の大火で焼失してしまったと推測される。

　こちらも昭和9年の大火で被害を受け改修されているが、竣工当初は大正期に流行したセセッションスタイルの直線的なデザインの外観だった。詳しくは記事後半に掲載した当時の写真を参照して頂きたい。

　大正期、三代渡辺熊四郎率いる渡辺合名会社は、東本願寺函館別院の施工を手掛けた東京の土木請負師・木田保造(1885～1940)に多くの建築施工を依頼しており、金森一二堂も木田保造率いる木田組の設計・施工で建設されたと推測される。ちなみに金森洋物店の隣に大正11年に建てられた森屋の店舗も、木田組の設計・施工で建てられたのだが、竣工当時の一二堂と相通じるデザインということを踏まえると、一二堂も木田組が建設に関与したという事になるだろう。

　なおこの時期の木田組は、元町カトリック教会の再建工事、丸井今井百貨店函館店の新築工事など、大正10年大火後の函館において数多くの建築施工を手掛けていた。

　渡辺合名会社(金森)の店舗として、当時函館一の繁華街である末広町十字街で営業をおこなっていた金森三星堂と一二堂。しかし昭和9年3月21日に起きた大火では、壊滅的な被害を受けたようだが倒壊を免れている。そして昭和10(1935)年の春には木田組の施工により復旧工事を実施。共に火災発生時を考慮した、より開口部を少なくした作りに変更されている。また木田組による復旧工事後の姿が、その後80数年に渡り引き継がれることになったのである。

　一見すると何の変哲のない建物のようにも見えるが、函館の町の歴史を雄弁に語ることが出来る隠れた名建築。127年と99年という長い間、この町で生き続けてきた2軒の商店建築を保護対象にして、この先も町の歴史と景観を物語る存在にして欲しいものである。

◆旧金森三星堂(現大二物産)

　◎設計：不詳

　◎施工：不詳

　◎竣工：明治27(1894)年ころ

　◎構造：煉瓦造モルタル補強2階建て

　◎改修施工：木田保造(木田組)

　◎改修竣工：昭和10(1935)年

　◎所在地：函館市末広町10-3

　
◆旧金森一二堂(現本郷計測機)

　◎設計：木田保造(木田組)?

　◎施工：木田保造(木田組)?

　◎竣工：大正11(1922)年11月

　◎構造：鉄筋コンクリート造3階建て

　◎改修施工：木田保造(木田組)

　◎改修竣工：昭和10(1935)年

　◎所在地：函館市末広町10-3

◆三代渡辺熊四郎と金森洋物店と森屋
こちらも度々紹介させていただいているが、大正12(1923)年に刊行された〔函館市制実施記念写真帖〕より。右手の人物が三代渡辺熊四郎。この頃は森屋百貨店が建てられる前で、写真右手の洋物店、森屋、道路向かいの魁文堂、時計店、回生堂などで営業をおこなっていた。◆大正12年撮影の金森三星堂

昭和9年大火前は金森洋物店に似た外観だったことが分かる。昭和9年大火を機に大規模改修がおこなわれた。

◆大正12年撮影の金森一二堂

竣工もない金森一二堂だが、この年に建てられた森屋ビルに似たデザインになっている。そのような事を踏まえると木田保造率いる木田組が設計・施工を手掛けたのだろう。

❖図版・・・・「函館市制実施記念写真帖」大正12年、上の3点

★金森一二堂の新築落成広告

〔函館毎日新聞〕大正11(1922)年11月4日付より。いちばん右側が一二堂の広告にあたる。

❖図版・・・・「函館毎日新聞」大正11年11月4日

金森赤レンガ倉庫内に飾られた旧金森洋物店の錦絵。現在郷土資料館として使われている洋物店のほか、市内各地には戦前に建てられた金森の諸施設が現存している。

★十字街電停前にあった〔ちはるや〕

平成21(2009)年3月に撮影。本編からは脱線するが、函館市電・十字街の電停前にあったのが、この洋品店。鉄筋コンクリート造3階建てで窓を少なめに配置した外観や、防火シャッターなど、昭和9年大火を教訓にした完全防備の商店建築だった。この建物は間もなく解体され、跡地には函館とは無縁の幕末の志士の銅像が置かれている。

平成15(2003)年11月撮影。大規模改修工事がおこなわれる前の旧丸井今井百貨店函館店(～函館市末広町分庁舎～函館市地域交流まちづくりセンター、大正12年築)の4階より撮影したもの。旧金森三星堂隣の北海道銀行の支店が後方に建て替えられる前で、周辺の雰囲気はかなり違っている。

★大正11年の十字街を写した絵葉書

筆者所蔵の絵葉書コレクションより。この頃は大正10年に函館で起きた大火の復興途中だった頃もあり、足場の組まれた建設中の建物、新築間もない建物がよく目立っている。写真左手に建設工事のため足場が組まれた金森一二堂の姿が確認できる。

❖図版・・・・筆者所蔵絵葉書コレクション

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★参考文献・資料

「函館毎日新聞」

「函館市誌」佐藤勘三郎編、函館日日新聞社、昭和10年

「木田保造」木田組編、昭和15年

★撮影・・・・2003年11月、2009年3月・10月、2016年10月、2018年9月、2020年10月