埼玉県朝霞市立朝霞第一中学校(建築家・関根要太郎作品研究)

◆埼玉県朝霞市立朝霞第一中学校　・・・・昭和32年竣工、建築家・関根要太郎設計による戦後モダニズム校舎

　本日、2月20日は埼玉県秩父市出身で、大正中期から昭和30年代の前半にかけてモダンな作風を武器に活躍した、建築家・関根要太郎(1889～1959)の62回目の命日である。一昨年は関根晩年の作品である埼玉県立上尾高等学校(昭和33年築)、昨年は埼玉県戸田市の市立戸田第二小学校(昭和33年築)、埼玉県上尾市の上尾市立中央小学校第二校舎(昭和34年築)を紹介させていただいた。
　そして本年は筆者の暮らす埼玉県朝霞市にあった、朝霞市立朝霞第一中学校(旧朝霞町立朝霞中学校、旧所在地：幸町一丁目)を紹介させていただきたい。この校舎は当時60代後半だった関根要太郎の設計により、昭和32(1957)年11月に竣工したものである。　当時の埼玉県内では屈指の規模を誇り、モダンなデザインが印象的な校舎だったが、平成18(2006)年春に旧校舎の近所の溝沼に新校舎が落成したのに伴い、この年の夏に関根設計の校舎は、約半世紀に渡る学びの場としての役目を終えている。今回は過去に筆者が撮影した朝霞一中の中心に、晩年の関根作品の考察をおこなっていきたい。
　昭和22(1947)年から始まった義務教育6・3年制の施行を機に発足した朝霞町立中学校。当初は黒目川沿いの膝折町にある町立小学校(現在の朝霞市立朝霞第一小学校)を校舎を間借りし、新制中学としてスタートした。　しかしそれでは手狭という事になり、米軍朝霞キャンプに近い幸町の松林を新たな学校の敷地に選定し、米軍で使用しているブルトーザーで松林を一日がかかりで整地をおこなう。更に戦前、陸軍士官学校の校舎として使われていた木造平屋の建物を2棟を譲り受け、同地に再建。昭和23(1948)年から中学校はこの場所に移転した。
　また昭和20年代後半になると、その校舎では児童数の増加には対応できず、新たな校舎建設について町関係者の間で盛んに議論がおこなわれるようになる。そこで当時の朝霞町長で、朝霞伸管(現朝霞伸管工業)社長も務めていた錦谷新之助は、昭和30(1955)年に中学校の新校舎建設のため私財1千万円を寄付。更に子供が町内小中学校に通う各家庭に、新校舎建設資金捻出のため毎日10円の貯金を奨励する。
　そのような町ぐるみの努力が県当局や文部省関係者に認められ、中学校新校舎の建設資金1億円の起債に朝霞町は成功。この他に県からの補助金を受けることになり、昭和31(1956)年には朝霞中学の新校舎建設プロジェクトが本格的にスタートしたのだ。　そして朝霞中学校新校舎の設計者として選ばれたのが、当時60代後半の超ベテラン建築家となっていた関根要太郎だった。ちなみに昭和33(1958)年に関根が作成した経歴書には、昭和32(1957)年以前の仕事して〔朝霞町立中学校校舎及講堂〕との記載がされている。

　以前にも紹介したように開戦を機に埼玉の浦和に住まいを移していた関根は、昭和27(1952)年に埼玉県桶川町立小学校の木造校舎を通常の半額の予算で設計したのを機に、建設資金の捻出に苦しんでいた県内関係者からの注目を浴びる。そしてそれ以降は、上尾、羽生、両神(現秩父市)、野上(現長瀞町)、大滝(現秩父市)、戸田、鳩ケ谷(現川口市)の学校校舎、鉄筋コンクリート造や木造などの町役場や公共施設の設計を手掛けていた。今から約20年前に関根の晩年を支えた奥様に伺った話によると、埼玉県知事や県関係者の仲介により、朝霞中学校の仕事を手にしたとの事だ。
　昭和31(1956)年から本格的な工事が始まった、朝霞町立中学校の校舎。第1期工事は鉄筋コンクリート造3階建て20数部屋の教室を持つメインの校舎棟、および鉄筋コンクリート造2階の附属棟の校舎、校舎南西側に25メートル・ブールの建設工事がおこなわれ、昭和32(1957)年10月に竣工。同年11月12日に入校式が挙行される。更に体育館の建設工事はそのころ開始され、鉄骨造の体育館が昭和33(1958)年の3月に竣工。翌月から使用が始まった。なお体育館の設計図は、さいたま市浦和区の埼玉県立文書館に、〔関根建築研究所〕という刻印がされた図面が所蔵されているので、関根が設計を担当したと断定してほぼ間違いないだろう。
　そして関根が設計した校舎は、戦後標準的に建てられた公立学校の王道をいくような県内屈指の大規模校舎となった。校舎全体のシルエットの美しさは、関根の設計によりこの3年前に竣工した、埼玉県羽生市立手子林小学校(昭和29年築)には劣るが、堅苦しさを感じない親しみやすいデザインになっている。　特に建物東側に設けられた階段室は、一面ガラス張りのとてもモダンなデザインで、解体前は中学校のすぐそばを通る城山通りからでもよく目立つものだった。恐らく町中からでもよく目につくことを前提に、関根は階段室に特にモダンなデザインを施したと想像される。
　関根設計のモダンなマンモス中学校舎解体から、今年で15年。その跡地には市立第四小学校のゆとりのある校舎が、現在建てられている。昭和30年代前半、新築間もない朝霞中学校に通っていた筆者の義父の話によると、白亜のコンクリート校舎は美しく、最新の設備はどれもが新鮮だったという。そのような戦後復興の希望が込められたのが、関根設計の校舎だったのである。竣工当初、朝霞の高台に建てられたモダンな校舎は、とても美しいものだったに違いない。　本日は今から十数年前に筆者が撮影した写真と、一中の創立60周年史をに掲載された写真を中心に、朝霞一中の旧校舎の様子をご覧いただきたい。もっと撮影すべきだったと悔やまれる、関根最晩年の代表作である。
◆朝霞市立朝霞第一中学校校舎(旧朝霞町立朝霞中学校)　◎設計：関根要太郎+山中眞三郎(関根建築事務所：関根建築研究所)　◎施工：不詳　◎竣工：昭和32(1957)年11月6日　◎解体：平成18(2006)年8月　◎構造：鉄筋コンクリート造3階建て、一部2階建て　◎旧所在地：埼玉県朝霞市幸町1-6-9

◆朝霞市立朝霞第一中学校旧体育館

　◎設計：関根要太郎+山中眞三郎(関根建築事務所：関根建築研究所)

　◎施工：不詳

　◎竣工：昭和33(1958)年4月8日

　◎解体：昭和57(1982)年

　◎構造：鉄骨造、一部鉄筋コンクリート造平屋

　◎旧所在地：埼玉県朝霞市幸町1-6-9

❖図版・・・・埼玉県立文書館所蔵

★朝霞第一中学校体育館の完成予想図

こちらは関根要太郎の晩年を支えた、要太郎の実弟で建築家の山中眞三郎(1897～1977)のお孫さんから、2021年11月に提供して頂いた写真。当時としてはとてもモダンな体育館だったことが伺える。

ちなみにこの時期、関根要太郎は桶川中学、戸田中学の体育館の設計を手掛けた。

❖資料提供・・・・山中眞三郎の孫にあたるM様

ガラス張りのデザインが印象的な階段室。この校舎のもう一つの顔とも言える部分。
今から15年前、解体業者の方に無理なお願いをして敷地内で撮影させて貰ったのが、今回の写真。植栽は切り落とされ、ブルトーザーが校庭に停まっているなか、朝霞第一中学校旧校舎最後の姿を写真に収めた訳である。
★竣工間もなくの朝霞第一中学校
上の写真は体育館が起工する以前の昭和32年秋に撮影されたもの。下の航空写真は昭和30年代後半に撮影されたものと推測される。関根設計の体育館は短命で昭和50年代半ばに建て替えられている。★校内にあった錦谷新之助の銅像
本文でも紹介したように朝霞町長の錦谷新之助の寄付と町民への呼びかけにより、朝霞中学の新校舎建設運動は急速に展開。昭和32年には校舎竣工の運び地なった。その偉業を後世に伝えるため校舎内には錦谷新之助の銅像が置かれ、平成18(2006)年の新校舎竣工後も移転した中学内にこの銅像が移築されたという。

★解体直前の朝霞一中の全景

2000年前後に撮影されたと思われる朝霞一中の全景。奥に写るのが関根設計の校舎。体育館の増築に伴い、2階建ての付属棟校舎が縮小(改築)されている。

ちなみに同中学校の卒業生と言えば歌手の本田美奈子(1967～2005)がいる。現在、大相撲で大活躍中の関取・大栄翔(1993～)も同中学校の出身だが、新校舎竣工後に入学しているので、関根設計の校舎では学んでいない。

❖図版・・・・「創立六十周年記念誌」「学校案内」朝霞第一中学校編

★朝霞第一中学校体育館の設計図

さいたま市浦和区にある埼玉県文書館に所蔵されている、朝霞一中の初代体育館の設計図。右下には関根建築研究所の刻印と、昭和34年9月の製作サインがされている。この前年に体育館は竣工しており、関根もこの年の2月に亡くなっているので、関根建築事務所の旧メンバーが提出用に改めて作ったものとも想像される。

なお関根設計の体育館は手狭だったようで、昭和50年代半ばに改築されている。

❖図版・・・・「埼玉県立文書館所蔵」

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★以前に発表した関根要太郎の晩年(戦後)の設計作品の研究レポート

★朝霞第一中学校の跡地朝霞一中の移転、旧校舎の解体後、跡地には市立朝霞第四小学校の校舎が建設され、平成18(2000)年に竣工している。

以前あった横長の朝霞一中の校舎とは違い、西側に校舎を密集させるスタイル。ユニバーサルデザインな校舎もとても好感が持てるものである。

朝霞中学校時代の名残といえば敷地脇に植えられた桜の老木程度で、校内は四小移転に際しすっかり様変わりしている。

朝霞は黒目川に流れに削られた河岸段丘の町。そのような段丘の坂道を上っていくと、朝霞第一中学校の旧校舎はあった。
黒目川沿いの畑地より朝霞第一中学校の跡地を見る。

朝霞一中の近所はかつて米軍キャンプ(キャンプ・ドレイク)があったが、日本返還後その一部の土地は使用されず、自然豊かな緑地帯となってる。

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★参考文献・資料

「創立六十周年記念誌」朝霞第一中学校編、平成18年

★撮影・・・・・2004年月、2006年月、2020年5月