埼玉県草加市立草加小学校西校舎(大正モダン建築再訪)

◆草加市立草加小学校西校舎
　・・・・大正15年竣工、埼玉初の鉄筋コンクリート造小学校舎


　新型コロナウイルスの問題で大騒ぎとなっている今週末、マスク着用で出掛けたのは埼玉県の南東部に位置する草加市だった。武蔵野台地の東端に位置する我が家から、JR武蔵野線に乗り武蔵野台地を下り、例の如くかなり電車が汚れ切ってしまっている東武伊勢崎線を乗り継ぐこと約40分で、草加市の玄関口である草加駅に到着した。約10年振りの草加訪問である。

　草加は日光街道の二番目の宿場町として栄え、綾瀬川をはじめ中小の河川が入り組んでいる低地という立地を生かし、かつては稲作が盛んであった。ちなみに草加煎餅は、この土地が米どころであった事を物語る名産品である。その水田には高度成長期に団地や宅地が建てられ人口が増加。現在は県内を代表する市へと発展を遂げている。
　そして草加駅到着の直前、高架複々線を走る東武伊勢崎線の車内から、重厚ながら可愛らしい小振りのコンクリート造校舎が見えてきた。これが今回紹介させていただく、草加市立草加小学校の西校舎である。

　草加小学校は明治5(1872)年の創立。明治30(1897)年に現在地に移転してきた。また大正7(1918)年には木造2階建ての校舎を新築させるも、大正14(1925)年3月の火災でその校舎は全焼してしまう。そこで鉄筋コンクリート造における新校舎建設が検討され、4万8千円の予算でコンクリート造2階建て校舎の建設が決定した。
　またこのころ、関東大震災後の復興事業の一環で東京市内に数多く建設されていた、鉄筋コンクリート造の小学校舎は、予算が30万円後半から40万円代だったのに対し、僅か10分の1ほどの予算。そういう事で6教室という、小規模な校舎が建設されたのである。これが埼玉で初の鉄筋コンクリート造校舎となった。

　そして草加小学校の設計は地元草加出身の建築家・大川勇(1891～1963)、施工は地元草加の高梨常三郎(高梨建設)が担当することが決定。大正15(1926)年に起工し、約半年の工期を経て同年の9月15日に竣工した。
　大川勇は草加の旧家・大川家で生まれ、草加尋常小学校、旧制柏壁(春日部)中学校を卒業後、早稲田大学に入学。大正7(1918)年の卒業後は東京の建築事務所での勤務を経て、岐阜県庁舎、早稲田時代の恩師・佐藤功一(1878～1941)設計の群馬県庁舎の建設に参加。その頃に手掛けたのが地元草加の小学校舎だった。

　大川勇設計による草加小学校舎は、通り側にあたる校舎西部分に廊下を置き、東部分に教室を置くという構成になっている。当時の写真を見ると、大川設計のコンクリート校舎を中心に他の校舎や体育館を囲む作りになっており、この構成が現在まで引き継がれている。
　なお大川設計の校舎は昭和58(1983)年より、草加市立の歴史民俗資料館に転用。外観はともかく内装は大幅に改装され、竣工時の面影を残す箇所は数少ない。しかし教室の間取りは昔のままで、一部屋のみだが往時の姿が復元されている。

　埼玉県初の鉄筋コンクリート製校舎となった、草加小の竣工から3年後にあたる昭和4(1929)年に、大川は地元草加に設計事務所を開設。埼玉・群馬を中心に小学校の設計を数多く手掛けていくことになる。なお大川勇研究の第一人者である、中島清治氏の著書によると、その数は昭和20(1945)年まで56校にのぼったという。その全部が木造校舎だったそうである。
　埼玉における大川設計の学校建築は、草加のほか秩父郡横瀬町の町立横瀬小学校(昭和7年築)が現存している。こちらは木造2階建てで、竣工から88年経った今も現役の校舎として、手直しをしながら大切に使われ続けている。

　以前にも紹介させていただいたが、今から10数年前に埼玉出身の建築家・関根要太郎(1889～1959) の戦後(晩年)の埼玉における活動を調べ始めた頃に出会ったのが、中島清治氏の著書〔埼玉の木造校舎〕であり、関根と同じく埼玉出身の建築家・大川勇の存在だった。
　関根は戦後埼玉において、10数件の学校建築を手掛けていたが、昭和30(1955)年あたりを境は埼玉県内では公立学校の建築ラッシュを迎えていた。その頃、還暦を過ぎた大川勇は、どのような活動をおこなっていたかも気になる点である。意外なところに謎解きのヒントが転がっているような気もするのだが。

　10年振りの草加小学校の見学だったが、小振りながらもその風格溢れる姿は以前のまま。その存在はあまり知られていないようだが、埼玉が誇るべき名建築の一つではないかと思う。館内は少し散らかった感もあるが、是非一度訪れた欲しい素敵な歴史的建造物だ。

◆草加市立草加小学校西校舎(草加市立歴史民俗資料館)
　◎設計：大川勇
　◎施工：高梨常三郎(高梨建設)
　◎起工：大正15(1926)年3月1日
　◎竣工：大正15(1926)年9月15日
　◎構造：鉄筋コンクリート造2階建て
　◎所在地：埼玉県草加市住吉1-11-29

　　❖国登録有形文化財

館内は草加関連の資料展示でいっぱい。

訪問時が2月下旬だったこともあり、館内は雛祭りの企画展示がおこなわれていた。

展示室2階には草加小学校と設計者・大川勇についての展示もされていた。

◆埼玉県秩父郡横瀬町立横瀬小学校(設計：大川勇、昭和7年築)

関根要太郎の故郷である秩父市の隣町・横瀬に建つ町立小学校。草加小学校以降、大川勇は埼玉県内で数多くの学校建築の設計に携わったそうだが、確認できる現存作品の一つである。この時代らしい木造校舎だが、シャープな作りや細部のアールデコ風の装飾に大川のセンスの良さが伺える。

この校舎、度重なる修繕工事を経て、町の宝として大切に使われ続けている。

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★参考文献・資料

「埼玉の木造校舎」中島清治氏著、さきたま出版、平成2年

「草加市立草加小学校ホームページ」

「とーよみnet：旧草加小設計の大川勇企画展8月21日まで開催」東武よみうりweb版、平成23年

★撮影・・・・・2016年11月、2020年2月